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一、秋晴れ

一、秋晴れ

澄んだ青空、ひんやりとした風 昼間の時間が日を追うごとに短くなり、薄手の寝具を片付けて厚手の寝具を出した。これから使う毛布を洗うのだ。ドーナツ状の洗濯ネットに毛布を一枚入れて、洗濯機を作動させ、物干し竿で乾かしている間に次の毛布を洗濯ネットに入れてセットする。洗濯機の毛布コースは一時間強を要す。そのため、家族全員の毛布を洗って乾かすのに日中の大半を費やすことになりそうだ。

 十月下旬ともなると、

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九、東京散策―虎ノ門、愛宕

九、東京散策―虎ノ門、愛宕

 家族が手術を受けることになったのは、何かと気忙しい昨年の十二月であった。立ち会いを求められた私は、東京都内の病院へ向かった。最寄り駅の改札を抜けて地上へ出ると、家族からメッセージが届いた。手術開始が二時間遅れるとの事。私は思わぬ足止めを食らった。

 場所は港区の御成門交差点。メッセージがあと七、八分早く届いていたら、有楽町に留まって大型家電量販店をじっくりと見ていただろう。しかし私は迷わず日比

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七、運動が苦手な私が、人並みに楽しめる唯一のスポーツとは

七、運動が苦手な私が、人並みに楽しめる唯一のスポーツとは

 私の恋人は長野に住んでいた。 スキーが上手な人だった。

 今から二十三年前の一九九八年二月、私は恋人が運転する車で、白馬長野有料道路を通っていた。大糸線の信濃大町駅で待ち合わせた二人は、八方尾根スキー場でスキーを楽しんだ。

「帰りは長野駅まで車で送るから、新幹線で帰ったらどう?」

と言われた。その人は大北地域に住んでいたので、私がわざわざ長野まで送ってもらう必要はないと断ると、

「新しい

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六、私が今日ピアノを弾くのは、父の影響。

六、私が今日ピアノを弾くのは、父の影響。

 電子ピアノが我が家に来て、今年で十年になる。我が子がピアノを習うために購入した電子ピアノだが、今は私が弾いている。

 最近よく弾いているのは、ベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」第二楽章。ベートーヴェン生誕二百年だった昨年、ベートーヴェンの曲を何か一曲弾けるようになりたいと思って練習したのが、悲愴ソナタの第二楽章だ。傷口に軟膏を塗り、患部を擦るように、そばに寄り添ってくれる曲だ。この曲を

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五、書くこと。 それは、 自閉症スペクトラムの私を助けてくれるはず。

五、書くこと。 それは、 自閉症スペクトラムの私を助けてくれるはず。

 私はNHKのあさイチを見た。 その日の特集は「コロナ禍で深刻化?大人の発達障害」。コロナ禍と大人の発達障害?どのような関連があるのだろうかと注視していると、それはパートナー側からの問題提起だった。おうち時間が増え、パートナーの理解できない言動にストレスを感じる人が、 昨今増えているのだという。

 私は四十歳のときに、広汎性発達障害と診断された。いまでは自閉症スペクトラム(通称ASD)と呼ばれて

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四、ステージⅠのがんでさえ、私に携わった医療従事者は数知れず。

四、ステージⅠのがんでさえ、私に携わった医療従事者は数知れず。

 私の身体にがんが見つかったのは、今から八年前だった。自らのがん体験を投稿するのには、躊躇いがあった。一つは、十年生存率に数えられる二年後を待ちたかったこと。そしてもう一つは、ステージⅠで発見できたため、経験が乏しく、読み応えある文章など書けそうにないことだ。それでも書こうと思ったのは、いまこの時を、医療の最前線で奮闘している医療従事者へ、エールを贈りたいからに他ならない。

初めての人間ドック 

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こんにちは。ホルトノキに出会ったのは今から十三年前。〜「海での時間」「旅する日本語」応募作品

こんにちは。ホルトノキに出会ったのは今から十三年前。〜「海での時間」「旅する日本語」応募作品

 こんにちは。内陸での生活が長くなり、昨今の社会情勢もあって、今年は海を見ずに終わりそうです。

 撮影したのは2007年12月1日。場所は大分県大分市の国道10号線上の歩道橋。海岸線を走るこの区間は別大国道と呼ばれ、別府市と大分市とを結ぶ交通の要衝です。別府大分毎日マラソンのコースとしても広く知られています。

 私はこの年にうつを患い、大分の実家で療養生活を送っていました。この頃の愉しみは、ビ

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