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コンテンツ産業:個人的覚書

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あくまで個人のメモとして。
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記事一覧

最初期の映画の画像工学的特性

最初期の映画の画像工学的特性

「映像の世紀」という名作ドキュメンタリー番組の存在により、日本のネット界隈では最初期の古い映画の画質を再現したいという需要が多い。そこで、下記のリュミエール兄弟の映画を参考として、初期映画の画質を画像工学的側面から簡単に解説していく。

フレームレート一般に昔の映画はコマの時間密度(フレームレート)が少ない。定格が決まってからも24FPSだったが、それ以前の手回しカメラの時代となると、機械の精度の

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酒井いぶきさん総評:30年前を「発掘」しても創作ではない

酒井いぶきさん総評:30年前を「発掘」しても創作ではない

twitter集合知により、酒井いぶきさんが「自分が始めた」として主張しているテプラをカラフルに埋めていく技法は、実のところ1980年代テプラ→1990年代ルシール→2000年代マスキングテープと続く「テープデコ文化」の系譜に属するもので、2010年代に入ってから1990年代のルシールに先祖返りしたと評すべきものであると整理されつつある。

また、筆者も指摘したが、彼女のテプラの演出スタイルも目新

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ラフォーレのテプラ芸パクリ騒動、ちょっとした覚書

ラフォーレのテプラ芸パクリ騒動、ちょっとした覚書



ラフォーレグランバザール2020年広告

最近出されたラフォーレの広告について、「パクリ」議論などが提起されているようだ。上記の広告は、テプラの大量使用をモチーフとしたうえで、印刷屋がタダで公開している「見やすい広告のコツ」レベルのデザインの基本に忠実に、最も伝えたいメッセージ「ラフォーレ グランバザール 1月23日~27日」に的確に視線誘導しつつ周囲を装飾的テプラで囲うデザインとなっている。

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異世界転生チート&ハーレム型大衆小説は100年の歴史がある分野です

異世界転生チート&ハーレム型大衆小説は100年の歴史がある分野です

※2019年に「チート展開小説の系譜」というタイトルで執筆した記事ですが、2022年に分かりやすさ重視で改題しました

典型的イメージとしての異世界チートもの近年、「テンプレラノベ」「異世界転生もの」「なろう系」(Web小説サイト「小説家になろう」にちなむ命名)という呼び方である種の小説作品が総称されることがある。これらの呼び方は、安易でご都合主義といった非難する意味合いを持たされることが多く、お

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案外解決が難しい「電子書籍の売上の速報値が入らない」問題

《編集者「都会の大きな書店で1週間以内に紙の本を買わないと打ち切りです。電子書籍?出しません、売上の勘定に入れません」ループに疲弊した読書家達の溜息》というのを読み、何とかならないかとちょっと考えてみた結果をだらだらと垂れ流していきます。

話の大前提大前提としては、上記まとめにあるこのnoteを参照してください。

紙の書籍は取次から週単位で売上情報が入ってくる一方で、電子書籍は特に取次を挟むと

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著作とプライベートの狭間:狭義の同人について

 最近、picrewという画像素材を組み合わせて好みの絵を作るコラージュソフトウェアを利用した「強い女メーカー」を紹介した記事が著作権侵害であるとして内容証明を送られたとする事件があった[1]。私は法律の専門家でもないし実際に裁判したわけではないので断言はできないが、仮に紹介記事が「数千文字の文字数の中に1~2のスクリーンショットを使っただけであり、数千パターンはあるソフトウェアの出力結果の1~2

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「出版社の搾取」の嘘と実相、作家が幸せになる方法(後半)

「出版社の搾取」の嘘と実相、作家が幸せになる方法(後半)

前半では、採算ラインを超える確信がない作家さん――新人さんや売れないベテランさんは、出版社との契約で不利と感じられる条件であることが多いものの、それらは必ずしも出版社の横暴ではない、ぎりぎりの作家さんは何をやっても苦しいのだ――という話をしました。後半では、ぎりぎりの作家さんがどうにか出版していく話をします。

知的財産に属するもの――創作はその典型――で食っていくということはなかなか難しいもので

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「出版社の搾取」の嘘と実相、作家が幸せになる方法(前半)

「出版社の搾取」の嘘と実相、作家が幸せになる方法(前半)

この数年、出版社は作家から搾取している、出版社の横暴が無ければ作家はもっと報われるのだ、というような話はよくされます。編集の横暴というのも聞くでしょう。吾妻ひでお「失踪日記」の秋田書店編集の下りなどはよく紹介されるところです。

しかし、出版社がそれだけ嫌なら、代わりはいくらでもあります。日本の出版社は4000あると言いますし、作家自身が出版社を作った実例もあります。今なら高コストの投資をしなくて

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