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日記:拳銃を構えた男の銅像を救う話

ぼくの住んでいる街には「拳銃を構えた男の銅像」がある

それは銅像のタイトルであり、銅像のあり方そのものでもある

銅像とはいえ拳銃を構えている人間を街のモニュメントにするなんて明らかに悪趣味だと思う


最近、ある事件が起こった

銅像の前でひとりの人が倒れ、亡くなってしまったのだ

死因は不明、外傷も持病もなく、それほど年も取っていない

「銅像が撃ったのだ」

と街ではうわさになった


事件のあと、ぼくは繰り返し同じ夢を見た


★★★
真夜中、銅像が涙を流している

なぜ泣いているのかわからない

彼はゆっくりと自分の銃を自分に向けようとするのだが

銅像だからうまく動くことができず

ようやく自分の方に銃を向けるころには東の空が明るくなっている

トリガーを引き、銃声がなる

銃声の音で目を覚ますと、いつも決まって朝の四時だった

★★★


この夢がちょうど10回繰り返されたとき

ぼくはうんざりして「拳銃を構えた男の銅像」のところに足を運んだ

まるで展覧会に来たみたいに入念に銅像を眺めた

なんの変哲もない

と思ったが、ある事実に気づく

銃口の真正面にある木の幹に穴が開いているのだ

近づいてよく見ると貫通している

ぼくは少し怖くなった


その夜、また夢を見た

いつもと同じ夢だ

銅像が銃を自分に向けようとしている

「これじゃいけない」とぼくは思った

彼に歩み寄り、どうしたんだ?と聞いた


「ほんとうはこんなことしたくないんだ。人なんて殺したくない」

「君は人なんて殺していないよ。前の人はたまたま君の前で倒れただけさ」

「私は比喩的に人を殺してきた。償わないといけない」

比喩的に人を殺すというのがどういうことなのか、さっぱりわからなかったが、そこは追及しないことにした

「ねえ、君がなにに苦悩しているのかぼくにはわからない。けど、銃を捨てれば、少しは君の心持ちが変わるんじゃないかな」

ぼくは家の冷凍庫で冷やしてあった棒アイスを二本もってきて、彼に渡した

_______________________

早朝、銅像のところにいくと

「拳銃を構えた男の銅像」は「棒アイスを持つ男の銅像」に変わっていた

こころなしか彼の表情も穏やかになっている気がする

ぼくはこの結果に大いに満足し、コンビニで箱アイスを買い

家に帰りながら(朝飯前だというのに)二本も食べた

こんなに気持ちのいい朝は思い出せる限りなかった


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