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Just Like Starting Over.

「らーめんサッポロ 赤星」2020年12月6日(日)

休日の時は短い。しかも、やけに疲れていた。
雪のない街に刺す陽光も実に弱々しい。
朝も昼もなく活字を追っていると、夕映えを兆す午後が訪れていた。
朝と昼と夜を兼ねた食を求めて街に繰り出した。

目当てにしていたラーメン店に、空腹によって辿々しい足を向けた。
が、小さな紙に臨時休業の文字が弱々しく風になびいていた。
かつてない不気味な現実がこの日の食を阻もうとしていた。
意識はすっかりラーメンに支配されている。
空腹によって辿々しい足は、力弱くもラーメンを求めて彷徨い始めた。

辺りは夜の兆候を示していた。
すると、ワンコインで有名なラーメン店の前を通り過ぎた。
これ以上深入りするまい。
足を止めてその店に入った。
2重の扉は、寒冷地対策なのであろうか?
1枚目の扉を開けると、ひとりでも狭苦しい空間に券売機が佇んでいる。
あまりの空腹がワンコインではなく、「チャーシュー麺醤油」へと導いた。
2枚目の扉を開けて店内に入った。
長々と伸びるカウンターが、俄かに雲る眼鏡のレンズ越しにぼやけて心許なく映っていた。
ラーメン店らしい古び方をした店内。それに相反する若々しい女性がひとり厨房でラーメンを作っていた。
数名の客と無言の距離感を取ってカウンター席に着いた。
寡黙な空気感の中で、ラジオの音が優しく響く。

店名の入った白い器が置かれた。
濁りのある鶏ガラの白湯系スープと濃紺の岩海苔のコントラストは、どこか真新しい。
スープの表面に浮かぶネギの中から麺を模索すると、中太の縮れ麺が現れた。
見た目ほどの濃厚さは微塵もなく、むしろまろやかで優しい。
ところが、どこか熱量が足りない。
器もそうだが、スープにも麺にも熱量が欠けているのだ。
とはいえなす術はない。
ならば、味に変化を求めてさばにんにく粉を振りかけた。
するとどうであろう。
まろやかな優しさの中に、さばの風合いが漂って味わいを変えてゆく。
ラジオからは、ジョン・レノンのMind Gamesが悲哀を纏って溢れ出す。
突如として彼を失ってから40年。
それから世界はどうなったであろう?
ラジオからMind Gamesがフェイドアウトしていくと、心の中でStarting Overが繰り返し繰り返し流れ続けた。
何か新しい地平へ向かえ、と背中を押されている気分に浸り、ジョンへの哀悼を込めながらラーメンを食べ干した…

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