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流浪の食微録

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知られざる美味の探求と出逢いを求めて彷徨う、ロンリー・ミニマリストの食紀行。
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2020年12月の記事一覧

鮮度と旨味を打ち消すご飯の粘着。

鮮度と旨味を打ち消すご飯の粘着。

「祐一郎商店 札幌駅前通り店」2020年12月9日(水)

このまま春が来て欲しい。
仮に雪が降ったとしても薄らでいいから、このまま春が来て欲しい。
一方でこの季節の雪のない反動に、この街の市民は心の準備をしている。
必ず訪れるドカ雪の襲来にあらかじめ諦観しながら…

と言って、さすがにコートを着なければ薄ら寒い。
地下歩行空間に向かい、少し早歩きをして薄ら寒さを打ち消した。
人通りの少ない師走の

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家庭的雰囲気に包まれる、大衆寿司の本領。

家庭的雰囲気に包まれる、大衆寿司の本領。

「万盛寿し」2020年12月19日(土)

“冬こそJR”、という北海道の鉄道会社の広告コピーは、皮肉なほど運休の連続で、もはやリスクしかないと思ってしまうほどだ。
そもそもとして鉄道事業自体、このパンデミックの状況もさることながら、雪は大いなる脅威だ。
それと知ってか、久々に乗る地下鉄はそれなりの混雑に見舞われた。
混雑といっても、首都圏に比すれば空隙だらけのレベルには過ぎないのだが…

地下鉄

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打ち砕かれた美味の旅、そして軌道修正のための企み。

打ち砕かれた美味の旅、そして軌道修正のための企み。

「酒肴日和 アテニヨル」2020年12月19日(土)

列車に乗って地方で味わう美味の旅。
この寂寥感を醸しつつも、かけがえのない企みは、遣る瀬ない忙しなさに襲われる12月を乗り切るための原動力のはずだった。
しかし、この日の北国は、身震いが止まらないほどの寒波と豪雪に襲われた。
列車が動くか否か、札幌駅に向かって確かめるほかなかった。
改札口付近に置かれた看板は、その企みをいともたやすく拒絶した

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小樽の余韻を辿る、あんかけ焼きそばの灼熱。

小樽の余韻を辿る、あんかけ焼きそばの灼熱。

「小樽あんかけ処とろり庵 エスタ店」2020年12月11日(金)

冬の風が吹く小樽の坂道を下ってみたい夢を見た。
冬靴で滑らぬように、しっかりと、ゆっくりと。
弾むような綿雪を踏みしめる音に耳を傾けながら…

振り返ると、そこに思い出だけ残っている。ここでもしその店の看板に出逢わなければ、虚しい心に震えていただろう。

札幌駅を結ぶ地下1階をそぞろ歩くと、小樽名物のあんかけ焼きそばを供するカウン

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未知なる美味が集う、小樽の夜の至福。

未知なる美味が集う、小樽の夜の至福。

「酒処 ふじりん」2020年11月28日(土)

列車の轟音、鄙びた商店街、静かに降り積もる雪。
知らない街だというのに、どこか懐かしいくせに、
賑わいのないそのどこかに、世界の没落を夢見る不埒な欲求を心の隙間に垣間見る。
歳を積み重ねるとは、そんな心象風景の繰り返しなのかもしれない。

謎めく小樽を巡る最後の店に入ると、意想外の混み様であった。
しかも客層は程々に若々しく、世界の没落など幻想に過

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静謐の雪が舞う小樽、唯一無二の焼鳥を求めて。

静謐の雪が舞う小樽、唯一無二の焼鳥を求めて。

「伊志井焼鳥店」2020年11月28日(土)

日本酒でほんのりと暖まったところで、次なる店を求めた。
本格的に小樽で酒を飲み歩くという行為は初めてであるせいか、小樽の奥処へと足を向ける時の到来に、いっそう心踊った。

駅前には、おそらく札幌での宿泊を回避した旅人らしき人々が散見された。
キャリーケースの車輪に雪が絡んで前に進まない姿に、
どこか羨望の眼差しを以て眺め過ぎた。
振り返ると遠方への旅

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凍える夜、厚岸の灯火に惹き込まれて。

凍える夜、厚岸の灯火に惹き込まれて。

「貝鮮立ち呑み 大厚岸 創成川イースト」2020年12月14日(月)

確かにランチのラーメンとチャーハンによって、幾ばくかの温もりを得た。
だがどうであろう、外と室内の寒暖の差は底知れぬ気怠さを宿した。
室内では火照った体が怠く、外に出ると手厳しい寒さが仁王立つ。
その拮抗に流石に狼狽せざるを得なかった。
どこかで道半ばの業務を断ち落とし、帰路に着こうと意を決した。

夜ともなると、その寒さは殺

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札幌立ち食い蕎麦の揺るぎない存在意義。

札幌立ち食い蕎麦の揺るぎない存在意義。

「ひのでそば」2020年12月12日(土)

立ちながら食するというスタイル。
それは新しいようでいて江戸時代から連綿と引き継がれ、その場凌ぎのようでいて普遍的に都度都度求めてしまう。
北国も冬の入口を迎えれば、殊更に恋しくなるものだ。

土曜日であった。
所用によって午前を奪われた。
身震いするほどの外の風は、否応もなく寂しげに体温を奪った。
その寒さは地下歩行空間へと導く。
少なからず冬の札幌

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車窓に映る雪、日本海、そして小樽角打ちの哀愁。

車窓に映る雪、日本海、そして小樽角打ちの哀愁。

「銘酒角打ちセンター たかの」2020年11月23日(土)

小樽は、物寂しい冬が似合う。
友とともに小樽に行くことを決めてから、心躍る日々が続いていた。
そしていざ、空席の目立つ列車に乗り込む。
日本海に近づくと、雪化粧された世界が突如として現れた。

それにしても、小樽に降り立つのは何十年ぶりであろう?
JRに乗りさえすれば30分もかからずに着くというのに、いつでも行けるという意識がずっと小樽

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人影と覇気を喪失したすすきのの真ん中で。

人影と覇気を喪失したすすきのの真ん中で。

「みよしの日劇店」2020年12月13日(日)

それは穏やかというより、不気味だ。
12月の雪の少なさもさることながら、深刻的に人が疎らだ。
戦闘地域に行ったことはないが、おそらく地雷でも埋まっている地を避けていると言われても仕方あるまい。

この日も朝食と昼食と晩食を兼ねた放浪が始まる。
けれど、年末を吹き抜ける寒さがそれを阻む。
手っ取り早く済ます、という手法が頭をかすめた。
札幌の新たなB

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都市の中に訪れた小さな森の安穏。

都市の中に訪れた小さな森の安穏。

「レストラン のや」2020年12月1日(火)

吹き荒ぶ風はまさに冬真っ盛りなのに、雪の降り積もらない日々が続く。
この積雪の少なさの反動は必ずやって来るという予感は、この街に住む者の暗黙の了解である。

それにしても、都心エリアは再開発という名の元に、破壊と創造が彼方此方で止むことなく繰り広げられている。
それは、未来の再々開発に向けて壊す前提で作っているようにも思えた。

札幌駅からひと駅の

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普遍性の中に漂う退廃と停滞。

普遍性の中に漂う退廃と停滞。

「めんこい茉季詩夢 」2020年1月21日(土)

夜の深い静けさ。
それは、どこか底知れぬ不気味な空気を放っていた。
まるで止血されたような街は、車の擦過さえも減らしている。
辺りはすっかり闇に支配されていた。
ラーメンに誘われる夜に、わずかながらの懐かしささえ覚えた。

止血された街の中で、白いネオンが道端に反映し、夜の微風に暖簾が揺らめく。
その外観はどこか古めかしく、いろいろな時代を耐えた

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Just Like Starting Over.

Just Like Starting Over.

「らーめんサッポロ 赤星」2020年12月6日(日)

休日の時は短い。しかも、やけに疲れていた。
雪のない街に刺す陽光も実に弱々しい。
朝も昼もなく活字を追っていると、夕映えを兆す午後が訪れていた。
朝と昼と夜を兼ねた食を求めて街に繰り出した。

目当てにしていたラーメン店に、空腹によって辿々しい足を向けた。
が、小さな紙に臨時休業の文字が弱々しく風になびいていた。
かつてない不気味な現実がこの

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