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スマホがどれだけ私達を不幸にしているか。そして、やめられない真の理由とは

スマホによって知的生産性は下がり、子どもの脳発達は止まり、自殺は増え、ついでに太る。
それなのに社会は本気で防ごうとしていない。我々個人も、スマホの問題はなんとなく知っているにも関わらず、自身や大切な人のスマホ利用に対して本気で危険を感じ本気で行動している人は、まだまだ多いとは言えない。

前書きの段階で、これを読んでいる2種類の人たちに、それぞれ一つだけ伝えたい。

a. 依存症でなく、スマホ依存の問題がいまいちリアルに感じられない人へ

あなたがこの問題をリアルに感じない場合、おそらくその理由の大部分は、あなた自身が依存症でないからでしょう。しかし、依存症には、それを引き起こしやすい因子があります。周囲の環境、精神状態、年齢、性別、遺伝的特性などです。例えば、女性は男性より、20代は40代より依存症患者が多いことが知られています。
あなた自身が依存症でないのは、非常に喜ばしいことです。しかし、あなた自身が依存症でなくとも、あなたの恋人や、子供、部下は、依存症になりやすい因子を持っていたり、あるいはすでに依存症かもしれません。
であるとしたら、自分以外の人がどれだけ依存症になりやすいのか、どれほどの害を与えるのか、そしてどうすればいいのか、知っておいたほうがいいと思いませんか?
その知識はきっと、家庭の幸せや、組織の生産性を守るために役立つはずです。

b. 自分がスマホ依存症だと思う人へ

今、スマホをやめられなくて困っていますか?それとも、意外と開き直って生きていますか?
困っている人は、わざわざ1章(スマホの害について)を読む必要はないので、2章から読んでください。やめられない仕組みを知った上で対策を知ることで、より効果が出るでしょう。
開き直っている人は、1章の中から、一番興味のある項目と2章の正常バイアスについの項目を読んでください。「やっぱり、損しているかも」と思うかもしれません。

この記事は、スマホの長時間利用に関する具体的な研究をまとめ、それによって危険性を現実的に認識できるようにすると同時に、あなた(もしくはあなたの大切な人)が正常性バイアスによって本気でスマホをやめようとすらできていないことを認識し、実際に脱スマホに向かえるようになることを目的としている。最後には、確実かつ現実的な脱スマホ方法も紹介する。


1. スマホによる害はすでに顕在化している

メンタルへの悪影響〜鬱と自殺の引き金〜

アメリカでは鬱病患者と自殺者が2010−2015年の間に急増している。
特に、10代女性の自殺率は5年間で65%上昇、重度うつ病の罹患率は58%上昇と非常に高い¹。 
このような変化はスマートフォンおよびSNSの利用と有意な相関があるとの調査結果が出ている²。
また、韓国の若者を対象とした調査では、スマホの利用時間とうつや自殺のより直接的な関連が明らかになっている³。

Cha, J. H., Choi, Y.-J., Ryu, S., & Moon, J.-H. Association between smartphone usage and health outcomes of adolescents: A propensity analysis using the Korea youth risk behavior survey. PLOS ONE. (2023).

スマホがメンタルに悪影響を及ぼすプロセスは想像に難くない。
画面の見過ぎで睡眠の質が低下したり、SNSによって劣等感や孤独感を強く感じたりすることは、誰もが納得できるだろう。

2013年に、ある科学者チームが13人の被験者を対象に、夜に2時間iPadを使ったあとのメラトニン生成を測定する実験を行った。(中略)iPadを使った被験者は、メラトニンの生成量が少なく、睡眠の質が低く、疲労感を覚えていた⁴。

アダム・オルター. 僕らはそれに抵抗できない (p.106). ダイヤモンド社. Kindle 版.

2000人近くのアメリカ人を調査したところ、SNSを熱心に利用している人たちのほうが孤独を感じていることがわかった⁵。

アンデシュ・ハンセン. スマホ脳(新潮新書) (pp.109-110). 新潮社. Kindle 版.

自殺や鬱病と聞くと「自分はならないよ、流石にそこまでスマホを利用していないと思う」という人も多いかもしれない。
確かに、そういった最悪の結果になる人は多数派ではない。
しかし、スマホがメンタルに悪影響を与えることは証明されている。それならば、自殺するほどではなくとも「なんとなく気分が落ち込む」「やる気が出ない」「イライラする」といった症状も引き起こされると考えるのが自然だ。
そして、そういったメンタルの不調は、それ自体が不快であるだけでなく、仕事、学業、人間関係などあらゆる営みにマイナスの影響を与える。

スマホによるメンタルへの悪影響は、大きくて遠い社会問題ではない。
あなたに、地道に、確実な損失を与える身近な問題なのだ。

知的生産性の低下〜ビジネスも芸術もうまくいかない〜

知的生産はスマホによって何重にも被害を受けている。
この件については、別記事で詳述するが、一部のみ抜粋して説明したい。

1.休憩中のスマホ利用でパフォーマンスが20%低下する
下記のグラフは、休憩中にスマホを見ていた場合、紙媒体やPCを見ていた場合と比較して、作業再開後のパフォーマンスが20%以上も低いという実験結果だ⁶。

Kang, Sanghoon., & Kurtzberg, Terri R. "Reach for your cell phone at your own risk: The cognitive costs of media choice for breaks." Volume 8: Issue 3, (2019). Pages 395–403. https://doi.org/10.1556/2006.8.2019.21.

20%パフォーマンスが低下するということは、単純に計算すると、その後の仕事時間が25%延びてしまう可能性がある。あと5時間で終わる仕事に6時間超、8時間で終わる仕事に10時間かかってしまう可能性があるということだ。

2.睡眠に悪影響を及ぼし、認知機能を低下させる
就寝前のスマホ利用が睡眠の量・質に悪影響を与えるという研究結果は複数存在する⁷ ⁸
さらに重要なのは、睡眠時間が6時間を下回る日が2週間続いただけで認知機能の大幅な低下を招くということだ⁹

Since chronic restriction of sleep to 6 h or less per night produced cognitive performance deficits equivalent to up to 2 nights of total sleep deprivation, it appears that even relatively moderate sleep restriction can seriously impair waking neurobehavioral functions in healthy adults.

(筆者訳)
6時間以下への睡眠制限が最大で二晩分の睡眠不足と同等の認知パフォーマンスの低下を生んだということは、比較的控えめな睡眠制限であっても、起きている間の神経行動機能に深刻な欠損をもたらすということだ

1日でも徹夜したことがある人はわかるだろうが、仕事の質は大きく下がる。特に、クリエイティブな仕事はできたものではない。2日徹夜などもってのほかだ。

つまり、あなたが3時間近くスマホを見ていたり、就寝前にスマホを見ていたりしていて、睡眠が6時間以下だとしたら、スマホによって脳機能が大きく低下しているといっていい。
(「4−5時間の睡眠でも大丈夫だ」と思っている人も、ほとんどはショートスリーパーだと思い込んでいるだけで睡眠不足である確率が高い。上述の研究の被験者も多くは睡眠不足の自覚が薄かったのだ)

===

このほかにも、スマホによってDMNが生み出す"ひらめき"の喪失、脳の報酬系異常による意欲の減退など、さまざまな要因でパフォーマンスが悪化する。

そして、認知機能の低下や報酬系の異常などが、さらにスマホを長時間利用させる要因となり、負のスパイラルが生まれていることも見逃してはならない。

知的生産によって社会を大きく動かし得る人々、特にこれから成果を出すはずの若者の才能が静かに殺されていっていることは、紛れもなく社会の重大な損失である。


脳の発達が止まる

あなたが未成年である場合、もしくは未成年の子どもを持つ親である場合、特に危機感を持つべきだろう。

スマホの利用時間が長い子どもほど学力が低いことは日本の研究でも明らかになっている¹⁰。

もし「スマホ利用で勉強時間が短くなっているだけ」「学力が低い子どもは塾などで学習する時間が短く、スマホ利用時間が長くなっているだけ」といった単純な理由であれば「受験シーズンになり本気で勉強すれば大丈夫だろう」と期待もできる。

だが、そうではないようだ。スマホ利用時間が長くなると、脳の発達自体が遅くなるという相関が見つかっている

インターネットをたくさん使っていた子どもたちほど、3年間の言語能力の発達が小さく、幅広い範囲における脳の発達にも悪影響が見られました。
(中略)
これまで、同様の研究をテレビやゲームでも行なってきましたが、ここまで脳の広範囲における発達に悪影響が見られたのは初めてのことでした¹¹。

榊 浩平; 川島 隆太. スマホはどこまで脳を壊すか (朝日新書) (p.92). 朝日新聞出版. Kindle 版.

特に衝撃を受けたのは、インターネットを「ほぼ毎日使用する」と回答した子どもたちの脳の発達は、ほとんどゼロに近い数値となっていたことです。つまり、インターネットを毎日使っている子どもたちは、3年間で脳が全く発達していなかったのです¹²。

榊 浩平; 川島 隆太. スマホはどこまで脳を壊すか (朝日新書) (p.94). 朝日新聞出版. Kindle 版.

仮にスマホをやめて、脳の発達速度が正常に戻ったとしても、さらに3年分発達している他の子供たちの脳も、発達を続ける。そして20歳程度で脳の発達は止まる。その差は、永遠に縮まらない。取り返しがつかない。そう捉え、強い危機感を持つべきだ。

(今やほとんどの子どもがスマホを使っているので、裏を返せば、スマホを利用させないだけで、他の子供より、相対的に早く脳を発達させることができるとも言える)


眠れない、太る、頭が回らない、疲れやすい、なんだか調子が悪い…

ここまでの各所でも触れてきたことだが、「よく眠れない」「思考力低下」「疲労感」といった症状は、スマホによっても引き起こされる。これらの症状によって生まれる様々な損失も問題だが、そもそもこれらの症状自体がとても不快であり、幸せを損なうものだ。

特に、睡眠への悪影響が出る点は非常にクリティカルだ。「知的生産の低下」の項で紹介したのはほんの一側面でしかない。
睡眠の量や質が不足することによって、肥満、認知症をはじめ様々な健康被害が引き起こされる。

繰り返しになるが、スマホによる悪影響は、大きくて遠い社会問題ではない。
あなたに、地味だが確実な損失を与える身近な問題なのである。


2. やめられないのはなぜ?

スマホもドラッグと同じように脳を変化させる

「ドラッグを使用すると、脳が破壊され、意志の力でやめられなくなる」と小学校の授業で習った人は多いのではないだろうか。
脳科学では、ドラッグ等の化学物質だけでなくギャンブル、性行為、ショッピング、インターネット、ゲームのような「行動」も同様に脳に作用し、依存を引き起こすことが認められている¹³
行動への依存は物質依存に対して「行動嗜癖(bihavioral addiction)」と呼ばれる。

行動嗜癖によって脳がどうなってしまうのかは、下記の説明に詳しい。

報酬系回路が慢性持続的に活性化され続けると馴化が生じ、鈍化が進行する。つまり、報酬系回路の機能は徐々に低下し、より報酬を感じにくく、快感が得られにくくなる。この状態は報酬回路不全症候群と呼ばれる。こうなると、あらゆることに対し興味や関心が薄れ、するとますます、依存している物質乱用や行動嗜癖を繰り返し続ける行動様式に陥ってしまう¹³

  谷渕由布子, & 松本俊彦. 行動嗜癖. 医療法人同和会千葉病院精神科 & 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究部 薬物依存研究部/自殺予防総合対策センター. (2014). https://doi.org/10.14931/bsd.4651

まさに、小学校で教えられた薬物依存と同じだ。
スマホ利用も、ドラッグと同じように、脳の仕組み自体に影響を与えてしまう。だから「意志が強ければスマホ依存にはならない」「知能が高ければスマホ依存にはならない」という考えは間違いだ。

大学生になって最初の1学期は快調だった。クラスで一番の成績をとり、体格もよく、健康だった。しかし2学期にはストレスを感じるようになる。そこで息抜きとして、ワールド・オブ・ウォークラフトで「ちょっとだけ遊ぶ」ことにした。結果的に彼は2学期の単位を落とした。Aで埋め尽くされていた成績はF(不合格)でいっぱいになった¹⁴。

アダム・オルター. 僕らはそれに抵抗できない (pp.95-96). ダイヤモンド社. Kindle 版.

知能が高くてもコカインを摂取すれば中毒になるのと同じで、脳は報酬に非常に敏感であり、すぐに変化を起こしてしまう。そして、変化してしまえば、意志の力では逃れられないのである。

心理学的観点から〜手近な慰めは最も強化される〜

スマホと薬物には、当然多くの相違点もある。
スマホを利用する我々にとってポジティブな点は、スマホはコカインやヘロインほど直接的に身体を害さない点だ。
ネガティブな点は、ほとんど誰もが、いつでも、際限なく摂取できてしまう点だ。そして、これこそがスマホを現代最強の依存対象たらしめる要因だ。

いつでも際限なく摂取できる状態にあることが、なぜ問題なのか?心理学の「条件付け」理論に当てはめることで理解しやすいだろう。

レスポンデント条件付け
レスポンデント条件付けが何かの説明は省略する。いわゆる「パブロフの犬」だ。

現代人の多くはスマホが視界に入っただけでドーパミンが出ることが確認されている。これはレスポンデント条件付けがされた状態と捉えることができる。ドーパミンは快楽物質と思われているが、実際は「期待」物質で、これが分泌されることで、対象となるものを得るために行動する¹⁵

オペラント条件付け
オペラント条件付けは、要するに飴や鞭などにより行動が強化されたり弱化(抑制)されるプロセスのことだ。

常に新しい動画が出てくるショート動画の体験や、SNSでいいねをもらう体験は「飴」である。飴の継続・反復的な獲得により、もっとスマホを触りたくなる。

===

レスポンデント条件付け、オペラント条件付けのどちらも、継続・反復的な刺激によって反応や行動が強化されること説明している。そして、スマホはいつでも際限なく使用することができる。これほど継続・反復的に刺激を与えるものはないだろう。タバコを1日50回吸いに行くことは今の社会ではなかなか難しいが、スマホの平均持ち上げ回数は1日56回というデータがある¹⁶。

要するに、「やればやるほど依存する」「依存するほどやる」という性質を持つ脳にとって、いつでも、際限なく得られる報酬であるスマホは最悪なほど相性がいいのである。

我々は日々、楽しみのためにスマホを見る。疲れ果てた時や嫌なことがあった時にはSNSや動画サイトを見てジャンクな快楽で心を埋める。それは酒やドラッグで気を紛らわす行為と同じであり、依存行動を強化する条件付けになる。

スマホは、最も手近な「慰め」であるゆえに、最も強力なドラッグになっている。


平均年収2,000万以上の秀才たちがあなたを依存させようとしている

脳科学や心理学の観点から分析してきたが、別の観点からもスマホに抵抗することの難しさを感じてみよう。

InstagramやYoutubeを作っているのは、世界の一流企業だ。それらの企業の年収の中央値は下記のように推定されている。

・Meta(InstagramやFacebookの運営企業):推定約2,340万円
・Google(Youtubeの運営企業):推定約2,115万円

※2024年2月時点のZippia(アメリカのキャリア情報サイト)での推定値(ドル)¹⁷と2024年2月17日時点の為替レートを用いて算出

また、GoogleのCEOの年収は330億円だという¹⁸。

何が言いたいか?
私たちにできるだけ長い時間スマホ、インターネットを使わせようと全力で努力しているのは、世界の名だたる天才、優秀なビジネスマンや科学者、エンジニアたちだということだ。
そりゃ、敵うわけがない。

有名な話だが、スティーブ・ジョブズをはじめとして、これらの製品、サービスを作っている企業のトップ、幹部たちは、自分の子供にはなるべく使わせないようにしているという事実も付け加えておきたい。
自社製品について知り尽くしているテック企業幹部がそうしているということは、スマホの危険性は推して知るべしだろう¹⁹ ²⁰。


多くの人が気づかない真の理由:「本気でやめようとしていない」

ここまで見てきたことは、確かにスマホに依存してしまい、やめられない理由を説明している。
しかし、2024年時点において、最も大きな理由は別にある。

それは、多くの人が正常性バイアスによって「本気でやめようとすることができない」状態になっていることだ。

実際のところ、スマホはアルコールやドラッグほど身体依存性は高くない(と、現時点では考えられている)。実際、筆者や、筆者の周りの人間も、適切な脱スマホ法を使うことで、比較的簡単に寛解に至っている。

問題は、依存性ではなく「依存している自覚」「やめようとする意識」「適切な脱スマホ法の認知」だ。

現状、社会はスマホ規制をしていないどころか「スマホは悪影響もあるよね」という発信がされることすら決して多くない。身の回りでも、酒やタバコのように「体に悪い」「やめた方がいい」という会話を耳にする機会は少ないはずだ。酒やタバコを日頃から嗜む人より、スマホを持っている人の方が圧倒的に多いにも関わらずだ。
もちろん、スマホやアプリに「健康を害する恐れがあります」と言う注意書きもないし、堂々とCMが放映されている。

このような状況が、非常に強い正常性バイアスを形成し、人々の中で「自分はスマホ依存かも」「スマホ利用を控えよう」という気持ちが大きくなることを妨げている。

正常性バイアスとは、危険な状況にも関わらず「大丈夫だろう」と思い込んでしまう認知特性のことである。
あなたも、津波の危険性を過小評価して退避が遅れたニュースを見たことがあるかもしれない。チェルノブイリ原発事故で初動の対応が遅れたのも、正常性バイアスが要因だといわれている。

厄介なことに、正常性バイアスは相乗効果で増幅する。
正常バイアスにとらわれている人はなかなか行動を起こせない。周りの人が行動していなければなおさらだ。そして、それは周りの人も同じだ。すると誰もが「周りが声や行動を起こさないため安心だろう」と無意識に考え、一瞬危険を感じても無視してしまう

周りも同じだから依存している自覚は生まれづらいし、本気でやめる気持ちが育たない。そして、いざ対策しようとしても、適切な方法が世の中に辿り着けない(これも社会の関心が低いことに起因している)。
これが、依存性以上に、スマホをやめられない存在にしている要因である。

スマホの害は、この記事でも紹介したように非常に大きいし、すでに現実のものだ。多くの人は何かしら聞いたことがあるだろう。
それなのに、本気でやめようと対策をとっている人はあまりにも少なすぎる。
まさに正常性バイアスのなせるわざである。

「現代人は1日平均で3.5~7時間スマホを使っているらしい。やばいぞ」という警告を耳にすることがあっても、一瞬は危機感を覚えるが、「みんなそれくらい使ってるなら、自分は劣ってる方でも損している方でもないな。大丈夫だ」と自分を安心させ、正当化しようとするのだ。

正常性バイアスへの対策は、自身の体と心の声に耳を傾け、対話することだ。
1分だけ思い返してみてほしい。毎日の生活の中で、もっと時間があったらなあと思うことはないか?スマホを使っている時、実は少し嫌な気持ちや罪悪感を覚えたりはしないか?スマホを3時間も5時間も見て、自分はその時間に見合うだけの利益を得ていないのではないのか?

すこしでも思い当たるのであれば、あなたはスマホを使いたくないのに、正常性バイアスにより、やめようとしなくなってしまっている状態ということだ。

補足:
冒頭でも触れたが、依存症を引き起こしやすい因子というものがある。環境、精神状態、年齢、性別、遺伝的特性などだ。例えば、女性は男性より、20代は40代より依存症患者が多いことが知られている。
要するに、依存症になりやすい人となりにくい人がいるということだ。

自身が依存症でない人は、積極的に人にスマホの害を広めたり、身の回りの人がスマホに依存しそうなのを止めようとしない(現状、社会的に重要な意思決定を下すポジションに40~60代の男性が多いことを考えると、対応のスピードが上がらないのも当然なのかもしれない)。
さらに、そういった人が「スマホ依存は意志が弱いだけ」「わざわざ制限しなくていい」と発言することで、スマホに依存しやすい因子を持つ人が、意志に頼ったスマホ制限を試みてしまったり、「制限しなくてもいいんだ」と思ってしまったりする。

もしあなたが依存症でない場合、自分は大丈夫でも、自分の子どもや部下が依存症になりやすい危険性があることを知り、さりげなく啓蒙したり、相談に乗るなど少しでも対策を取っておいたほうがいい。特に子供の脳は可塑性が高く依存しやすいので、手遅れになる前に。

もしあなたが依存症の場合、周りの声に惑わされず、健康的なスマホ利用を追求してほしい。


3. 確実で現実的な脱スマホ依存方法

厄介なことに、スマホはインフラと化していて、手放すことが現実的ではなく、常に手元にあるため、薬物依存の治療のように依存対象から離れることが困難だ。

ただ、私個人はいくつもの方法を試し、スマホ利用時間を1日8時間から1時間に減らすことができている。
そのうちの一つの方法は私の友人にも勧め、今のところ全員がスマホ利用時間の短縮に成功している。

こちらの方法がそれだ(有料記事ではない)

(うまくいかなかった方法も含めた15の方法をまとめた記事はこちら)

スマホの有害性と正常性バイアスに気づくことができたのであれば、ぜひ上記の対策方法も読み、今からでもスマホ利用時間を減らし、より幸せな人生を送ってほしい。

4. おわりに

この記事を読んだ方がスマホと適切に付き合い、人生を幸せにできるよう、何かできたらと思っています。

スクリーンタイムパスコードをかけてもらう相手が見当たらない場合、都内であれば私が設定しにいきます。
その他にもスマホに関する悩みがあって相談したい方、一緒に何かしたい方など含め、X (Twitter)のDMでご連絡ください。

Twitter:https://twitter.com/mwb_yu


参考文献

[1] Keyes, K. M., Gary, D., O’Malley, P. M., Hamilton, A., & Schulenberg, J. Recent increases in depressive symptoms among US adolescents: trends from 1991 to 2018. Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology, 54(8), 987–996. (2019). https://doi.org/10.1007/s00127-019-01697-8

[2] Abi-Jaoude, E., Treurnicht Naylor, K., & Pignatiello, A. Smartphones, social media use and youth mental health. CMAJ: Canadian Medical Association Journal, 192(6), E136-E141. (2020). https://doi.org/10.1503/cmaj.190434

[3] Cha, J. H., Choi, Y.-J., Ryu, S., & Moon, J.-H. Association between smartphone usage and health outcomes of adolescents: A propensity analysis using the Korea youth risk behavior survey. PLOS ONE. (2023). https://doi.org/10.1371/journal.pone.0294553

[4] アダム・オルター. 僕らはそれに抵抗できない (p.106). ダイヤモンド社. Kindle 版.

[5] アンデシュ・ハンセン. スマホ脳(新潮新書) (pp.109-110). 新潮社. Kindle 版.

[6] Kang, Sanghoon., & Kurtzberg, Terri R. "Reach for your cell phone at your own risk: The cognitive costs of media choice for breaks." Volume 8: Issue 3, (2019). Pages 395–403. https://doi.org/10.1556/2006.8.2019.21.

[7] Alshobaili, Fahdah A., AlYousefi, Nada A. The effect of smartphone usage at bedtime on sleep quality among Saudi non- medical staff at King Saud University Medical City. Journal of Family Medicine and Primary Care 8(6):p 1953-1957, June 2019. (2019). https://doi.org/10.4103%2Fjfmpc.jfmpc_269_19

[8] Sanjeev Sinha, Sahajal Dhooria, Archana Sasi, Aditi Tomer, N. Thejeswar, Sanchit Kumar, Gaurav Gupta, R.M. Pandey, Digambar Behera, Alladi Mohan, and Surendra Kumar Sharma. A study on the effect of mobile phone use on sleep. Indian Journal of Medical Research155(3&4):p 380-386, Mar–Apr 2022. (2022). https://doi.org/10.4103/ijmr.ijmr_2221_21

[9] Hans P.A. Van Dongen, Greg Maislin, Janet M. Mullington, David F. Dinges, The Cumulative Cost of Additional Wakefulness: Dose-Response Effects on Neurobehavioral Functions and Sleep Physiology From Chronic Sleep Restriction and Total Sleep Deprivation, Sleep, Volume 26, Issue 2, March 2003, Pages 117–126, https://doi.org/10.1093/sleep/26.2.117

[10] 榊 浩平; 川島 隆太. スマホはどこまで脳を壊すか (朝日新書) (p.53). 朝日新聞出版. Kindle 版.

[11] 榊 浩平; 川島 隆太. スマホはどこまで脳を壊すか (朝日新書) (p.92). 朝日新聞出版. Kindle 版.

[12] 榊 浩平; 川島 隆太. スマホはどこまで脳を壊すか (朝日新書) (p.94). 朝日新聞出版. Kindle 版.

[13] 谷渕由布子, & 松本俊彦. 行動嗜癖. 医療法人同和会千葉病院精神科 & 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究部 薬物依存研究部/自殺予防総合対策センター. (2014). https://doi.org/10.14931/bsd.4651

[14] アダム・オルター. 僕らはそれに抵抗できない (pp.95-96). ダイヤモンド社. Kindle 版.

[15] Westbrook, Andrew., & Braver, Todd S. "Dopamine Does Double Duty in Motivating Cognitive Effort." Neuron, Volume 89, Issue 4, P695-710, (2016). https://doi.org/10.1016/j.neuron.2015.12.029.

[16] 株式会社PR TIMES. スマホを1日何時間使っている?意識と実態に3時間差「スマートフォン利用に関する生活者実態調査」 公開. PR TIMES. (2021). Retrieved February 24, 2024 from https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001076.000000112.html

[17] Zippia, Inc.. Zippia. [cited 2024 Feb 14]. Available from https://www.zippia.com.

[18] Tilo, Dexter. "Google CEO takes home nearly $226 million in 2022." HCAMAG, (2023). [cited 2024 Feb 17]. Available from  https://www.hcamag.com/us/specialization/leadership/google-ceo-takes-home-nearly-226-million-in-2022/443814.

[19] Forbes JAPAN 編集部. アップルの幹部はスマホを子どもに与えない。脳科学を元にIT企業が仕掛けた「罠」. Forbes JAPAN. (2021). [cited 2024 Feb 14]. Available from  https://forbesjapan.com/articles/detail/39067.

[20] Bowles, Nellie. "A Dark Consensus About Screens and Kids Begins to Emerge in Silicon Valley. 'I am convinced the devil lives in our phones.'" The New York Times. (2018). [cited 2024 Feb 17]. Available from https://www.nytimes.com/2018/10/26/style/phones-children-silicon-valley.html.

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