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眠れない夜の癒し系恋愛小説「地下鉄に乗って」蒼井氷見 #超短編

信号が青に変わる。

歩き出す。
銀座四丁目の交差点を、和光から三越側へ。私は迷わず、松屋の地下へと向かう。

赤坂トップスのチョコレートケーキひと箱を買って、本当にそれだけを買って、銀座をあとにする。信号待ちをしているとき、

-クリスマス一週間前の週末、つまり今日みたいな日は、ディズニーランドが空いているらしいよ。

という会話を、誰かがしていた。

今日は私にとって、ひと足早いクリスマス。
ディズニーランドも、豪華なホテルもレストランディナーもないけれど、仕事帰りの彼が、私には、いる。

トップスのチョコレートケーキを、仔犬のように無邪気に平らげるであろう年上の彼の、独特なあの泣きそうな笑顔を想像し、地下鉄の階段を下りながら、私はひとり、ほくそ笑む。

生あたたかい地下鉄の風。
頬にかかる髪。

トナカイの代わりに、彼の住む街行きの地下鉄が滑り込んでくる。

この世でいちばん大切なプレゼントを抱え、さあ、彼の元へ。(了)

(蒼井氷見「地下鉄に乗って」@2006)

あとがき
自分(たち)らしく。がいちばんですね。(蒼井氷見)

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