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Jリーグ 観戦記|ピッチ上の星座|2021年J1第33節 川崎F vs 清水

 駒沢公園。渋谷。弧を描いて、都内を回った。田園都市線の暗闇を抜け、東横線の窓から光が差し込む。イヤホンで耳を塞いでいるが、日常に活気が戻りつつあるのを肌で感じる。冬に足を浸けるか浸けないかの狭間に僕たちはいる。そんな季節を、人々は思い思いの服装で楽しんでいる。世界は色を取り戻している気がした。耳から伝わる土岐麻子の声は陰陽の間で揺らいでいるように感じる。等々力へと歩む、薄暮の空が音色と重なって一体化する。

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 清水の橙が眩い。4−4−2。高く設定されたディフェンスライン。ベンジャミン・コロリと登里のミスマッチを狙い、後方からロングボールを蹴り続ける。相手の隙間に立ち、立ち上がりはボールを前へと運ぶ。均整の取れた陣形。ポジションチェンジも眼にはつかない。それは整然とし、実直でもある。簡潔な戦術の行く末に思いを巡らせた。

 川崎は清水を横へと揺さぶる。ピッチを横断する長短のパスはゆりかごの動きを連想させた。ゆっくりと。丁寧に。選手たちがボールを操りながら、宇宙に星座を描いていく。夜空に浮かんだ無数の星。その輝きに見入った。その煌めきに呼応するかのように、清水は後ろに重心を傾け、前線の選択肢を失っていく。

 川崎の動きは滑らかだった。そこには緩急もあった。小道を縫うようにつながるパス。その立ち振る舞いは優雅さすら漂う。それは等々力に戻った九月以降は眼にすることができなかった。家長に牽引され、ピッチには適切な幅が設定された。ピッチを「引っ張る」家長。舞台の幕を開閉するかのように、ボールが前へと進む空間を作り出す。先制点を生んだ縦パスは象徴的だ。静から動への転換。急発進するボールに清水の選手たちはついていけない。星座に起点があるとすれば、それは家長だ。

 川崎が見せる論理的攻略を存分に味わった。短い時間ではあるが、復帰した大島のターンは切れ味が鋭く、それは戦術に幅をもたらす。選択肢の数が多ければ多いほど、相手は迷い、勝利の可能性は高まる。ピッチで描かれるサッカーは、そんな思いを僕に授ける。澄んだ十月の夜空。音楽に耳を傾けず、その気配と試合後の余韻に身を抱かれていたかった。花火の轟きが、彼方から聞こえてくる。

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川崎F 1-0 清水

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