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Jリーグ 観戦記|淡々と|2021年J1第31節 川崎F vs FC東京

 風が木々を揺らす。それは波音のようだ。海辺にいるような感覚で空を見つめた。雲は払われ、青が広がる。橙へと染まる空。それは「生きたサッカー」という形容詞があるとすれば、その表面に照りを加える。世界は多摩川クラシコを祝福している。

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 川崎の組み立てを後方から見つめた。旗手が下り、パスを導く。立ち位置を変えた家長を経由し、ボールは前へと進む。ボールは前線へと放たれ、宙を舞う。序盤の川崎には多様性があった。得点が生まれる際に見られる現象を言語化すると、そういった表現を頭に浮かべる。しかし、その多様性は徐々に失われていく。

 東京のサッカーには明確な決まりがある。急発進する車のように、左サイドをオーバーラップする長友に眼を奪われる。それは長友に固有の特徴として認識したが、東京の選手たちが駆け上がる姿を何度も眼にし、そうでないことを思い出した。

 緊密な中盤。高く設定されたディフェンスライン。ボールを奪い、瞬時に前線へと向かう意識が伝わる。前線のスペースへと蹴り出されるボール。獰猛な動物たちのように、そこにはアダイウトン、ディエゴ・オリヴェイラ、田川が待ち構える。広野を支配する者たち。ゴールを目指した疾駆はどこまでも力強い。

 そのサッカーはボールを失うことを前提としている。そんな表現を思い浮かべた。ボールを奪うと同時に活性化する前線。奪われたとしても、川崎の守備陣は背後へと意識を寄せる。急襲する東京のプレス。東京を語る上で欠かせない二つの起点。それは急な動きに反応し、対応する人間の限界を突く。

 そんな記憶が脳裏を支配する。神戸を相手に見せた川崎の鋭利なプレスを眼にすることはなかった。階段を駆け下りるような、サイドでのパス交換も鳴りを潜めた。それでも、マルシーニョと登里が紡いだカウンターはレアンドロ・ダミアンの決勝点を生んだ。

 風が肌に触れる。空は色を変える。熱が失われる気配のように、どこか淡々と、落ち着きのある試合だった。しかし、多摩川クラシコの体感が身体の核で熱を放つ。青と青の衝突。それは麗しい邂逅だ。

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川崎F 1-0 FC東京

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