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【治療家辞めたい】福祉の仕事からヘッドハンティングされた話
みなさんこんにちは。
北海道若手治療家コミュニティの
花田隼人(@hokkaido_wakate)です。
花田にも、
柔道整復師を辞めていたかもしれない
ターニングポイントがありました。
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読者の中には「治療家業界」から
離れるかどうか考えている方も
いらっしゃるかもしれません。
転職の参考になればと思い、
花田の体験談を
ここに書き記させていただきます。
花田は一度、
他業種からヘッドハンティング
されたことがあります。
その経緯や中身、
他業種を見た感想、
現在も治療家をやっている理由。
そんな内容をお話しします。
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▶︎治療家として感じた将来への不安
「この仕事向いていないのかもな」
そんな思いがふと芽生えたのは
業界4年目の2020年でした。
当時、花田は治療家人生で初めて
店舗の院長を任されたころでした。
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当時受け持った院は
あまり経営的な状態が良くなく、
いちから顧客基盤を形成し、
院の風土を変えていく、
抜本的な改革が必要な状況でした。
年月をかけた
患者層の入れ替わりのなかで
ビジネスモデルの転換を
求められていたといえます。
ですが、
なかなか成果も上がらない中で、
施術によって
かえって症状が悪化してしまったり、
自分の未熟さゆえに
クライエントからクレームをいただいたり、
当時一緒に働いていた
スタッフとの関係性も良くなかったりと、
僕の仕事に対するモチベーションも
だんだんと薄れていった時期でした。
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そんな、
「たいして役にも立たない」くせに、
「この環境でなければもっとできるはず」
という根拠のない過剰な自信と、
こんなに上手くいかない仕事を
残りの人生で続けていけるのか?
という将来に対する漠然とした不安から、
「他社や他業種を経験してみたい」
というぼんやりとした気持ちが
次第に心の中で存在感を増し始めました。
▶︎利用した転職サイト
組織に貢献できもしないのに
自信だけはそれなりにあり、
なおかつ環境のせいにしたい自分にとって、
「ヘッドハンティング」
という言葉は非常に魅力的でした。
何か、
カッコいいじゃないですか(笑)。
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自己都合で会社を退職して
次の就職先を探すというのは、
自分という人材を
買ってくれるよう売り込んで、
“お願いしに回る”ということです。
しかし花田は自分のことを
「管理職を任されるくらいにはデキる人材」
と勝手に考えていたため、
「君はウチでならもっとデキるよ」と
評価されて“選ばれる”、
そんな出会いに憧れていました。
もう本当に安易な考えだったと思います。
そうして、
ハイクラス向けの転職サイト、
「ビズリ○チ」に登録することになります。
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「ハイクラス転職」を謳う
その転職サイトには見合わない、
自分のわずかな年収を入力し、
4年の業界歴で行ってきた
工夫や実績、治療に対する考え方を書いて、
オンライン上の
履歴書として公開しました。
▶︎履歴書作成時の感情
このとき、
履歴書を書く作業が
とても楽しかったのを覚えています。
自分が行ってきたことを、
美化して賞賛できるからです。
リピート率が●●%。
配属先の業績を●●%UPさせた。
他人がやらないこんな行動をした。
そこには
「自分が誰かに認めてほしかったこと」
がセルフでズラズラと書かれていきます。
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当時の自分に対して今では
「甘い考えだったな」と感じるものの、
そんな実体験を踏まえると、
部下に対して「承認」の言葉を
日ごろから伝えておくことが
いかに大切か、今では分かります。
「ビズリ●チ」にどれだけの
接骨院経営者が登録しているのか、
どれだけの「元柔道整復師」を採用したい
他業種経営者がいるのか
全く期待していませんでしたが、
当時は登録をした後
ちょっとだけワクワクしていました。
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転職サイトに登録したユーザーは、
運営者にとって「新規顧客」といえます。
その新規顧客に対して
「飽きさせない」ために、
自動(かどうかは分かりませんが)で、
「転職相談員」の方からの
営業メールが立て続けに届きます。

●●業界、●●業界へのご紹介を強みとしています!もしよければオンラインでの転職面談をさせていただきます!
…といったメールです。
しかし僕も
そこまでして転職を
強く希望していたわけではないため、
この類のメールは
基本的に無視していました。
そんな幽霊部員のような活用を
1ヶ月ほど続けていたころのことでした…。
▶︎ヘッドハンティングのメール内容とは?
「株式会社■■■■から
プラチナスカウトが届きました」
そんな書き出しのメールが届いたのは、
転職サイトに登録した1か月後でした。
何だろう?
と思って開いてみると、
初めまして。
株式会社■■■■の代表取締役をしております、××と申します。
貴殿のご経歴を拝見し、弊社が求める高い可能性を感じたためご連絡させて頂きました。
・
・
・
…という感じのDMが届いていました。


まったく期待していなかった、
興味本位で登録した転職サイトで、
すぐに「一社単独」で
お声掛けいただけるとは
予想もしていなかったので、
目を疑ったのと同時に、
心臓の鼓動が高まりました。
「転職サイトに登録をしたら
企業からスカウトが来た」
…なんて
会社の誰にも言えないので、
仕事の昼休憩中に、
ひとり心の中でざわざわしつつ、
そばを食べながら返信をしたことを
いまでもはっきりと覚えています。

今回スカウトをもらえたのは、
「就労支援事業所」という
障害をもつ方が社会復帰するための、
職業訓練をサポートする会社でした。
自分にはまったく縁のない
世界に感じていたため、
「他業種からオファーが来た俺スゴイ」
くらいにしか考えていませんでした。
▶︎何を評価してもらえたのかを聞く
僕の中では
知らないことが始まる不安よりも、
「評価してもらえた」という
嬉しさが若干勝っていました。

DMには、
「ご経歴を拝見し、
弊社が求める高い可能性を感じた…」
と書いてあったことで、
ちょっと浮かれていたわけです。
少しの好奇心と
少しの怖いもの見たさに、
その担当者にDMで
「ちなみにですが、
私の、どの経歴について、
ご興味を持っていただけたのですか?」
とメールを送ってみました。
すると翌日返信が届き、
こう書いてありました。
「仕事に対する考え方や姿勢が、私の考えと近いものがあると感じました。」

これを読んで
僕は少しがっかりしてしまいました。
いや、期待していた
自分の方がバカだったのですが。
僕は履歴書に、
“他業種の人が分かるような仕事の考え方”
を書いていなかったのです。
例えば、
・普段の問診の考え方
・施術で気を付けていること
・扱える技術や知識
そういった
「臨床らしいこと」を書いていました。
とてもではないですが、
全く整体の現場になじみのない人が
「共感」まで到達できるとは思えません。
僕はその返信を見た時に
「とってつけた建前のコトバ」だと
すぐに察することができました。
▶︎社内見学の体験談
しかし、
せっかくいただいたお話です。
まあ、ここで転職することは無いな!
…とは思いつつ、
「社会勉強」だと思って、
休日、その会社へ見学に行きました。

こうして記事として
みなさんに向けて書いているとおり、
後々自分が語れる経験をしてこよう
という気持ちで足を運びました。
街の中心部の
集合ビルの中の1フロアが事務所でした。
集合ビルといっても
エントランスがガラス張りの
高級目なマンションのような外観です。
ぴっかぴかのエレベーターで上階へ上がると、
「三ツ星ホテルかよ!」という
広さと明るさがある廊下が目前に登場。

通路の端から端まで敷かれた長いカーペット。
「何個社長室があるんですか?」
と尋ねたくなるような重厚な扉の数々。
そして廊下のまた静かなこと。
空調の回転音も全くせず、
シンと静まり返っていて、
フロアの部屋からは
喋り声の一つも漏れてきません。
そんな異世界空間に気圧されていると、
お高そうなスーツに身を包んだ
30〜40代くらいの男性が登場。
黒縁メガネにツーブロックの
イケオジ系の代表とご対面です。

こちとら新卒の頃から持っている
ただのリクルートスーツの若造です。
とても丁寧に
今日の流れについて案内されますが、
もう雰囲気から何からすべて
「明らかに僕が場違い!!」と
痛く感じながら応接室へ。

音楽ホールかのような
「絶対に音もれさせません!」という
気概さえ感じる、
重たく分厚い扉が2枚開くと、
そこは弁護士ドラマに
出てくるような応接室が。
素人目にも分かる
ちょっといいソファーに腰掛けるよう促され、
代表の話を聞くことになります。

▶︎職業リハビリテーションの世界
先述もしましたが、
今回見学に来ているのは、
就労支援事業所を運営している会社です。
心身に障害を抱えた方が、
自立して仕事を得て暮らしていけるように。
仕事を紹介して慣れてもらうことで
自立した生活と社会復帰へ繋ぐお仕事です。

心身に障害を抱えた方といっても、
その程度はさまざまであり、
僕が見学した会社は、
知らない人が接しても
ハンディを持っているとは分からない、
そんな方に絞って施設を運営していました。
就労支援施設には
「A型事業所」と
「B型事業所」があります。
正確に表現できているか分かりませんが、
一般的に「A型事業所」は制約が多く、
運営が難しいとされています。
「A型事業所」は、
A型事業所そのものと
支援を受ける方が雇用契約を結び、
最低賃金以上が支払われるルールのもと
障害をもつ方の社会復帰を支えていきます。
支援を受ける方と事業所は
「雇用と給与」の関係性にあり、
月8万円ほどの給与が支払われる事業所です。

一方「B型事業所」は、
支援を受ける方と雇用契約を結びません。
あくまで
“リハビリの一環”として働いたり、
社会に参加することそのものの
訓練として利用される事業所です。
障害をもつ方にとって
B型事業所はあくまで
「通所すること」自体が目的であり、
“お金を稼ぎにくるところ”とは異なります。
そのため、
B型事業所の中で作業した報酬は、
月平均1~2万円とされており、
少額の工賃を受け取るにとどまることから、
A型事業所とB型事業所は報酬の観点からも
互いに異なる意義を持つ施設といえます。
▶︎就労支援事業×医療資格の可能性
花田が今回見学に行ったのは、
「A型事業所」でした。
その事業所では
宿泊施設の清掃や、
ポスティング代行といった仕事を受注し、
支援を受けようとする方へ提供していました。
支援を受ける方を引率して、
現地で仕事を全員に分配したり
指示を出して管理するのは、
A型事業所の職員の仕事です。
今回花田はこの職員の仕事に、
「スカウト」されたということです。

この仕事の管理職を
「サービス管理責任者」といいます。
この「サービス管理責任者」、
通称「サビ管」になるためには、
何の経験も資格もなければ、
8年の実務経験や研修が必要になります。
しかしこれがなんと、
「医療系国家資格」をもって
「保健医療機関」で
3年以上働いた経験があれば、
就労支援の実務経験を
+3年するだけで済みます。
これはサビ管の
あまり知られていない制度です。
もちろん、
はり師、きゅう師、柔道整復師も
この対象となる国家資格です。

そんな仕事の選択肢があることなど
花田は全く初耳でした。
代表者の話を聞いて、
貴重な知識を得ることができ、
重厚な応接室の中、
「今日ここに来てよかった」と
少し思えてきました。
▶︎転職しなかった理由とは?
次に、
事業所の中を見せてもらいました。
やはりとにかく「静か」で、
全員がパソコンに向かって
カタカタと仕事をしています。
「ザ・オフィス」
といった雰囲気です。

BGMにFMラジオを流し、
ベッドが数台ある中で、
複数のスタッフと患者さんの会話が
重なって聞こえてくる治療院の環境とは
まるっきり異なります。
その部屋の、
どなたが事業所の職員で、
どなたがハンデを抱える方なのかは
全く分からないほど集中して
黙々と仕事に打ち込んでいました。
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むしろ、
見学に来た僕に視線を向けて
注意を持っていかれている余裕はない、
そんな真剣さが伝わってきたことを
鮮明に覚えています。
ふと我に返り、
「社会見学」と称して、
「ヘッドハンティングされてみたいな」という
とてもフワッとした気持ちで
この場に来たことを申し訳なくさえ思いました。
もし自分が採用されたとしたら。
「未経験者」程度のスキルで、
労働と社会復帰を求める、
ハンデのある方に対して
何をすることができるだろうか。
そう考えたときに、
「戦力になるまで時間がかかりすぎる」
と想像するのは難しくありませんでした。
足を引っ張る期間を
明らかに長くいただいてしまう。
その責任さえ取れない
右往左往する日々が始まると考えると、
「未経験者歓迎」という優しい言葉には、
どうしたって
安易に乗っかることはできないと
僕は思ってしまいました。

「最初は誰でも未経験」
そんな甘い言葉をかけてくれることで、
就労支援事業の業界は
僕にその扉を開いてくれています。
ですがそれと同時に、
この事業所で働く人は
みんな仕事と生活の再建を目指して、
人生をかけてここに来ています。
「僕みたいな未経験者に対応される今日が、
その人にとって無駄にできない貴重な日」
でもあるわけです。
これをちゃんと受け止めて
心に刻んだうえで、
「未経験者歓迎」
「国家資格保持者なら3年で管理者」
という言葉に責任をもって
飛び込んでいけるのか?
そう考えると、
やはり今回の転職を
進めていく気持ちには
どうしたってなれませんでした。
▶︎他業種転職で知っておくべきこと3選
今回、他業種を見学したことで、
よく分かったことがあります。
① 治療院では一日に何回も
新鮮で明確な達成感を得られる
治療院では一日に何人も患者が来ます。
そして施術をすることで
何かが解決されたり、
目の前で喜んでもらえたり、
常に「自分が役に立てた」と
直接実感させてくれる出来事が
一日中連続的に発生しつづけます。
「他業種を経験したい」
という気持ちが湧いたり、
オフィスで働いて、
17時に上がって、
帰りは映画でも見て帰りたい!
と思うこともあるでしょう。
治療家の多くは、
院が閉まる20時や21時まで
勤務しているはずから、
そんなオフィスワーカー的な
ルーティンに憧れる気持ちはよく分かります。
ですが、
治療院の一日のような
ハートフルな体験の連続を、
オフィスでの実現しようというのは
どうしたって難しいものがあります。
向き合っているものが
人ではなく、パソコンになるからです。
これは間違いありません。

よく治療家という仕事について
「感謝されるやりがい」を
述べる人を見かけます。
僕の考えとしては
どの仕事をしていても
感謝されるシーンは多々あります。
しかし治療家のような
「予約の枠数分」
「一日に何回も」
「1時間おきに」という
高い頻度でそれが起こる仕事は
なかなか珍しいのではないかと思います。
”もう人と関わらない仕事を”
と望むのであれば別ですが、
働くモチベーションの拾い上げ方は
治療院のそれと他業種では
大きく形が変わるはずです。
② 他社からの勧誘は
あなたの本質を評価した結果ではなく
あなたの資格や労働力を求められたもの
今回のケースはまさにこれだと思います。
異業種間での転職に関わらず、
同業他社への転職であったとしても、
そもそも一緒に働いていない以上、
人の本質を評価したうえで
「一緒に働きましょう?」と
言ってくれているわけではありません。
あなたが欲しいのではなく、
あなたがもつ資格が欲しい、
というのが本音です。

しかし、
それも当たり前な話です。
問題は、
資格を売り物にして
仕事を得たあとに、
あなたと働き続けたいと
思わせることが出来るかどうかです。
資格やスキルは
あくまで転職の場面で
取っ掛かりをつくるためのものです。
自分に興味を持ってもらうための
「フロントエンド」の役割をもつものです。

あなたという本質を評価してもらえるのは、
そのだいぶ後。一緒に働いてからです。
転職で声がかかったからとって、
あなたという人柄や価値の本質が
評価されたわけではありません。
むしろ、
資格やスキルをフロントエンドにして
仕事を与えてもらえた以上は、
転職先に、
「あなたという人の本質」で
バックエンドを提供してあげなければ
不誠実な転職となってしまいます。
③ ゼロからスタートする
それによって周囲に与えるリスクを
補って余りある利益で返せる本気度が要る
一つ前に述べたことと同じです。
評価ゼロからスタートする。
経験ゼロからスタートする。
そんな「ハンデ」をもった存在を
会社に置くということは、
それだけで会社にとって
リスクを与えています。
1円も生み出さないのに、
給与数十万円は持っていくわけですから。

治療院業界に嫌気がさして、
「他業種に行って”みたい”」
程度の気持ちで転職してしまう。
そして案の定、
思っていた活躍ができないまま、
十分な利益を還元できないまま、
「やっぱり治療院業界に戻ります」となっては、
誰もwin-winになることができません。
(僕は採用担当として
そういう人の面接を何度もしてきました)
他業種に転職するからには、
その会社、その業界、
その人々が積み重ねてきた
「仕事の価値」にリスペクトが必要です。
それ相応の「覚悟」がありますか?
ということは、
他業種への転職を検討している
治療家全員が一度考えるべきことだと思います。
花田は考えた結果、
治療院業界にとどまることを選んで、
いま、この記事を書くに至っています。
…いかがでしたでしょうか?
治療家から他業種への転職は、
人生をかけた決断になると思います。
悔いのない選択ができるよう、
花田の体験談を
参考にしていただけましたら幸いです。
それでは、
またお会いしましょう!

花田隼人(はなだ・はやと)
1996年2月16日生
北海道札幌市出身
柔道整復師
日本体育協会公認スポーツリーダー
食生活アドバイザー3級
日本サッカー協会公認D級コーチ※更新辞退済
'23医療オリンピック医識王
●Facebookグループ
「北海道若手治療家コミュニティ」代表
●札幌市内整骨院グループ
エリアマネージャー
●花田式・国家試験対策
●柔整国試対策マガジン
●柔整国試対策「記述式問題集」
●治療家のための「薬」の知識武装
●治療家のための文化人類学
●整体における頭痛臨床
ほか
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▷花田は新患対応で何を見ているか?
▲記事に書かせていただきました。
ぜひ目を通してみてください★
▷北海道若手治療家コミュニティ
花田の発想やアイデア、知識を、いち早く、ボリュームのある内容でお届けしているFacebookグループ「北海道・若手治療家コミュニティ」にぜひご参加下さい。花田のコラムを無料で閲覧可能です。
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