【受験生・保護者・進路指導者向け】やはり自分の興味関心に基づいて学部を選ぶべし(データや実証研究も紹介)

 「A学部だと就職に有利」「B学部は就職のときにつぶしが利く」「C学部を選んだ理由はぶっちゃけネームバリューや世間体」「そこまで興味はないが消去法でD学部にした」「行きたかった学部は親に猛反対されたので嫌々ながらE学部にした」————。

 自分の興味関心は置き去りにして、大学の「出口」にのみ力点を置いて大学に進学する人が多くいます。これは、大学に卒業生の就職という「出口保証」を求めすぎる国家方針、就職実績以外に大学を評価する視点を持たない世論といったものの弊害であると思います。大人たちに感化された高校生は、特定の学部の「就職力」という神秘的な文言に釣られて学部を選んでいるようです。実際はそれほどの差は生じないのに、です。「就職力」という、どうにも曖昧模糊としていて、検証が困難な言葉は「まやかし」・「おまじない」と同列に扱われるべきものではないかと思われてなりません。

※例えば、優秀なAさんがX学部に進学して有名企業に就職したときに、Aさんが元から優秀だから就職できたのか、X学部だから就職できたのか、判別は非常に困難です。AさんはY学部に進学しても同じところに就職できたかもしれないからです(「X学部・Y学部」は、「X大学・Y大学」と読み替えても成立します)。

 同じく、自分の興味関心を無視した進路選択として見られるのが、「見栄を張る」(自分のプライドを満足させる)ことを優先するものです。学部で学ぶ内容をろくに調べもせず、世間の評判を基準にして選ぶやり方です。

 そして、大学がユニバーサル化したことで最近非常に増えているのが「周りのみんなが大学に進学するから自分も進学したが、積極的に学びたいものはない」という大学生や、親の強いこだわりや高校・予備校の不適切な指導に従わざるを得ず、自分の意志とは異なる学部に進学する大学生です。

 「やりたいことがない(学びたいことがない)」「やりたいことがわからない(学びたいことがわからない)」という人たちが増えている中で、周囲の人間やインターネットからの無責任な情報に振り回されて、自分の個性とまるで適合しない学部に進学するのは特に憂慮すべき事態です。

 自分の興味関心は無視して、打算的に、あるいは消去法的に学部を選んでしまうと、大学入学後に学習意欲の低下が起きます。そもそもあまり興味のない学問に取り組まなければならないのですから、当たり前のことです。

 問題なのは、学習意欲低下による大学中退や留年です。別の記事でも紹介した通り、大学での中退や留年は、おそらく高校生の想像より何倍も多く発生します。
大学進学者の8人に1人が辞めている衝撃の事実。指定校入学者8割、一般入試10割という中退例も…大学側が伏せる不都合な真実とは(集英社オンライン) - goo ニュース

 学習意欲の低下は、大学中退の最大要因のようです。以下のデータでは、大学中退の理由として約66%の人が「勉強に興味や関心が持てなかった」と回答しています。
経済的要因による学生の休学と中退 | 高等教育 | リクルート進学総研 (shingakunet.com)


 興味がない学部を選んだばかりに、大学を中退してしまっては元も子もありません。その後の人生で、安定的な仕事に就職できるのか大いに懸念されます。


 たとえ大学の勉強が面白くなくたって、中退に至らなければそれでよい、何年かかっても大学を卒業すればそれでよい、と思われるかもしれません。しかし、留年もその後の就職に悪影響を与える要因になる可能性があるとしたら、どうでしょうか。

 以下の研究を参照してみましょう。
大学進学者の就職時期を延ばす選択がその後の就業や年収に及ぼす影響 (jst.go.jp)

 これによれば、留年を経験した人は、4年で大学を卒業してストレートに就職した人に比べて次のような傾向があります。

  • 初職での正社員就職確率が低い(さらに、文系卒は現在の仕事でも正社員確率が低い

  • 年収が低い(ただし、理系卒ではその傾向をはっきりとは確認できない)。どの程度低いかというと、8.5~18.5%程度。

※「文系」とは、理系ではない学部を意味し、論文中では「文系その他」と呼んでいる。


 以上の研究は、留年が就職に悪影響を与える直接的な原因であるとまでは断言できるものではありませんが、それでも、悪影響が出る可能性がある以上、避けられる留年は避けるに越したことはありません。

 つまり、わざわざ興味関心がない学部に進学して、留年のリスクを高めるのは愚かなことだといってよいでしょう。学部選びで素直に自分の興味関心を優先することこそ、まわりまわって就職を有利にすると考えましょう。


 文系学部で「就職のときにつぶしが利く」という「都市伝説」(「神話」と言い換えてもよいかもしれません)がよく語られるのが、経済学部・経営学部・商学部といった学部です。こうした神話を信じて、ろくに興味もないのにこうした学部へ進学することは、以上のような理由から、まったく推奨できません。あなたが興味のある学部を探し直してください。

 学部選びのやり方については別の記事で解説しました。
学部選びのアドバイス:学びたいことが分からない人、学びたいことが多い人、迷っている人、リサーチ不足の人へ|正力綾士 (note.com)

 私が思うに、「就職する上で最もつぶしが利く学部」は経済学部でも経営学部でも商学部でもなく、リベラルアーツ系の学部(リベラルアーツ学部や教養学部など)です。なぜなら、リベラルアーツ系の学部であれば、様々な学問の基礎を学んだ上で、自分が本当に興味関心を持てる学問を専攻することができるので、学習意欲の低下による中退や留年のリスクを最小限に抑えることができ、それによって正社員就職確率や年収の低下を回避する効果が期待できるからです。どんな学問が自分に合っているのかよくわからず不安を覚えている高校生は、一度こうした学部を検討してみてはと思います。逆に、自分の学びたい学問がはっきりしている高校生は、それが学べる専門学部を絞り込みましょう。

リベラルアーツを取り入れている大学一覧|大学Times (sanpou-s.net)

<リベラルアーツ系の学部例(一部)>
【文系・理系の両方に対応】
・国際基督教大学(ICU)教養学部
・桜美林大学リベラルアーツ学群
・千葉大学国際教養学部
・慶應義塾大学SFC(総合政策学部・環境情報学部)
・早稲田大学国際教養学部

【主に文系に対応】
・玉川大学リベラルアーツ学部
・山梨学院大学国際リベラルアーツ学部
・徳島大学総合科学部
・愛媛大学法文学部
・東京経済大学キャリアデザインプログラム
・津田塾大学学芸学部国際関係学科
・京都女子大学現代社会学部

※女子大は上記のように「幅広い分野を学びながら専攻する学問を決める(例:多分野を学んだ上でゼミを選ぶ)」タイプの学部を持っていることがあります。学力的・地理的に受験候補となるような女子大があれば、そのような学部がないか一度確かめてみるとよいでしょう。


 なお、あまりにも学部選びを優先しすぎて、自分の学力よりも数段落ちるレベルの大学に進学してしまうと、授業内容や周囲の学生の質が自分と合わずに「授業が簡単過ぎてつまらない」「周りのレベルが低くてやる気をなくす」という意味で「学習意欲の低下」に繋がってしまいます。自分の学力に見合った大学の中から学部を選ぶことは大前提にしましょう。