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【見える化編5:中核「問題の見える化」(前半)】

本マガジンのテーマは「見える化」です。私も12年ほど、工場管理行っていますが、何度も何度も聞くキーワードが見える化です。ただ、これは工場の管理だけでなくすべての仕事、ビジネスにとって重要な考え方であり、活動であると思います。経験がある方が多いと思いますが、問題や状況が正しく見えるということができれば解決策や必要なアクションは自然と出てくるものです。そんな見える化について、体系的にかつ実例も入れて解説している名著「見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み 遠藤功氏著」について解説していきます。2005年が初版で、15年前の本ですが、間違いなく今でも通用する内容です。

今回も、上司の正輝と部下の流星が登場します。流星は自工程完結を学んで実践していく中で、見える化がすべての改善活動につながってくることに気づき始めます。そして、再度正輝と会話している中で、見える化とはなんなのか、どう使っていくべきなのかということについて、本を使って学んでいきます。前回、見える化の体系について指導を受け、今回から具体的な事例の解説に入っていきます。まずは問題の見える化の事例からです。

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◆見える化の体系

👱;おはようございます。

👨‍;おはよう。前回、下記のように見える化の体系について勉強したな。

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今日はこの中の、「問題の見える化」.さらに、その中で、「異常の見える化」、「ギャップの見える化」、「シグナルの見える化」、について事例を挙げて解説していくぞ。簡単な紹介になるが、引き出しの中にしまっておくイメージで学んでくれ。

👱;はい。よろしくお願いいたします。

◆異常の見える化

👨‍;「見える化」で最も直接的な効果を上げるのが、「異常」そのものを丸裸にして、「見える」ようにしてしまうことだ。

👱;はい。誰の目にとっても異常と映る状態にすれば、無用な説明はなくても対策を講じざるを得なくなりますからね。そうやって、何度かチャレンジしている間に徐々に成果が出るんだと思います。

👨‍;まず、「小さな異常」に気がついて対処することが「大きな異常」を発生させない唯一の方策なんだ。とはいえ、大きな異常が発生してしまう場合もある。そんなときもその事実を把握させ、異常の現実を突きつけることも「見える化」の重要な役割なんだ。異常が見え、事の重大性に直面することで組織は成長していくんだ。異常という「現物」をさらけ出すことで、問題解決に取り組んだ事例を1つだけ紹介する。本書にはもっと多くの事例が載っているから興味があれば是非読んでくれ。

👱;はい。よろしくお願いいします。

◆異常の見える化事例:「不良在庫の見える化」

👨‍;ある時A社は、甘い需要予測、工場の稼働率優先の生産至上主義によって、膨大な量の不良在庫を抱えてしまっていたそうだ。つくりすぎによる不良在庫の存在は企業収益を大きく圧迫していたんだ。

👱;工場都合による「プッシュ型」の生産では在庫がたまって多くの無駄が生じてしまいますね。

👨‍;そう。当然「プル型」に転換しなければ生き残っていけない。これは本が出た15年前も今も変わらない。ただ、それはA社のトップも重々認識していたそうなんだ。しかし、生産部門では発想の転換が必要なことは自覚していても、実際には「稼働率優先」「在庫はさばける」といった古い発想を捨てることができずにいたそうだ。

👱;過去の成功体験にしがみついてしまうのですよね。過去はそれでできたからと、ついつい続けてしまうのですよね。

👨‍;そのためA社では、つくりすぎによる在庫が減らずにいたんだ。しかも、在庫の大半は「死に筋」と呼ばれる動きの少ない商品だったんだ。

👱;死に筋・・。あちゃー。。それでどうしたのでしょうか?

👨‍;そこで社長は、工場の意識改革を進めるため、工場からすでに出荷され、物流センターや営業所に滞留していた不良在庫を工場に戻すよう指示したんだ。そして、工場に戻された在庫の山は、工場の正門近くの敷地にうずたかく積まれることになったんだ。

👱;なるほど、それで在庫の山が見えるようになり、従業員の意識を変えたということですね。きっと飛んでもない場所を取ったのでしょうね・・。

👨‍;ああ、自分たちのつくり出した不良在庫という「異常」が、目の前にあらわれたんだ。見えることで、つくりすぎの怖さを肌で自覚したんだ。「実需にもとづいた柔軟な生産」を合言葉にしたA社の生産革新は、これを機に格段に進展していったのである。不良在庫が一掃されたいまでも、「不良在庫のピラミッド」の写真が過去の戒めとして生産現場のいたるところに貼られているそうだ。

👱:なるほど。言葉でいうより、数字で見るより、現物が目の前にあるのが一番良心というか、罪悪感に刺さりますよね。さすがにそうなると、改善が進みやすいです。

◆ギャップの見える化事例:「目で見る管理」

👨‍;次は「ギャップの見える化」の事例を見ていこう。過剰在庫や顧客のクレームといった異常は、企業活動の結果としてあらわれる異常であり、それは比較的「見えやすい」ものだ。しかし、本来企業に求められているのは、「結果としての異常」を是正することではなく、「プロセスにおける異常」を早期に発見し、対処することが必要になる。

👱;なるほど。そのためには、定められた基準・計画と現状とのギャップを常に「見える」ようにし、異常を早めに発見することが重要になるのですね。

👨‍:そう。それを「ギャップの見える化」と呼ぶんだ。目標管理や進捗管理のための「見える化」は、生産や営業の現場などで目標との実績のギャップをグラフやチャートを使って「見える」ようにしている。それを共有することは個人やチームの問題解決を促すきっかけになるんだ。

👱;さらに、管理する側にとっても、「目で見る管理」が可能になるということですね。

👨‍;ここでは、チャートやグラフを効果的に活用し、「目で見る管理」による現場の意識改革を進めている事例を紹介する。気を付けなければいけないことは、チャートやグラフを作成して貼ることが目的ではない。それを基にに対話をし、計画達成に対する「貪欲さ」「愚直さ」を持った現場をつくることこそがゴールなんだ。本質を見失ってはいけないから気を付けてくれ

◆【 機械メーカーC社の「目で見る管理」による現場力強化】

👨‍:中堅機械メーカーC社の生産現場では「目で見る管理」の徹底導入を行っているそうだ。その最も基本的なものとして、「生産計画達成率管理表」という生産計画達成率をグラフ化するものをC社では作成したんだ。

👱;まあ、通常であればここまでですね。それで日々状況を見ていく程度かと思います。

👨‍:ああ、だが、C社はこの「生産計画達成率管理表」を、生産ライン現場のみならず、工場建屋の入り口、事務所、食堂にまでボードを用意して貼り、生産が計画どおりにいっているかどうかを全員が強く意識する環境づくりを整えたんだ。

👱:おお。それはしつこいまでの見える化ですね。まさに常に目に飛び込んできますね。

👨‍:それまでは、個々人の仕事をこなすことばかりに目が行き、「工場全体の目標達成は管理者の仕事」といった風潮が強かったそうなんだ。それを是正するために、全社的な目標管理制度の導入と合わせて、まずは工場全体の業績に全員が関心を持ち、現在の状況を把握させることに照準を合わせた「見える化」の取り組みを始めたそうだ。

👱;なるほどです。管理側の意思が見て取れますね。そうやって意思をもって進めていくものなのですね。

👨‍;まさにそうだ。意思を持っていた。方針があったんだ。何かというと、職場でのミーティングでも、常に工場全体の状況を確認することから打ち合わせを始めるように管理職・監督層に対する指導を徹底したんだ。これによって、「数字で話をする」という習慣を身に付けさせ、それを日常的な「共通言語」として定着させたんだよ。そして、工場全体の数値目標を理解させたうえで、チームや個人の目標について話すというコミュニケーション手法を定着させたんだ。

👱;おお、そうなると全体最適を考えながら個々人が目標達成を目指すようになっていくわけですね。

👨‍;なお、「生産計画達成率管理表」では、その日の出来高と達成率がチャートで示されるだけでなく、仕掛品の在庫量、不良の発生状況、一人あたりの生産性、時間あたりの生産性といった全員が把握しておくべき数値も「見える化」されたんだ。

👱;なるほど、具体的なKPIも見えるようにしてチェックできようにしたと。でもチャートやグラフを現場に貼るだけでは現場の競争力は高まらないですよね。

👨‍:そう。「数字で話をする」、「目標とのギャップを常に認識する」、「大目標と小目標の関係を常に把握する」こうしたことができる「人をつくる」ことこそが、C社の取り組んでいる「見える化」の目標なんだよ。

👱;この活動自体が、組織力を高めるための教育になっているということですか。深い。

◆「シグナルの見える化」:カムアップ管理

👨‍;次はシグナルの見える化の例を解説しよう。現場における問題発見で重要なのは、異常事象が発生しているという事実そのものをまずは発信し、「見える」ようにすることだとこれまでも話してきた。

👱:はい。問題解決が遅れる理由の大半は、異常そのものが認知されるのが遅れることによって、後手後手の対応になってしまうことだと思います。

👨‍:まじめな日本人は不具合が起きたら、自分だけで何とかしようとする。これがよくない。異常事象に気がついたら、周りの同僚や上司に「異常が発生している」という「シグナル」を送ることが重要で、そうした仕組みを組織に埋め込まなければならない。

👱:アンドンのように、一発でシグナルが伝わるというのはわかりやすいですよね。

👨‍;異常やトラブルが発生する前に、そうした事態を防止するシグナルを発信する仕組みとして、「カムアップ」と呼ばれるツールがある。

👱:カムアップ??すいません。初めて聞きました。

👨‍:もともと調達・購買の分野において納期遅れや欠品を予防するために考案されたものなんだ。発注点管理の発展版と思っていよい。

定量発注方式をさらに簡素化したものが簡易在庫管理方式(カムアップ方式)という。
例えば、在庫をいくつかのロットに分類しておき、調達期間内の出荷最大量が3ケース以下の場合、最終から3番目のケースに発注書を添付しておき、そのケースを開封する際に発注行う方式のこと。

カムアップ管理によって大きな効果を上げているD社の取り組みを紹介しながらその中身を確認していこう。


◆【事例】中堅精密機器メーカーD社の「カムアップ管理」

👨‍;中堅精密機器メーカーD社は、100社以上の調達先から数万点の電子部品や材料を調達している。

👱:とんでもない部品量ですね・・。

👨‍:ああ、でもこういう企業は少なくない。当然ながら部品や材料の納期遅れは生産の遅れを招き、顧客に迷惑をかけるばかりでなく、余剰在庫、作業の滞留など多くの問題を発生させるのはわかるよな。

👱:はい。わかります。

👨‍:そこで材料や部品の納入遅れを発生させないために、納期前に納期状況を確認・督促する仕組み「カムアップ管理」をD社は導入したんだ。カムアップ管理を行うために、

-調達品の品目ごとに納期の事前フォローアップをすべきタイミングを設定する
-その際には、それぞれの品目ごとに過去の納期遅れ状況、不良率などを勘案し、調達先が特急でやれば何とか納期に間に合うようなタイミングで「カムアップ日」を決める。
-注文書控えなどを活用して「カムアップカード」をつくり、カムアップ日順に並べた「カムアップボックス」を用意し、オフィスの目の付くところに設置する
-個々の担当者がカムアップ日に調達先に確認・督促を行い、問題やトラブルの「芽」がないかを確認する

を実施したそうだ。そして、問題がありそうだと判明した場合には、「重点管理表」というボードに掲示され、告知される。対策中の品目は「黄色」で表示され、納期遅れや欠品が確定してしまった品目は「赤色」で表示される。わかりずらかったら是非ネットでカムアップと調べてみてほしい。


👱:まさに「トラブルが発生するかもしれない」というシグナルを部門内に「見える化」するのですね。

👨‍:さらにいうと、重点管理表に上げられた品目は、個々の担当者だけでなく各チームリーダーが責任を持って、納期遅れや欠品を回避する責任を持つんだ。「問題が発生するかもしれない」という「感知」は担当者の責任であるが、「問題の発生を未然に防いだり対策を講じたりするのはあくまでチームの仕事である」という考え方が、D社では徹底されているという。

👱:そう考えると、カムアップは問題やトラブルを防止するために事前チェックののシグナルを送る。さらにトラブルが発生した時には、その事実をシグナルとして発信する効果的な仕組みとなっているのですね。確かにシグナルだ・・・。

👨‍;この活動も、意識改革及び教育にもなっているんだ。D社では、カムアップを調達分野だけでなく、全社で応用して、社員の「納期意識」を高めることに役立てている。製品開発における納期管理や事業計画などの社内資料のとりまとめにおいても、「カムアップ」という仕組みを導入し、前工程と後工程をつなぐコミュニケーション・ツールとして機能させているそうだ。

👱;なるほど。取り組みを通して、問題に気づける、課題を設定できる人を育てて、さらにそれを組織の文化にしていこうというのですね。

👨‍:そうだ。よし、今日はここまでにしよう。今日は、問題の見える化の中でも異常の見える化」、「ギャップの見える化」、「シグナルの見える化」、について解説した。次回は、問題の見える化の中の「真因の見える化」と「効果の見える化」について事例と共に解説をする。

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今回はここまでです。前回体系化した見える化の活動の中の「問題の見える化」の前半でした。本日は問題の見える化の中でも「異常の見える化」、「ギャップの見える化」、「シグナルの見える化」について解説をしました。次回は問題の見える化の後半になります。(明日、タイは祝日のため休載します。🙇‍♂️)

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