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#星新一
ひとりで歌うおんなのこ
朝の静けさに包まれた町の、そこかしこが穴ぼこの石の円形劇場で、女の子は歌っていました。雲が流れてきて、たずねます。
「どうして誰もいないのに歌っているんだい」
「歌いたいからよ」
女の子は笑って言いました。
「ひとりでさみしくないのかい」
「こうして、あなたみたいに声をかけてくれる人がいるもの、さみしくないわ。あなたもひとりなのね?」
女の子がそう聞くと、雲はばかにしたように笑って言いました。
ヤン博士の数奇な人生
ヤン博士は孤独な男だった。好きな女性とは結ばれず、理想の結婚生活は理想のままに終わってしまう人生に嫌気がさしていた。
かなしさがもし、キャンディのように口に放りこめるものだったなら、憎しみや恨みは溶けてなくなり、人々はしあわせに暮らせるかもしれない。
そう考えたヤン博士は、まず、かなしみを抽出する機械を作ろうと考えた。脳波を測定する機械に自分の体をつなぎ、かなしみを感じた時の数値を計測。繰り返