記事一覧
コンパリソンを脱ぎ捨てて(ショートストーリー)
1、言えない悩み
私は、思いを口にしたことを後悔していた。
夫に悪気がないのは分かっている。私にも子供にも優しくて、家の中は笑顔が絶えず、この幸せがずっと続いてほしいと思う。でも外に出れば、世界は変わる。
私、保田枝美(やすだ えみ)は、夫の圭介(けいすけ)と、4歳になる息子の幸助(こうすけ)の三人暮らし。裕福とは言えないが、夫も私も物欲があまりないこともあり、生活に支障はない。だから気にする
あなたの「できる」を 誰かのために(ショートストーリー)
-1- 喪失
真白由舞(ましろ ゆま)、結婚。
見出しを見たとき、俺はスマホを落としそうになった。
仕事帰りの電車の中、疲れ切った顔が並んでいる中で、俺の顔だけは異色の、絶望に染まっていただろう。
真白由舞は、デビュー当時はアイドルっぽく売り出していたが、最初の曲から作詞を自分で担当。以降10年、先月のラストライブまでに発表した111曲の作詞を、すべて自分で手掛けた。ラブソングよりも、人の気
一つの世界から世界の一つに(ショートストーリー)
-1-
高校を卒業する今日、私は校舎の前で振り返って、屋上を見上げた。
高2の春、ゴールデンウィークが明けて一週間経ったあの日、私の人生は終わっていたはずだった。
「卒業おめでとう、相澤」
頭の中に、これまでのことが浮かんできたとき、名前を呼ばれた。
「笠原先生……!」
私は駆け寄って、抱きつきそうになって、慌てて手を引っ込めた。
「思い出してたのか?」
「うん……」
「よく、がん
第11話 クロスオーバー【口裂け女の殺人/伏見警部補の都市伝説シリーズ】小説
■第11話の見どころ
・伏見、みづき(口裂け女)と対峙
・記憶と遭遇
・常磐の暴走
・見えてきた真相
第1話を読んでみる(第1話はフルで読めます)
-1-
「谷山、寄り道だ」
伏見は言った。
監視していた茂田貴久が動いたという連絡を受けて、伏見と谷山は急ぎ、車を出した。監視していたチームが、茂田の車を尾行し、その情報を受けながら、伏見たちも車を走らせていた。
「今の電話、雨草奈津美で