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閃光

キャプテンマーク。
ただ、二の腕に巻かれるだけの布きれ。
けれど、燦然と輝いて見え、きっと実際の物理的な重量の何十倍、何百倍も重たいもの。
チームキャプテンが不在時の一時的なゲームキャプテンだとしても、その重みは軽いものではない。
先祖代々受け継がれてきた家宝のような、それを腕に巻き、ピッチに入場の際に先頭を毅然と歩く。
キャプテンマークの重さにも輝きにも負けず、深く胸に刻まれたエンブレムとチームの魂を誇らしく抱く。
そう、その日のゲームキャプテンは背番号2番、登里享平選手だ。

高卒で入団した彼はチーム在籍も長い。
変化するチームにいてくれる安心感。チームのムードメーカーであり、なくてはならない存在だ。
高卒の選手は大卒の選手と異なり「若手」の時期が長い。
きっと、彼はその長めの若手の時期に先輩選手から、たくさんのことを学んでいたのだろう。
若手から脱する時にはピッチ上の役割も、ピッチ外の役割も変わっていた。彼が若手時代にチームメイトだった選手は「こんな選手だったっけ?」という声もある程に。

怪我も多く、シーズンをフルで出場することは多くない。
ベンチスタートの選手のイメージもあっただろう。
けれど、楽しそうに周りを盛り上げながら腐らずに練習に励む。
そんなイメージが定着していた彼が、近年スタメンの座を奪取した。
インタビューなどでも、意識の変化があったことなどを語っている。子どもが生まれたこともあるだろう。子どもたちに活躍している姿を見せたいというモチベーションが選手に大きく作用することは周知である。

登里選手と言えば、前述の通り、メディアに出演する時も盛り上げ役で、やべっちの企画であるデジッちでも敏腕プロデューサーぶりを発揮。面白さは然ることながら、気遣い気回し抜群である。絶妙に先輩も後輩もイジる、が大島僚太選手には敏感。

ピッチ上の紳士然とした態度も、最近は対戦チームのサポーターにも称賛される。
ボールボーイに「ありがとう」と声をかけたり、接触プレイで倒れた選手の救護に時間がかかれば、相手チームのサポーターに向けて謝る。怪我した選手に気付けば、パッとボールと外に出す。
審判への野次を「言うな」と、厳しくピッチ上から諌めたのも、記憶に新しい。
何もこれらの優しさは最近のことではなく、彼の人間性だ。
ピッチでの時間が増えたことで、明白になっただけのこと。
麻生の練習場で、いつでも明るく対応してくれることも、サポーターはよく知っている。

ボールボーイへの対応は、実は試合にも少しは影響があるのではないか、と思っている。
急かしたり、「ボール!」とキツめに要求する選手もいる。それは試合中だから、仕方ないというか当然だとも思う。
けれど、登里選手の「ありがとう」は、ボールボーイが嬉しいだけでなく、審判にも印象は良いだろうし、相手選手にとっては余裕がある、と焦りを与えられるのではないだろうか。
それを狙ってるというよりかは、人間性の成せる技なので、それも武器となっていたら、サポーターとして嬉しい。

わたしはまだ、サポーターになって5年のペーペーであるが、昔からフロンターレを応援してきた知人は「ノボリは本当に頼もしくなった」と感慨深げに言う。
若手の頃は、負け試合の後にもヘラヘラ笑っていて腹が立ったこともあったと。
それが、今では悔しい敗戦の後に、疲労と悔しさに項垂れた選手たちの列の先頭を、勇ましく顔を上げる歩くのだ。
何度も優勝が目の前にちらつきながら、逃してきた悔しさ。その時のチームの空気をきっと彼は忘れたいくらいに覚えているのではないだろうか。
そして、念願の初優勝。風呂桶を満面の笑みで掲げた。
その時、当時のキャプテンでエースの小林悠選手が、昨年まで長年キャプテンを務めていたバンディエラ、中村憲剛選手にキャプテンマークを巻いたシーンは印象深い。
それくらいキャプテンマークというのは、意味のある重たい重たいものなのだ。

最終ラインから前の選手への声掛けも、指示だけでなく「ナイス!」と、失敗した選手にも、そのチャレンジとファイトを褒める。どれだけ、その若手の励みとなっているんだろう。
その頼もしさは応援するサポーターの心強さの糧になっている。
ノボリがキャプテン!?なんて驚きや不安など、今は露ほどもない。皆もそうだろう。
谷口キャプテン不在の中で選手たちを引っ張り、叱咤激励する。そして、気配りも出来る彼は今、キャプテンマークを巻ける逞しさを十二分に携えている。

チームを照らす温かな光は、ピッチで閃光となり鋭く早く真っ直ぐに伸びる。優しさを携えながら。


トップのお写真は、みーちゃん(@mimimichaaannn2)様よりご提供いただきました。
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