学部選びのアドバイス:学びたいことが分からない人、学びたいことが多い人、迷っている人、リサーチ不足の人へ

教育内容と自分の興味関心とのミスマッチを減らそう

 高校生にはイメージしにくいかもしれませんが、大学では中退が頻繁に発生します。1年間のうちに、大学生全体の数%が退学しています。これは年間の数値ですから、大学に4年間通っているうちにいつの間にか大学からいなくなっている同級生の割合はもっと大きくなります。
大学進学者の8人に1人が辞めている衝撃の事実。指定校入学者8割、一般入試10割という中退例も…大学側が伏せる不都合な真実とは(集英社オンライン) - goo ニュース

 大学を中退した人に理由を調査した結果、およそ66%の人が「勉強に興味や関心が持てなかった」と回答したというデータがあります(中退理由の中では最多)。
経済的要因による学生の休学と中退 | 高等教育 | リクルート進学総研 (shingakunet.com)

 こうした大学の教育内容とのミスマッチを減らすためにも、大学の教育カリキュラムや教育方針の特徴をよく調べた上で受験校を選ぶことが重要です。「入試難易度がちょうどよい」「就職実績が良い」「ネームバリューがある」などというところだけ見て大学や学部を選ぶと、大失敗するかもしれません。最近では、「推薦を得られる学部がこの学部しかなかったから」という理由で、学ぶ中身をよく理解しないままに進学する人も少なくありません。教育内容が自分に合っているかを確認することが最も重要なのに、それを怠っている人が多いのです。

 しかし、高校生のほとんどすべての人は、大学生が各学部でどのようなことを学んでいるのか、詳しいことを知りません。「〇〇学」と言われても、何を学ぶのかわからなかったり、あるいは間違ったイメージで自分に合う・合わないを判断してしまいがちです。「やりたいことがない(学びたいことがない)」「やりたいことがわからない(学びたいことがわからない)」のも、大学でどのようなことを学ぶのか知らないからという要因が大きいでしょう。

 そんな中で、学部選びで間違いを犯さないために、どうすればよいのでしょうか。ここでは「自分が学びたい学問は一体何か」を知るための方法をいくつか紹介します。学部を選ぶ際に実践してみてください。

(1)オープンキャンパスに行こう

 まずお勧めなのは、大学のオープンキャンパスに出かけてみることです。高校2・3年生だけでなく、高校1年生であっても参加できます。近くに気になる大学があるならば、是非参加してみましょう。学部学科紹介や個別相談会を行う大学が多いでしょうし、模擬授業を行う大学も少なくないですから、大学の学部でどのようなことを学べるのか、理解を深めることができます。特に、高校生や保護者は、その学部に進学した後の就職事情について気になるでしょうが、こうした疑問はインターネットの真偽不明の情報に振り回されるのではなく、現場の教職員から確実な情報を得た方が進路決定のためにははるかに有益です。他にも、進路決定のために解消しておきたい疑問はすべて直接質問してみることを強く勧めます。質問したいことを事前にリストアップして臨むとよいでしょう。

 オープンキャンパスは、年に1回しか実施していない大学が少なくないですが、年に10回ほど実施している大学も中にはあります。つまり、行われている回数や時期は大学によってまちまちです。大学のWEBサイトを確認して、日程やプログラムを調べてみましょう。

 ただし、オープンキャンパスは高校生に魅力をアピールするために「ショーアップされた」ものであることに気を付けてください。例えば、オープンキャンパスに合わせてキャンパスの美化に努めたり、平均的な授業よりも面白い授業をしたり(教員の中でも授業が上手な教員に模擬授業を担当させるとか、高校生受けが良くわかりやすい話題を取り上げるとか)といったように、「実態よりもよく見せる」ということがあります。そのあたりを割り引いて評価しましょう。

 志望校が遠方にあってとてもではないがオープンキャンパスには参加できない」という人もいるでしょう。一部の大学では、あなたの地元に教職員が出張して進学説明会・進学相談会を開催していることがあります(東北大学が九州で説明会を実施する、など)。こうしたチャンスも活用してみてはいかがでしょうか。また、オンラインで個別相談会を実施したり、YouTubeに学部学科説明のプレゼンテーション動画をアップロードしている大学もあります。

(2)YouTubeで模擬授業を視聴してみよう

 YouTubeの各大学のチャンネルには、高校生向けの模擬授業(模擬講義ともいう)の動画がアップロードされていることがあります。COVID-19の流行期には、これが非常に増えました。様々な分野のたくさんの模擬授業を気軽に視聴できるので、模擬授業(模擬講義)を検索して視聴してみて、その学問がどのようなものなのか、イメージを掴んでみてください。

 「模擬授業 大学」「模擬講義 大学」「〇〇学 模擬授業」「△△学部 模擬授業」などのキーワードで検索してみましょう。

 ただし、上述の通り、模擬授業は「ショーアップ」されたものなので、ある程度割り引いて評価しましょう。

 模擬授業どころか、大学の通常授業そのものがYouTubeにアップされていることもあります(これもCOVID-19の影響によるものが多いです。大学生のオンデマンド授業としてのコンテンツです)。普段の授業が見られて、それも参考になります。

(3)放送大学の授業を視聴してみよう

 BS放送が自宅のテレビで視聴できる人は、放送大学の授業を視聴してみるのも参考になります。これは、本物の大学の授業ですし、放送大学の授業レベルは決して低くはありませんので、自分の関心のある分野の授業を視聴すれば、どのような内容なのかを掴むことができます。
※放送大学の講師陣は、有名大学の現役教員や、有名大学を定年退職後に放送大学教授に着任した人がかなりの割合を占めます。
通信制大学・大学院の放送大学 (ouj.ac.jp)

 また、通常の大学の授業時間は1コマ90分ですが、放送大学の解説時間は1コマ45分なので視聴しやすいです。

 一部の科目は、インターネットで無償公開されています。
放送大学オープンコースウェア(OCW) | 放送大学 (ouj.ac.jp)


放送大学は、大学院の授業も放送しています。学部の授業なのか大学院の授業なのか、きちんと区別して視聴しましょう。


深く学びたい分野を絞り切れなかったら

 色々と学問のことを調べてみた結果、複数の学問に興味が湧いて、どうしても1つに絞り切れない、という人も少なくないでしょう。本当は1つに絞った方が深く究められる可能性が高いのですが、どうしてもという場合は、仕方ありません。分野横断型の学びができる学部を検討しましょう。

 例えば、よくあるのは経済学と経営学の両方に関心がある場合です。これについては下記で詳しく説明しました。
経済・ビジネスに関心がある人の大学選び(志望学部を絞れない人向け)|正力綾士 (note.com)

 経済と政治に関心がある人には、政治経済学部という選択肢がありますし、経済学・法学・政治学・社会学と広汎に関心がある人には、総合政策学部や政策学部、公共政策学部、社会科学部という選択肢があります(学力が高ければ筑波大学社会学類という道もあります)。こうした学部以外にも、1つのテーマを複数の学問分野の視点から分析する学部・学科もありますから探してみてください(例えば、労働問題を社会学・経済学・法学の観点から多角的に分析する同志社大学社会学部産業関係学科や、危機管理を法学・政治学・社会学・心理学の観点から学ぶ日本大学危機管理学部、安心安全な社会構築について法学・政治学・経済学・経営学・心理学・社会学・理学・情報学・工学・社会医学の複合的観点で学ぶ関西大学社会安全学部などがあります)。

 ただ、こうした選択をする前に、それぞれの学問のアプローチ方法をきちんと理解して、どれに一番関心があるのかを理解しておく必要があるでしょう。興味が絞り込めれば、受験時にそれに応じた学部へ進路変更することもできます。

 以下の本が参考になります。迷える高校生はぜひ読んでみてください。
世の中を知る、考える、変えていく | 有斐閣 (yuhikaku.co.jp)


 さて、社会科学という括りの中での分野横断なら、上記のように話はまだ簡単です。これは、人文科学でも同じで、人文学部のように広く学べるつくりになっているところを選べばよいわけです。

 しかし、社会科学の分野と人文科学の分野の両方に興味がある(経済学と文学、政治学と心理学など)といった場合や、文系の学問と理系の学問の両方に関心がある(言語学と生物学など)といった場合は、どうすればよいでしょうか。こういう人へのアドバイスが一番困ります。

 丁度良い学部を見付けられれば良いですが、ぴったりの大学が見当たらない場合は、リベラルアーツ教育をしている学部を見て、自分の希望が叶えられないか確かめてみましょう。リベラルアーツ教育では、国際基督教大学(ICU)が有名です。
リベラルアーツを取り入れている大学一覧|大学Times (sanpou-s.net)

 以下の記事の末尾でも該当する大学の例を挙げています。
やはり自分の興味関心に基づいて学部を選ぶべし(データや実証研究も紹介)|正力綾士 (note.com)

 ただし、こうした学部は専門学部ではないので、専門的な国家資格を得られないカリキュラムになっている場合が多いでしょう。資格取得が目的の人は、どのような資格が得られるようになっているのか注意して学部を選んでください。


 他にも、「副専攻制度」があって他学科の内容も専攻できるようになっている大学を選んでもよいでしょう。


 なお、上記は入学後に複数の学問の中から複数の専攻を持てる可能性のある大学の例でした。これら以外にも、入学後に広く学んだ後で様々な専攻の中から1つ専攻を選べる(入学前に色々と悩む必要はなくなる)という大学もいくつかあります。例えば、国公立大学では筑波大学の総合選抜(→総合学域群に所属後、学群に移行)や北海道大学の総合入試(→総合教育部に所属後、学部に配属)を受験するという進路があります。金沢大学では「文系一括」「理系一括」(→総合教育部に所属)という入試制度を実施しています。筑波大学や北海道大学と違い、金沢大学では入学時点で文系か理系かは選ばなければいけません。

 文系私立大学では、東京経済大学のキャリアデザインプログラムといった取り組みもあります。

 ただし、こうした大学の注意点として、各学部への配属には定員があり、学生本人の希望が100%叶うわけではないという大学がほとんどだということを知っておきましょう。これは東京大学の進学振り分けと同じです。つまり、「入学後に色々と学んだ上で好きな学部を選べますよ」という誘い文句を使ってはいるものの、自由に選べるのは大学での成績優秀者に限った話で、成績が芳しくないと希望通りの学部へ配属されないことがあるのです。これは、配属には定員が設けられているので、成績優秀者の希望を優先させると、成績下位の学生には不人気学部しか割り当てられないためです。