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フットボール 観戦記

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記事一覧

2024年J1第7節 川崎F vs 町田

 勝利の追求。町田の戦いぶりをそう表現したい。  川崎の両サイドバック。その裏に広がる空白にボールを運び続ける。得点する確率を高め、失点するリスクを減らす。自らのゴールとボールとの間にある距離と角度を意識し続ける動作。川崎の攻撃はチャンスだ。守る側の町田のほうが攻撃し、優位に立っているような印象を受ける。選手の一人が退場しても、数的不利も感じさせない。  太陽を受け、観衆の声援によって波立つサックスブルーの海はこの日も美しかった。しかし、その海原の波に乗る者と翻弄される者

2024年J1第5節 川崎F vs FC東京

 サックスブルーと青赤。多摩川クラシコのコントラストを眼にすると、心が沸き立つ。大地が震えるというよりは静かに、沸々と。陽気な太陽を全身に浴びながら進める歩みが心身を浄化させる。  時空を掌握するエリソン。狭小空間を闊歩する瀬古、橘田、脇坂のスリーセンター。サックスブルーの天国たる等々力。ここで過ごす九十分はこの上なく晴れやかだ。 川崎F 3-0 FC東京

2024年J1第1節 湘南 vs 川崎F

 生きたサッカーは日常を非日常へと変える。太陽は輝きを増し、ありきたりな電車の乗り継ぎも冒険へと変わる。スタジアムへの歩み。その一歩一歩が熱を帯びる。ほのかな魔法に身を委ねる。  スタジアムにこだまする声。サッカーの息遣いがここにある。技術を介した腹の探り合いに肉体が衝突し続ける。歓声。悲鳴。絶賛。批判。警告の希求。諦念。さまざまな感情が交錯する。これを非日常と呼ばずして、何と呼ぼう。 湘南 1-2 川崎F

Jリーグ 観戦記|浦和の文化|AFCチャンピオンズリーグ2022決勝 浦和 vs アル・ヒラル

 夕の埼玉スタジアム2002。日と夜をつなぐ一時は眩い夕日に照らされる。スタンドの階段を上ると、眼下は赤く染まっていた。密度の高い感情。その感情は声となり、幾万もの旗のゆらめきとして表出される。感情が募り、集まると、感動を呼ぶということを、この風景が教えてくれる。  アル・ヒラルのカリージョが駆け回る。浦和にとっての不確定要素。その奔放な動きが浦和の組織にひびを刻もうとする。高く位置を取った両翼のサイドバックも加わり、浦和を押し込み続ける。  小泉佳穂の反転は反撃の象徴だ

Jリーグ 観戦記|乱れなき大波|2023年J1第2節 横浜FM vs 浦和

 肌が寒気を覚えている。今年もJリーグが始まった。鈍色の空の下、サッカーが脈を打つように繰り広げられる。  この日の主役はマリノスだった。即時奪回。この言葉が似合う。喜田拓也が動く。その位置取りによって味方の選択肢が増える。浦和の手の届かない場所に。プレスが空砲に終わり、ロングボールの回収もままならない。  素早い横移動に縦への動きを織り交ぜた攻撃。それは選手に自由をもたらし、ボールを受ける空間と時間を生み出す。大半の選手たちをピッチの一方に寄せて、広大なキャンバスがそこ

Jリーグ 観戦記|前向きな循環|2022年J1第33節 横浜FM vs 浦和

 秋晴れの空から差す陽光が観客席を照らす。線香花火の瞬きのように、その表面が輝きを放つ。その青は彼方へと伸びる大海のようだ。日産スタジアム。この場所の壮大さに触れると、日々生まれるよどみのようなものも洗い流されるような気がする。    マリノスのサッカーは真水のようだ。体内の細胞を活性化させるほど冷たく、口へと運ぶ手も止まらない。眼にも鮮やかな青はその魅力を具現化している。水沼が作り出す幅が活路を開き、その上を喜田が闊歩する。十一人が一つとなり、構造体を織り成す。その姿は常に

Jリーグ 観戦記|ジェットコースターに揺れた感情|AFCチャンピオンズリーグ2022準決勝 全北 vs 浦和

「明日の試合は大一番になるし、一人でも多くのサポーターにスタジアムに足を運んでもらう必要があると思っているので、この思いをサポーターの人たちに届けてほしい。一人の力が本当に選手の後押しになるので、サポートよろしくお願いしますと伝えたい」  関根貴大の言葉に吸い寄せられるようにして、僕は埼玉スタジアム2002へと辿り着いた。浦和の聖域。日本で最もアウェイが感じられる場所。その声援。その歓声は情熱に満ちあふれ、チームカラーの真紅に染まる錯覚を覚える。手を伸ばした先にあるアジアの

Jリーグ 観戦記|等々力劇場|2022年J1第24節 川崎F vs 横浜FM

 感動した。涙がこぼれた。余計な言葉はいらない。感情の力を再認識させられた。人々の気持ちが一つになると、果てしない力を生むということを。試合展開に合わせて、移ろう拍手の音響。その一拍にも物語がある。四方八方から迫りくる響き。サラウンドとはまさにこのこと。  美しい試合だった。観客の視線を掴んで離さない。そんな力が九十分もの間、観客席に降り続いた。一面の美しい青に染まった等々力。青と青の対決はJリーグにおける最高峰の戦いと言っても過言ではない。  互いが互いの時間を奪い合う

Jリーグ 観戦記|豊田の夜|2022年J1第24節 名古屋 vs 浦和

 身体に伝わる揺れを名鉄の扉に預けた。伏見から豊田への旅路。名古屋と浦和。二種の赤が混ざり合う車内。人々は互いの身に触れるか触れないかの微妙な間隔を空け、豊田スタジアムへと向かう時間を貪った。  赤き群れは一直線にスタジアムへと伸びる。奇才として名高い黒川紀章が世に残した名作の前に、曲線が空へと美しく伸びる豊田大橋が人々を出迎える。温和な高揚感がその場を支配しながらも、屹立するコンクリートの壁面はその存在感を失わない。壁面と壁面の間から場内の熱気が漏れる。戦いの舞台へと視線

日本代表 観戦記|王国との距離|キリンチャレンジカップ 日本 vs ブラジル

 国立に雨が降り注ぐ。肌の上を流れる冷気は雨季の訪れを予感させる。上空には鈍色の空が広がる。しかし、地上は数えきれない色に染まっていた。日本の青。ブラジルの黄。リヴァプールの赤。より多くの色が存在したものの、それらが僕の記憶に跡を残す。  高揚感が具現化されていた。日本もその一部ではあるが、「世界のサッカー」に対する人々の期待感がスタジアムの温度を上げる。プラチナと化したチケット。王国だ。ブラジルだ。余計な言葉はいらない。  曲芸。即興。密集の攻略。試合を振り返ると、それ

日本代表 観戦記|答えなき問い|アジア最終予選 日本 vs サウジアラビア

 全身の細胞が研ぎ澄まされるような試合を渇望していた。日本対サウジアラビア。ワールドカップ・カタール大会の出場権を左右する一戦を前に、埼玉スタジアム2002の姿が何度も脳裏に浮かんだ。期待。興奮。焦燥。安堵。その舞台はどんな感情を僕に授けてくれるのだろう。数日前から去来する光景を胸に、感情に起伏が生まれていることを肌で感じていた。  日本も起伏に満ちた冒険を続けていた。旅の始まりから、視界の先には霧が立ち込めていたように感じる。岩に躓き、落石にも見舞われた。苦しみながらも、

Jリーグ 観戦記|沸騰の赤|天皇杯 JFA 第101回全日本サッカー選手権大会決勝 浦和 vs 大分

 イヤホンを外し、外界に耳を馴染ませる。世界とつながった気がした。都営大江戸線の長い階段を上る。見上げた先に浦和の意匠が掲げられていた。国立を支配する、赤き信奉者たち。眼に飛び込んできた色に釣られるようにして、体温が高まっていく。  栄誉を懸けた最終決戦はアジアへと線を結ぶ。浦和は存在すべき場所への帰還。大分は片野坂知宏とともに築いた六年間の集大成を飾る。確たる戦術を持った両者の対決に胸は高鳴り続けた。  関根が大分の守備を切り裂く。間隙を縫うようにして江坂の先制点が決ま

Jリーグ 観戦記|触れた温もり|2021年J1第34節 川崎F vs 浦和

 雪を積もらせた山々のように、遠くに雲が見える。視界には白光が差し、染め抜かれたライトブルーの空が世界を覆う。その色を反射させたかのように、水色の衣をまとって闊歩する人々。鳥のさえずりが聞こえる。穏やかな気配を抜け、この日も等々力を目指した。  目線の先には赤き戦士たち。九月のルヴァンカップ。その記憶がよみがえる。刻々と立ち位置と身体の向きを変える選手たち。理をもってボールは前進する。体系化されたサッカーは僕に鮮烈な印象を残した。  理知的なサッカーはこの日も変わらない。

Jリーグ 観戦記|色彩の対比|2021年YBCルヴァンカップ決勝 名古屋 vs C大阪

 「完璧な空」があるとすれば、それは二〇二一年十月三十日を指す。澄んだ湖のような透明感があり、陽光が線を帯びて視界を照らす。座席に身を預け、僕は浦和美園駅に辿り着いた。人々が発するざわめきが肌を漂う。埼玉スタジアム2002は不時着した宇宙船のようだ。視線を上へと向けた。鎮座する要塞。剛健な質感。鋭利な屋根。興奮のスタジアム。この場で生まれた、数多くの熱狂。感情の渦が身体を駆け巡る。  時間をたっぷりと使い、埼スタを味わった。手で触れるようにして。太陽を浴び、その温もりが身体