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俳句のお話

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日本人に生まれたら、俳句をお詠み(ひさびさに)

日本人に生まれたら、俳句をお詠み(ひさびさに)

何度か書いてますが、わたしは二十代前半のころに現代俳句と前衛俳句の両刀で俳句に入りました。現代俳句の花房治美子(はるみこ、と読みます)というおばあちゃん先生に、幻想俳句っていうのやってるんですと言ったら、季語をたのまず、定型からも離れていたらじきに詠めなくなるよと言われました。生涯作れなきゃいけないんですかね、この一句!ができたらそこでやめてもいいでしょうとわたしが言い返したら花房先生は、やってご

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俳句夜話(12) 虚子の商魂が現代の俳句市場を作った

俳句夜話(12) 虚子の商魂が現代の俳句市場を作った

今夜は、滝の名句から入ります。後藤夜半。

滝の上に水現われて落ちにけり

Wikiによると、句会でこの句が出たとき、だれもわからなくて取らなかったと。のちに、師の虚子が客観写生に徹した句として激賞したそうですが、ただの写生ですかね。どうもこう虚子のいうことは真に受けられないところがあって困ります。私は随一の俳人を虚子だと考えるのですが、作句以外の面での彼のあり方はどうも話半分でちょうどいいような

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俳句夜話(11)虚子はいたずら好きのマーケター?

俳句夜話(11)虚子はいたずら好きのマーケター?

今更ながらに、虚子の名著と言われる「俳句の作りよう」「俳句とはどんなものか」「俳句はかく解しかく味う」なんぞを読んでるわけですが、彼が俳句はこうだと言ってる最大の要所は、まじめに詠め、ですね。思いっ切り、俳句さながらに約めると、たぶんそんなところになるかと。

子規の言っていた、五七五定型第一、季題第二、切れ第三、この三つを守らないものは俳句ではない、洒落や諧謔はやめて写生に徹するべきである、とい

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俳句夜話(10)高浜虚子は花鳥諷詠の人じゃありません

俳句夜話(10)高浜虚子は花鳥諷詠の人じゃありません

む印俳句はいったん置いて、いやこのまま本棚の奥に仕舞って、少しまじめにいきたいと思います。
俳文らしく、いにしえの俳人をとりあげてああだこうだといってみる。ことにします。

まずは高浜虚子。正岡子規に兄事した人ですね。花鳥諷詠、写実写生主義を完成させた人とも位置づけられます。

どうしても話がそれますが、ここは避けて通れないので記します。
かつて「む印俳句」同人も主宰の流さんも、そして私も、子規と

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俳句夜話(9)幻想俳句集団「む」の奇妙な俳句 さらっと解説編

俳句夜話(9)幻想俳句集団「む」の奇妙な俳句 さらっと解説編

さらっと解説をつけてみましょう。

1 立春や女の首の落ちる音

2 居住まいを正し暦へ火を放つ

3 エプロンのまま夕焼けを泣いたまま

49 半月の不在コトコト煮ています

詩人、田中久美子。「立春」はいい悪いで論争になった。女が女になるとき女はからだになる、論理や理性を落として感性になる、といった句意だろうとおもうのだが、ありきたりだ、いやストンとした落ちが小気味いい、という物議を醸した。私

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俳句夜話(8)幻想俳句集団「む」の奇妙な俳句

俳句夜話(8)幻想俳句集団「む」の奇妙な俳句

前説が長くなりましたが、やっと紹介できます。
75句、一気にいきます。

1 立春や女の首の落ちる音

2 居住まいを正し暦へ火を放つ

3 エプロンのまま夕焼けを泣いたまま

4 高すぎる青すぎる空 始業式

5 揺れている女から夏ローカル線

6 鮭の川沈んでいるのは夜ばかり

7 冬晴れはコカコーラから骨の音

8 スカーフを巻く指先の自暴自棄

9 家中の匂い担いで父不在

10 十月のあ

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俳句夜話(7)幻想俳句集団「む」主宰、流智明のこと その二

俳句夜話(7)幻想俳句集団「む」主宰、流智明のこと その二

さて、幻想俳句集団「む」、のちの「む印俳句」の、8年に及ぶ句会の中から秀句を紹介したいのだけど、もうひとつ前説を。

主宰していた流さんにはひとつ問題があった。理屈っぽいとか女好きとか飲む量の競争をしたがるとか、問題はいろいろあったが、これらはご愛嬌の部類で、リクツっぽいのは東大哲学だから致し方ないし、私もそうだから、まあいいとしておくとして。
そういうことじゃなくて、大きな問題とみんなが見なして

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俳句夜話(6)幻想俳句集団「む」主宰、流智明のこと

俳句夜話(6)幻想俳句集団「む」主宰、流智明のこと

私がかつて所属した結社の中で、もっともおもしろく、もっとも不遜で、やがて立派に空中分解し、主宰はそれからしばらくして蒸発し、そのまま消えてしまったという、幻想俳句集団「む」(のちに「む印俳句」)の俳句を紹介したいと、今夜はそのつもりだったんですが、その前に、主宰の彼のことを書きましょう。

名は流智明。西洋占星術の世界では草分け中の草分け、ルネヴァンダールさんなどはお弟子、孫弟子まで数えたら数百人

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俳句夜話(5)川柳を知って、俳句を詠む その三

俳句夜話(5)川柳を知って、俳句を詠む その三

真打登場。現代川柳界を背負って立つ大西泰世。

火柱の中に私の駅がある

逢いたくて生まれる前の石を積む

約束の数だけ吊るす蛍籠

声だすとほどけてしまう紐がある

号泣の男を曳いて此岸まで

つぎの世へ転がしてゆく青林檎

わが死後の植物図鑑きっと雨

少年をよごす月光青畳

夕焼けを飲み干すたびに手紙来る

月の夜へけものを放ち深く眠る

前の二人と比べるとだいぶ難しい。ちょっと立ち止まって

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俳句夜話(4)川柳を知って、俳句を詠む その二

俳句夜話(4)川柳を知って、俳句を詠む その二

今日は、森中恵美子。

武装とくようにイヤリングをはずす

子を産まぬ約束で逢う雪しきり

キッチンでたしかに不発弾となる

男来てどっと淋しさ置いてゆく

逢(お)うていてさえベトナムの話する

極刑と思うひとりの箸を持つ

いっしんに男を思う糸を吐く

生き恥の洗濯ものを小さくたたむ

死ぬときも乳房が二つあるように

はなれ住むただ長生きをして欲しい

私は大好き。
難しい言葉も言い回しもひ

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俳句夜話(3)河東碧梧桐〜俳句は、実は長い

俳句夜話(3)河東碧梧桐〜俳句は、実は長い

『日本人に生まれたら、俳句をお詠み(後編)』で「俳句は長い」という感覚が得られるかどうか、これが大事というお話をしました。「短いなあ」「入らないなあ」と思ってるうちは、つまりいろいろ盛りすぎなのですね。「それだけ」を詠むことがとにかく大事で、そういう目線でいるときっと「俳句は長いなあ」になる。余計なこと言っちまいそうだなあ、とおののいている状態が正しい。なんかイイタイコト、ないのかも私、みたいな姿

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私を俳句に引きずり込んだもの

私を俳句に引きずり込んだもの

選評で私に、取り合わせが近すぎると指摘される句に比べて、遠いといわれる句は少ないですね。動く動かないでいうと、近ければ動かない。おそらく、季語やとりあわせた物や事について、動く、別のものを持ってこれるという批評に敏感で、近づけていってしまうのかもしれませんが、極論してしまうと、近いより遠いほうがいい、少なくともより現代的です。

袋回しにおもしろい句が多い(と感じる)のは、やむにやまれず取り合わせ

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俳句夜話(1)川柳を知って、俳句を詠む

俳句夜話(1)川柳を知って、俳句を詠む

俳句ー季語=川柳、というわけではない。学校ではそう教わるかもしれないけれども、違う。風刺がそのアイデンティティというのも、今や違う。現代川柳はまったくそのようなステロタイプではとらえきれない。

川柳の正統は庶民に密着した『貧』であるという論考も根強い。そのリアリズムと諧謔のたくましさ、あるいはニヒルか皮肉かの処世的なあり方。精神年齢の高さ。これらも容易に否定はできない。

川柳は俳諧連歌の付句、

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俳句夜話(2)芭蕉に見る、俳句は「なんてな」

俳句夜話(2)芭蕉に見る、俳句は「なんてな」

クリスマス運ありという易者かな

これは2011年の作。自分としてはけっこううまくできたとおもっているのだけど、これを恋人たちが二人で易者に見てもらっているととる人がいて、ちょっと戸惑った。今もひじょうに幸福で、さらに前途までも洋洋な恋人たちのクリスマス。これではちっともおもしろくない。
易者に見てもらってるのは一人でであり、そこで「運あり!」と言われてもなあ、今日が勝負だったんだけどなあ、ま、い

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