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逞しい少女たちの物語

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」で大好きになったノンフィクション作家による最新小説。

切り口はこれまでどおりシニカルな子供目線。
今回の主人公は女の子。

イギリスの低所得者層としてアル中の母親とひ弱な弟を支えながら、今を必死に日々を生きるその姿勢と語り口は、これまで以上に切れ味鋭くイギリス社会の貧富の差と現実を鮮明に描き出します。

同時に、この物語には裏の主人公がいます。

女の子が現実逃避をするために没頭する本というのが、日本の大正時代のアナキストである金子文子の少女時代の話であり、イギリスで不遇な生活をする少女とかつての日本で不遇な生活を強いられる本の中の少女の境遇、そして時代背景や社会背景の今と昔がオーバーラップしていきます。

親に捨てられた状態のヤングケアラーと、社会に捨てられた状態の戸籍のない子ども。

読み進めるにつれて、主人公は本の中の少女に自分を重ねていきます。

ただし、主人公の少女は、物語の中の少女が逆境の展開になればなるほど「私と一緒だ」と共感し、少し希望が見える展開になると「私とは違う」と失望するという点では、私たちとは違った読み方をしていくというのも今を生きる子供の辛い立ち位置をまざまざと感じさせてくれます。

面白いのは、主人公も我々読者も、「どん底の境遇から思想を獲得し、国家と対峙した」というこの実在した人物の生き様を知らないからこそ、その少女時代の物語の先の読めない展開にドキドキしながら引き込まれていくという仕掛け。

ともあれ、私がこの作家のことが好きなのは、池袋ウエストパーク的な視点というか、社会風刺をしつつも決して現実をあきらめていないというか、希望を捨ててはいないというか、力強く前を向いて生きていこうという人間の強かさを爽やかに読後に残してくれるというところ。

一気読み間違いなしの、今と過去をリアルに切り取った逞しい少女たちの物語。

今日も読んでくださいまして、ありがとうございます。


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