安定と挑戦


スポーツのオフシーズンには、出会いと別れがつきものです。
野球の世界では大谷翔平が1,014億だとか、山本由伸が463億だとか。
私の好きなサッカーのJリーグもご多分に漏れず、毎日移籍情報が飛び交っています。
好きな選手の退団に涙したり、新加入選手にワクワクしたり。
毎年、辛くもあり楽しくもあり、そんな季節です。

移籍には色々なパターンがあります。
下位チームで活躍して上位のチームに引き抜かれる、
国内での活躍が認められ海外に移籍する、
上位チームで出場機会が得られず他チームへ出場機会を求める、
戦力外通告を受けて次のチームを探す、
純粋に年俸の高いチームに移籍する、
チームと選手それぞれの思惑がある中で複合的要因で移籍は決まりますが、移籍する理由としてはどれも何となく理解出来ます。

しかし、腑に落ちずピンとこないケースが一つだけありました。
それは、特に中堅やベテランで、チーム内での立ち位置も確立され、チームやサポーターからも必要とされている、そのまま引退まで所属すれば、引退後の処遇も約束されている。
そんな状況で、あえて国内の同格と思われるチームや、Jリーグよりレベルの落ちると思われる海外リーグへの移籍を選択するケースです。

私の応援する川崎フロンターレは近年、三苫薫、田中碧、守田英正、板倉滉、旗手怜央など、ヨーロッパで、日本代表で活躍する選手たちを海外へ送り出しています。
若くして海外へ飛び出していった彼らの活躍を見るのは楽しみで、誇らしく思います。

そんな中、昨年のシーズンオフに、谷口彰悟という選手が31歳でカタールへ移籍しました。
大卒からフロンターレ一筋、キャプテンも務め、チームの大黒柱。
サポーターからの人気も高く、年齢もベテランに差し掛かっている。
海外でプレーする選手たちに混じってW杯にも出場した。
きっとこのままフロンターレを支え、引退し、フロント入りする。
誰もがそう思って疑わないような選手が、移籍を選択した。
しかもJリーグよりレベルの落ちるであろうカタールに。

「全く違う環境に身を置き、成長したい」
「チャレンジしなかったことの後悔をしたくない」
綺麗に並ぶ言葉を見て、分かるようで分からない、そんな気持ちでした。
発表直後はショックでしたが、その後に生き生きとしている姿を見て、少しだけ羨ましく思えた自分もいました。

そして今シーズのオフ。
33歳、34歳の2選手が国内の同格チーム、30歳の選手がアメリカ(リーグレベルは日本と同等かそれ以下)と、3名の中堅ベテラン選手が自らチームを離れる決断をしました。
3名ともチームに必ず必要な選手で、チームに残れば引退まで安泰だったと思います。

昨年の谷口彰悟と同様、「より厳しい場所でチャレンジしたい」「このチャンスを逃したくない」「慣れ親しんだ場所を離れることで見えるものがあるのではないか」そんな言葉が並んでいます。

辛く悲しく寂しいのは当然ですが、私も1年間で少しだけ成長出来たのか、歳を取っただけなのかは分かりませんが、去年よりも彼らの言葉がスッと入ってくる感覚がありました。

私自身に矢印を向けます。
地方銀行のただの歯車である私は、入行当時から特段優秀だったわけでもなく、出世志向もなく、与えられた環境で怒られない程度に頑張る、そんな人間です。
銀行には転勤がつきもので、ある日突然転勤を告げられ、強制的に環境が変わる、そんな世界です。
現在の支店に着任してからそれなりの月日が経ち、環境にも慣れ、まわりの方々に助けられながら、なんとか安定した日々を送れています。
今までであれば、次の転勤までほどほどに過ごそう、楽させてもらおう、くらいの気持ちだったはずが、最近思うんですよね。

つまんないなって。

今の自分の仕事振りにはある程度満足しているけれど、環境が変わった時、自分は同じように活躍出来るのだろうか。
安定を捨ててもっと刺激のある場所に身を置いたほうが成長できるのではないか。
他の支店の人たちはどうやって仕事に向き合っているのだろうか。
自分は外の世界でも通用するのだろうか。

不安というべきか焦燥感というべきか。
でもそれは安定しているからこその感情なのか。

ありがたいことに最近は支店の中でも立場が変わり、プレイヤーだけでなくマネジメントをかじり出したりと、新しい刺激に出会えました。
マンネリ化を打破すべく、今までしたことないような動き方を意図的に取り入れて、支店勤務の可能性を広げてみたいなとも思っています。
今の環境のままでも、学びたいことが増えました。

今の支店にいつまで居られるのか、
そもそもこのまま銀行に居続けるのか、
何かのきっかけで転職をするのか、
未来は誰にも分かりません。
しかしながら少なくとも今は、支店を旅立つ時に、同僚からも取引先からも惜しんでもらえるような、そんな仕事が出来るよう、今の環境で出来ることに向き合い、ひた向きに過ごしていきたいと思っています。
私が退団を惜しむ、大好きな彼らのように。

noteを書くのは中村憲剛の引退以来となりました。
いつも私の感情を動かし、背中を押してくれる、川崎フロンターレとそこに関わる全ての方に感謝を込めて。

2024/1/6


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