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読書記録

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毎月末の読書記録のまとめです。
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読書記録(2024年4月分)

読書記録(2024年4月分)

読書記録を公開して一年経ちました。読みたい本が無くなりつつあるとはいえ、読んでいると自然と気になる本が新たに出てきますから、やはり書物は海のようだなと思います。

文芸書①アイザック・B・シンガー『モスカット一族』

詳しい感想はnoteで記事化していますが、久しぶりに数十人の登場人物が数十年を生きる大河小説を読んだなということで特別な印象を持ちました。ポーランド・ワルシャワのユダヤ人社会を克明に

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アイザック・B・シンガー『モスカット一族』

アイザック・B・シンガー『モスカット一族』

1950年に出版されたI.B.シンガーの長編小説『モスカット一族』(Isaac Bashevis Singer, 《The Family Moskat》大崎ふみ子訳) が今年日本語訳で読めるようになりました。その感想です。

シンガーはポーランド出身のアメリカ人作家で、ルーツであるポーランドのユダヤ系社会をテーマに、生涯イディッシュ語で書きました。1972年ノーベル文学賞受賞。

ストーリー20世

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読書記録(2024年 3月分)

読書記録(2024年 3月分)

諸々が過ぎ去ったため、時間がかなりとれたこともありたくさん読めました。その中でもよかったものを精選してみました。

文芸書①サミュエル・ベケット『モロイ』

第二次大戦後から1950年代がヨーロッパ文学の最後の輝きだと勝手に思っていますが、その時代に書かれた問題作。

なぜこの作品を読むのか、と理解する以前のよく分からないところでの感動がありました。文章を追っているものの、詩でもなくストーリーでも

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読書記録(2024年 2月分)

読書記録(2024年 2月分)

脳みそが崩壊しかけた2月。リハビリとしてよく図録を読んでおり、単著をそこまで読んでいないですが、いいものをいくつか。

文芸書①オクタビオ・パス『鷲か太陽か?』

メキシコを代表する詩人の散文詩の最近の翻訳。パスの詩は、繊細を超えて病的な透明さへ向かう近現代詩とは異なり、骨太で豊饒なイメージの世界を湛えています。

シュルレアリスムの影響が色濃いのですが、そこに安住しない野性的な表現も、中南米的な

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ムブガル・サール『人類の深奥に秘められた記憶』

ムブガル・サール『人類の深奥に秘められた記憶』

2023年に翻訳された小説の中ではかなり優れていたと思う、モアメド・ムブガル・サール作『人類の深奥に秘められた記憶』(Mohamed Mbougar Sarr La plus secrète mèmoire des hommes)についての小文です。

作者は1990年生まれのセネガル人で、パリ在住。本作は2021年にフランス最高の文学賞であるゴンクール賞を受賞し、フランスで65万部の歴史的ベスト

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2023年に出版された本と、その回想

2023年に出版された本と、その回想

素晴らしい本との出会いは人生を豊かにする、というのは本当なのか。教養は倦怠を救うのだろうか、ということまで考える一年でした。X(旧Twitter)でも紹介しましたが、今年出た本で良かったものを取り上げます。

美術書藤原貞朗著『共和国の美術 フランス美術史編纂と保守/学芸員の時代』

否が応でも私たちは物事を考えたり議論する際に、既存の体系と権威を引用します。では、その体系と権威の典拠はどのように

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読書記録(2024年1月分)

読書記録(2024年1月分)

新年もうひと月経ちました。早いですね。卒展準備や諸々で時間があっという間に流れていきましたが、なかなか面白い本に巡り合えて幸先の良いスタートです。

文芸書①グザヴィエ・ド・メーストル『部屋をめぐる旅』

世界や自分を知るためにわざわざ遠くに旅行する必要などない。慣れ親しんだ自分の家の部屋を「旅する」驚異の室内旅行記。家具やペットへの回想がメインですが、洞察に満ちた内省的な言葉が時々でてきて面白か

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読書記録(2023年11月分)

読書記録(2023年11月分)

読書の秋ということでかなり読んだと思います。お気に入りのものをいくつか紹介いたします。

文芸書①モアメド・ムブカル・サール『人類の深奥に秘められた記憶

1930年代に一冊の本を出してそれから消えた、謎の黒人作家の行方を追うというストーリー。よくある人探し系の小説なのですが、この作品は夥しい数の先例と異なっています。著者がセネガル出身の黒人作家であり、それが「白い」パリの文壇でどのような存在なの

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読書記録(2023年10月分)

読書記録(2023年10月分)

秋の夜長に読書というノリに浸れなかった、自分の人生にとって濃いひと月でした。日々が忙しくなると楽しいようで、インプットはできなくなるのが厳しいです。

文芸書①ハントケ『こどもの物語』

オーストリアのノーベル賞作家の育児記録なのですが、重厚な書きぶりで、ヘロドトスやタキトゥスなど古代の歴史書のような読み応えを受けました。描かれているのは素朴な日常ですが、貫禄を感じる一冊。

重々しい主題を軽やか

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読書記録(2023年9月分)

読書記録(2023年9月分)

秋の読書とまではいかずとも、なかなかに本を読めたのではないかなと充実したひと月でした。美術史系の本よりは文学系の本が多かったですが。

文芸書①ポール・ヴァレリー『ムッシュー・テスト』

小説というよりは半フィクションの内省録といった、あまり似たようなタイプが見当たらない作品。途中から断章形式になったりして自由ですし、ストーリーも人物造形もない不思議な世界です。

テストという不思議なおじさんの外

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読書記録(2023年8月分)

読書記録(2023年8月分)

今月は夏休みに入ったこともあり、長めの本を読むことができました。いくつか印象に残った本を紹介します。

文芸書①エリアス・カネッティ『眩暈』

博覧強記の東洋学者の主人公は膨大な書物を持つ自分の図書室(図書館といっていい)に籠っていますが、無学なテレーズの虜になり、結果的に知を放棄し図書室という自分の知的世界を燃やし尽くす話です。高校時代に挑戦して、「インテリ男vs白痴な女」という基本構図と、『白

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読書記録(2023年7月分)

読書記録(2023年7月分)

暑すぎてバテてしまい、そこまで多くは読んでいないですが、いい本との出会いに恵まれました。

文芸書①レオパルディ『断想集』

19世紀初めに活躍したイタリアの詩人で思想家のレオパルディ。厭世主義や悲観主義の括りに入れられることの多い人ですが、その穿った視線から繰り出される鋭利な断章の数々がとても面白かったです。気分が鼓舞する格言集の類では全くないですが、思索の補助輪のような形で置いておくのもいいか

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読書記録(2023年6月分)

読書記録(2023年6月分)

今月分の面白かった本を幾つか。ジメジメしていて酷かったですが、色んな出会いがありました。

文芸書①ガルシア・マルケス&マリオ・バルガス・ジョサ『疎外と叛逆』

ラテン・アメリカ文学の大巨匠ふたり、しかもガルシア・マルケスは『百年の孤独』を出したばかりの、まさに人気絶頂期に行われた対談の様子が収められています。特に面白かったのはヨーロッパ文学との距離の話。我々の文学はマジックリアリズムと呼ばれてい

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読書記録(2023年5月分)

読書記録(2023年5月分)

今月は忙しかったこともありますが、読んだ本の中で幾つかいいものをあげたいと思います。フランスのものが多いのは気のせいです。

文芸書①アベル・カンタン『エタンプの預言者』

職業は弁護士という、フランスの新進気鋭の作家がコミカルに抉り出す、時代遅れの知識人。しかし本人は自分はまだ現役どころか最前線を行き、若者や時代に寄り添っていると思っているところの滑稽さが、ダークな笑いになります。リベラル知識人

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