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日本代表 観戦記|王国との距離|キリンチャレンジカップ 日本 vs ブラジル

 国立に雨が降り注ぐ。肌の上を流れる冷気は雨季の訪れを予感させる。上空には鈍色の空が広がる。しかし、地上は数えきれない色に染まっていた。日本の青。ブラジルの黄。リヴァプールの赤。より多くの色が存在したものの、それらが僕の記憶に跡を残す。

 高揚感が具現化されていた。日本もその一部ではあるが、「世界のサッカー」に対する人々の期待感がスタジアムの温度を上げる。プラチナと化したチケット。王国だ。ブラジルだ。余計な言葉はいらない。

 曲芸。即興。密集の攻略。試合を振り返ると、それらの言葉が脳内に湧き上がる。日本の両端に生まれる広大なスペース。自然と生まれたように感じられるが、それはブラジルの選手たちが持つ誘引力によるものだろう。岸壁に打ち寄せる波のように、観衆がピッチ上の一挙手一投足に歓声とため息を発する。苦境に立たされながらも、日本は実力といくばくかの幸運によって時計の針を進めていく。

 神出鬼没のネイマール。彼はブラジルの核であり、試合の核でもある。縦横無尽に動き、相対する選手たちの意識を引き寄せ、スペースを作ってはかわし、ファウルをもらっては日本を自陣へと押し込んでいく。アジアでは頂点に君臨する日本でも、ブラジルとのマッチアップではボールを掌握できない。当然と感じるだろう。しかし、一点の曇りもない事実が淡々と表現される。

 王国との間に横たわる距離。その距離を確認し、思いを巡らせる。マイアミの奇跡のように、瞬間的な勝利を収めることはできるかもしれない。しかし、その距離は大木の年輪のごとく一朝一夕には埋まらない。リアルなブラジル。その貴重な体験が日本の未来にどのような影響を与えるのだろう。

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