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Jリーグ 観戦記|輝ける舞台|2021年J1第11節 川崎F vs C大阪

 風によって、雲は彼方へと流された。青一色の空は僕にそう語りかける。新丸子駅前の「ふく屋」で空腹を満たした。それは波踊る海が穏やかさを取り戻すように、試合へと臨む心を整えてくれる。

 太陽から降り注ぐ光の中を歩く。等々力へと向かう、いつもと同じ道。しかし、歩む時ごとにその表情は変わる。一つとして同じでない、その時を僕は全身で内に取り込んだ。

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 スタンドで仕事をした。刻々と色が変わる空と鮮やかさを増していく芝生の緑。普段は空へと気が向かない。しかし、サッカーはその魔法で僕の感度を上げ、空の美しさを再認識させてくれる。

 僕は等々力のこの角度が好きだ。なぜだろう。傍観するのではなく、僕も攻守の当事者になった気がするからかもしれない。

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 大久保の躍動が鮮烈な印象を残した。得点への飽くなき欲求。ボールをゴールへと打ち込む技術と才能は陰りを見せない。川崎で得点を量産していた記憶が気配に漂う。

 川崎の守備陣に猛然と迫るプレスは隊列を率いる指導者を彷彿とさせる。清武と並んで構えた2を頂点に、中盤とディフェンスラインの4−4が規則的に並ぶ。その陣形は緊密であり、高い集中力でゴールとボールとの間に障壁を築く。

 後半の川崎にもたらされた変化。それは「幅」と「余白」による、秩序立った混沌である。動き続ける粒子のように、選手たちは絶え間なく動き続ける。そのすべてを眼で追うことはできない。しかし、眼は左サイドバックの位置に脇坂を捉える。三苫の近くに家長がいる。それは意図的に作られた密集であり、その先には余白が存在する。幅はセレッソの守備網を広げ、その隙間は川崎の選手たちが輝く舞台となる。

 自らが作り出した隙間へと飛び込んでいく。ペナルティエリアの角は川崎にとってはチェックポイントと言っても過言ではない。ディフェンダーたちの背後に隙が生まれる局所を通過していく様を食い入るように見つめた。そこには常に三人の選手たちがいる。ボールの出し手と受け手。そして、その空間に流動性という名の混沌をもたらす担い手。ボールを中心に、ピッチに無数の線と円が描かれていく。三苫のドリブルに寄り添うように走る田中の動きはその象徴だ。

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 川崎は苦戦しながらも、勝利を収めた。しかし、その勝利の裏に大いなる可能性が見え隠れする。その点に、チームとしての充実ぶりが感じられる。昨季の躍進は左サイドバックの登里によって支えられた。登里がもたらす推進力とタッチラインへと張り出す幅が攻撃陣をゴールに近づけた。代役を担う旗手は異なる特性を持った選手だ。旗手は中央へと身を移し、攻撃に厚みを加える。

 その動きがゴールへと迫るシナリオにより具体的な効果をもたらすのであれば、チームとしての充実の色は増す。現在の充実と未来への胚芽。将来が香る点に、川崎の輝きに一層の色が差す。

川崎F 3-2 C大阪

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