風によって、雲は彼方へと流された。青一色の空は僕にそう語りかける。新丸子駅前の「ふく屋」で空腹を満たした。それは波踊る海が穏やかさを取り戻すように、試合へと臨む心を整えてくれる。
太陽から降り注ぐ光の中を歩く。等々力へと向かう、いつもと同じ道。しかし、歩む時ごとにその表情は変わる。一つとして同じでない、その時を僕は全身で内に取り込んだ。
スタンドで仕事をした。刻々と色が変わる空と鮮やかさ
白縹(しろはなだ)に空が、空気が染められていた。遠くからグリーン・デイの『Basket Case』が耳に流れてくる。「待ちに待った」と表現するのは大袈裟だ。しかし、二カ月ぶりのJは僕の心拍数を浮き立たせる。
空白のスタンドが日本の現状を語る。横たわる熱源からの距離。そして、冷めゆく熱。しかし、その火が消えることはない。世界は静かだ。だからこそ、小さいながらも燃え盛る、炎心の強さを感じずにはい
夕方の多摩川線。窓外には黒く輝く多摩川。丸子橋の灯が川面に映える。橙の光を受け、漆黒の川はカーテンのように揺れていた。
吸い寄せられるようにして、等々力へと導かれる。慣れた道筋。身体も心も覚えている。いつもの七番ゲート。階段を上り、スタジアムを見渡す。平和な熱狂。この空間は温もりにあふれている。適度に熱された空気。粒子の一つ一つを全身で浴び、身体の芯から感情が溶け出した。
『ポケットモン
生暖かい空気が身を包む。汗が肌に浮く。三週間ぶりのJ。待望の神奈川ダービー。時を追うごとに胸は高鳴り続ける。
太鼓が打ち鳴らされ、等々力に響き渡る。重厚な衝撃。サッカーはまた一歩、日常へと足を踏む。スターティングメンバーが記されたスマートフォンへと眼を落とす。川崎は長谷川が帰ってきた。そして、マリノスからは朴一圭が消えた。変わりゆく季節の中、そこに時の移ろいを感じる。
ドラムロール。太鼓
NumberWeb連載で掲載された川崎フロンターレの登里享平コラム。
ここで描かせてもらったのは、彼がここ数年、自分の存在意義、プロとしての価値に悩み、「マンネリ化をしているのではないか」と自問自答を繰り返していたこと。そこから『フロンターレラストイヤー』という強烈な危機感と覚悟を持って2019年シーズンに臨み、1年を通じて大きな変化と気づきを得た。そして、契約更新を受けて芽生えた新たな自覚が、