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会社員兼Football Traveler。アウトプットをサッカー(W杯、CL、EURO、海外各国リーグ等を現地観戦)、食、旅、本で回していく雑文。 著書 『宴の記憶 ―眼の前にあったワールドカップ―』 https://www.amazon.co.jp/dp/B0881WHNRC

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書評 #19|一人称単数

 村上春樹の『一人称単数』は話者によって紡がれた短編集。思考のあくのようなものをすくい取り、煮詰めるとこういう文章になるだろう。  著者の作品には「表裏」が存在する。文体は軽やかでありながら、感情表現は起伏に富む。人間の言葉を話す猿など、極端な展開を設定しながら、日常の趣がそこにある。起承転結をそのまま受け止めても、物語として充分に成立する。  しかし、自分自身の過去や現在、果ては未来につながり、感情を呼び起こす力も持つ。ノスタルジー。後悔。感動。期待。それはまるで、読者

    • 書評 #93|オシムの遺産(レガシー)彼らに授けたもうひとつの言葉

       深い洞察による本質を見抜く力。イビチャ・オシムを一言で表現することはおこがましい。その視点と思考力は宇宙のような無限の広がりを帯びる。しかし、周囲の人々の言葉を通じてオシムに触れ、そんな言葉が頭に反響している。  考えること。その一つ一つに真剣に取り組むこと。サッカーに対して本気で取り組んでいたであろう、ジェフユナイテッドの選手たちはその真意を理解し、全身全霊をかける。論理的な精神論とも言うべきか。その二つが合わさって初めて、個人は本領を発揮できるのかもしれない。  本

      • 書評 #92|ドイツサッカー文化論

         ドイツのサッカーを大局から細部まで見つめた一冊。ドイツ人のメンタリティについて繰り返し言及される。それは「大きな責任を自ら背負いたい」という願い。徹底した勝利へのこだわりが、そのように言語化されていることに納得する。  日本と比べ、ドイツにおけるサッカーの歴史は長い。しかし、その年数だけによって栄光が築かれているわけではない。体系立てられたプロサッカーとアマチュアサッカー。教育システム。主要な国際大会における敗戦を教訓とし、改革を推進する姿に合理性を重んじる国民性が垣間見

        • プレミアリーグ 2023-24 リヴァプール 0-1 クリスタル・パレス ・全体的に重さを感じさせるL ・Cの分厚い中盤 ・柔軟なポジションチェンジによる強固な守備でLにスペースと時間を与えない ・Lは薄氷を踏むような戦い ・不調を引きずり、得点する自信も失っている

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        書評 #19|一人称単数

        • 書評 #93|オシムの遺産(レガシー)彼らに授けたもうひとつの言葉

        • 書評 #92|ドイツサッカー文化論

        • プレミアリーグ 2023-24 リヴァプール 0-1 クリスタル・パレス ・全体的に重さを感じさせるL ・Cの分厚い中盤 ・柔軟なポジションチェンジによる強固な守備でLにスペースと時間を与えない ・Lは薄氷を踏むような戦い ・不調を引きずり、得点する自信も失っている

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          UCL 2023-24 アーセナル 2-2 バイエルン ・AのハイラインがBを圧迫 ・押されながらも好機を逃さないB、ハイラインを攻略 ・Aの左サイドがBに隙を与える ・ジェズスが作る密集でのタメと後ろに目があるような広い視野によるアシスト ・ケインによる驚異的精度のパス

          UCL 2023-24 アーセナル 2-2 バイエルン ・AのハイラインがBを圧迫 ・押されながらも好機を逃さないB、ハイラインを攻略 ・Aの左サイドがBに隙を与える ・ジェズスが作る密集でのタメと後ろに目があるような広い視野によるアシスト ・ケインによる驚異的精度のパス

          プレミアリーグ 2023-24 マンチェスター・ユナイテッド 2-2 リヴァプール ・Lの高強度は相変わらず ・明確な役割分担と有機性が両立 ・心技体のビルドアップ ・遠藤は目立つ/目立たない貢献の両方を披露 ・MのカウンターがLを仕留める ・観衆の気迫が乗り移ったかのような反撃

          プレミアリーグ 2023-24 マンチェスター・ユナイテッド 2-2 リヴァプール ・Lの高強度は相変わらず ・明確な役割分担と有機性が両立 ・心技体のビルドアップ ・遠藤は目立つ/目立たない貢献の両方を披露 ・MのカウンターがLを仕留める ・観衆の気迫が乗り移ったかのような反撃

          2024年J1第7節 川崎F vs 町田

           勝利の追求。町田の戦いぶりをそう表現したい。  川崎の両サイドバック。その裏に広がる空白にボールを運び続ける。得点する確率を高め、失点するリスクを減らす。自らのゴールとボールとの間にある距離と角度を意識し続ける動作。川崎の攻撃はチャンスだ。守る側の町田のほうが攻撃し、優位に立っているような印象を受ける。選手の一人が退場しても、数的不利も感じさせない。  太陽を受け、観衆の声援によって波立つサックスブルーの海はこの日も美しかった。しかし、その海原の波に乗る者と翻弄される者

          2024年J1第7節 川崎F vs 町田

          書評 #91|フットボールヴィセラルトレーニング 無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論[導入編]

           フットボールにおける個人の上達。人それぞれが異なる強みや弱みを持ちながらも、それらをいかに発展させられるのか。無意識と耳にすると複雑に映り、その面も否めないが、教える側と教えられる側の双方から「上達する」ことの意味を言語化している。  教えられる側を瓶ではなく炎になぞらえている表現が印象に残る。それは一般的な仕事にも通じる。情報を詰め込むのではなく、成長や向上する意欲を燃えさせる。一方でいわゆる「楽しいこと」や「得意なこと」ばかりでは意欲が燃え続けることはない。人間は緊急

          書評 #91|フットボールヴィセラルトレーニング 無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論[導入編]

          プレミアリーグ 2023-24 ブライトン 0-3 アーセナル ・縦パスとポジションチェンジを駆使した中盤の狭小エリアの打開 ・以前ほど強烈ではないが、Bの特徴は変わらない ・背中で後方の選手を消すアディングラの守備が印象に残った ・際立つAの穴のなさ、攻守にハイレベル

          プレミアリーグ 2023-24 ブライトン 0-3 アーセナル ・縦パスとポジションチェンジを駆使した中盤の狭小エリアの打開 ・以前ほど強烈ではないが、Bの特徴は変わらない ・背中で後方の選手を消すアディングラの守備が印象に残った ・際立つAの穴のなさ、攻守にハイレベル

          プレミアリーグ 2023-24 リヴァプール 3-1 シェフィールド・ユナイテッド ・ファン・ダイクが加速させる、安定感のあるビルドアップ ・攻撃の起点、横パスのトラップ一つにLの姿勢を感じさせる ・攻守に存在感が高まり続けるマック・アリスター ・Sを突き放す、圧巻の追加点

          プレミアリーグ 2023-24 リヴァプール 3-1 シェフィールド・ユナイテッド ・ファン・ダイクが加速させる、安定感のあるビルドアップ ・攻撃の起点、横パスのトラップ一つにLの姿勢を感じさせる ・攻守に存在感が高まり続けるマック・アリスター ・Sを突き放す、圧巻の追加点

          プレミアリーグ 2023-24 アーセナル 2-0 ルートン・タウン ・トーマスの縦パスは一級品 ・Lの攻撃を組み立て、落ち着きを与えるバークリー ・変幻自在のA、個人技と組織(ポジションチェンジ)の高レベルな融合、分かっていても止められない ・敗れはしたが、Lは健闘したと言える

          プレミアリーグ 2023-24 アーセナル 2-0 ルートン・タウン ・トーマスの縦パスは一級品 ・Lの攻撃を組み立て、落ち着きを与えるバークリー ・変幻自在のA、個人技と組織(ポジションチェンジ)の高レベルな融合、分かっていても止められない ・敗れはしたが、Lは健闘したと言える

          プレミアリーグ 2023-24 マンチェスター・シティ 0-0 アーセナル ・両者の慎重な試合運びが印象に残る ・ロングボールをハーランドに当てても良いと感じたが、オープンな展開を嫌ったか ・Aも片鱗は見せたが、ビルドアップやパス交換を抑圧するMの守備とその圧力が画面からも伝わる

          プレミアリーグ 2023-24 マンチェスター・シティ 0-0 アーセナル ・両者の慎重な試合運びが印象に残る ・ロングボールをハーランドに当てても良いと感じたが、オープンな展開を嫌ったか ・Aも片鱗は見せたが、ビルドアップやパス交換を抑圧するMの守備とその圧力が画面からも伝わる

          プレミアリーグ 2023-24 リヴァプール 2-1 ブライトン ・タイミングを見計らって中盤に下がり、パスコースを作るサラーの動きが効果的 ・よりリスク回避を重視するようになったB ・Lに順応したマック・アリスター、守備の強度が高くなり、キーパスも終始冴え渡る

          プレミアリーグ 2023-24 リヴァプール 2-1 ブライトン ・タイミングを見計らって中盤に下がり、パスコースを作るサラーの動きが効果的 ・よりリスク回避を重視するようになったB ・Lに順応したマック・アリスター、守備の強度が高くなり、キーパスも終始冴え渡る

          プレミアリーグ 2023-24 ニューカッスル 4-3 ウェストハム ・パケタの見事なパスが導いた同点ゴール ・際立つクドゥスの強さと推進力 ・ゴードンとバーンズがもたらした劇的な逆転劇 ・球際の強さに特徴を持った両チームによるハイレベルな肉弾戦 ・もちろん、技術的にも高レベル

          プレミアリーグ 2023-24 ニューカッスル 4-3 ウェストハム ・パケタの見事なパスが導いた同点ゴール ・際立つクドゥスの強さと推進力 ・ゴードンとバーンズがもたらした劇的な逆転劇 ・球際の強さに特徴を持った両チームによるハイレベルな肉弾戦 ・もちろん、技術的にも高レベル

          2024年J1第5節 川崎F vs FC東京

           サックスブルーと青赤。多摩川クラシコのコントラストを眼にすると、心が沸き立つ。大地が震えるというよりは静かに、沸々と。陽気な太陽を全身に浴びながら進める歩みが心身を浄化させる。  時空を掌握するエリソン。狭小空間を闊歩する瀬古、橘田、脇坂のスリーセンター。サックスブルーの天国たる等々力。ここで過ごす九十分はこの上なく晴れやかだ。 川崎F 3-0 FC東京

          2024年J1第5節 川崎F vs FC東京

          書評 #90|火星ダーク・バラード

           ディストピアと化した火星。遺伝子操作によって生み出された新人類、プログレッシブがその象徴だ。火星の開拓。人類の進化。その希求の根幹に善意はあったのか。私利私欲によって失せたのか。完全にはなれない人間。不完全な人間がシステムを作り、システムを嫌う人間が新たなシステムを作る連鎖。その構図は村上龍の「愛と幻想のファシズム」を想起させる。  システムに抗う力としての自我や暴力。恋の物語も織り交ぜながら、人と人とが交わることによって生み出される力も「超共感性」と呼ばれる特殊な能力に

          書評 #90|火星ダーク・バラード