花鳴り【モノカキワークス】

美しいものは、いつも日陰に咲く。 主に童話とオチのあるショートショートを書いているWe…

花鳴り【モノカキワークス】

美しいものは、いつも日陰に咲く。 主に童話とオチのあるショートショートを書いているWebライター兼エディター。

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最近の記事

「コトリ」

「お客さん、おめでとうございます! あなたが選ばれた方です!」  アケミがたまたまスーパーへ行くと、入店10万人目だとかではっぴを着た男性店員に呼び止められた。ハンドベルの音と共に、記念品のオレンジをひとつもらうことになった。  持った感じはなんの変哲もないオレンジだ。みかんよりちょっと大きくて、ずっしりしている。 「ありがとうございます。品種はなんでしょうか」  アケミが聞くと、店員はニヤリ。 「それは、特別な栽培方法で作られたオレンジなんですよ。農家の間では『コ

    • ある愛のはなし

       魔女がいるという、古いちいさな国のちいさな城に、ある王さまがいた。王さまはお妃さまとくらしていたが、もともと体が弱いお妃さまで、なかなか跡継ぎに恵まれなかった。そんなことから、王さまは焦りもあり、浮気心を抑えることができなくなっていた。  一方、お妃さまは国を統べる者がいなければならないことはよくよくわかっていた。王さまの葛藤を知ってかしらずか、その後、お妃さまは自分のいのちと引き換えに待望の王子を産んだのだった。  王さまと王子さまふたりの生活が、お妃さまのしんだ後には

      • ぼくとリコちゃん

         こんにちは  ぼくは くまの おとこのこ  リコちゃんのおうちの  リコちゃんのおふとんにいて  まいばん いっしょに ねむってる  リコちゃんは ぼくを 「くんたん」  って よぶよ  だから ぼくもね 「リコちゃん」  って よんでるんだけれど  なかなかきづいて もらえない  もしかしたら ぼくのこえ  きこえていないのかな?  そうかんがえると すこし さみしいけれど  ぼくは リコちゃんのおとなりで  ねむれるから……しあわせ  あるひの あさ  

        • 天体をめぐる3つの短いストーリー

           第一夜、チョコとチョコを作る時の煙の話 ある日、煙男がバーに入ると「お前はダメだ」とマスターに入店を拒否された「なぜぼくはダメなので?」押し問答が続いたが、実はその隙に煙男とマスターとの間を しなる身体で進み行く者がいた 黒猫だった。 マスターは応える代わりにミントのチョコを二つ三つ煙男に渡して追い払うと ドアをパタンと閉めてしまった 煙男はくさくさした気分でチョコを一気に頬張った すると! 煙男はすいーっと靄のように青い闇夜に溶けていった  第二夜、知り合い と

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        • 3分で読めるストーリー
          19本
        • 童話の森
          15本
        • どこかのせかいの絵本の一場面より
          9本
        • にちにちつれづれ
          1本

        記事

          花咲く丘のひみつ

           花が咲き乱れる丘は、たくさんの生き物の隠れ家になっていました。そこで、くまくんはうさぎさんとお話しするのが好きでした。 「ここは、どうしてこんなにきれいなんだろうね」  いいにおいにつつまれながら、くまくんがうさぎさんにたずねました。うさぎさんはくまくんとおんなじことを考えていたので、ううーん、とかんがえこみました。 「……わからないわ」  しばらくして、うさぎさんはぽつりと言いました。どうしてこの丘がこんなにもすてきなのか、ふたりとも考えたこともなかったのです。 「きっ

          もぐらとことり

           ある大きな街に、もぐらくんと小鳥さんが住んでいました。二人は毎朝あいさつをするのが日課です。  小鳥さんはいつも、大きな大きな鳥の話を聞かせます。  もぐらくんも毎日、それはそれは大きなもぐらの話を聞かせます。  話が終わると、もぐらくんは地下へ、小鳥さんは公園の木へとんで行きました。  あるとき、小鳥さんは大きな鳥について行こうと思いました。  ごおお……と大きな鳥は勢いよくやってきました。小鳥さんは一生懸命羽ばたきました。 「こんにちは! どうしたら上手にとべますか

          蝶の背中

           八重の住む家は、だいたい十五家族ずつでひとかたまりになって山にいくつか点在しているような村の、比較的町といえるほうに近い麓付近にあった。八重は十になったばかりだったが家がなかなかに貧しいため、よく両親や近所の人の手伝いをして家計を助けていた。八重に兄弟はいなかったが、手伝いとしてすることの多くは八重よりもさらに小さな子のおもりだった。最初から八重には子どもの扱い方が本能で分かっていた。だから泣いている子がなにを求めているのかをすぐに理解できたし、それに間違いはなかったので時

          金のじょうろ

           恥ずかしいから、わたしは顔を伏せた。鞄を両手に抱えて立っているのも必死。視線は感じるのに顔はどうしてもあげられそうにない。  朝の誰もいない学校の校門でわたしは、彼に告白をした。  彼は花島シロくんという男の子で、苗字にあるように花が好きだった。名前はひらがなで“しろ”というのだけれど、クラスのみんなからは犬っぽく扱われていて“シロ”というほうがあっている。そしてわたしも例にもれずカタカナ呼びをしていた(もっとも、呼ぶときにはひらがなもカタカナも変わらないのだけれど)。

          じゃん憲法

          「えー、本日お集まりくださった方々、まことに、まことに、ありがとうございます。皆さまはなんとも幸運な方々であります。なぜなら、本日、この国が新しく生まれ変わる瞬間を目にするのです。今まで長らく王の途絶えていた国ですが、本日この中の誰かが王に選ばれ、そして、そして! さらによい国へと躍進してゆくのです! 遅くなりましたが、わたくし本日の司会を勤めさせていただきます、カレイ・ノ・ニツケと申します。よろしくお願いします!」  カレイ・ノ・ニツケがマイクを振りかざすと、エーベルの八

          風の劇場

          ぼくが窓を開けました。すると、そこは野原ではなく、小さな暗い部屋があるのみでした。 「どこへいってしまったんだろう、あの花の咲く野原は」 ぼくはひとりごとを言いました。そこにあったはずのみどりいろのやわらかい草でおいしげったやさしい野原が、窓の外にあるのが、いつもの景色だったのですから。 そのとき、窓の向こうにあらわれた暗い部屋に、ぽっと灯りがともりました。よく見てみると、ちいさい舞台にビロードの幕。手前にはさらにちいさい客席があります。幕の前で、さらにさらにちいさい男

          おとぎの国

           ある国のある森のおくに、古びた塔がたっていました。近くの村の人びとは、その塔には花のようにかわいいお姫さまがとらわれているだとか、魔女が薬を作っているだとか、好き好きにうわさしあっていました。しかし、その塔にのぼって真実をたしかめた者はだれ一人としていませんでした。  あるとき、その村に、都会からきょうだいがひっこしてきました。お父さん、お母さん、それからお姉さんのアナベル、弟のサンベルの四人家族でした。  きょうだい二人は村のだれよりも、と言っていいほどかっぱつで、こう

          野原のちいさな物語り

           広大な野原に、十字の形をした墓標が、何千、何百と立ち並んでおりました。墓標といってもそれは立派なものではなく、もともと海辺に流れついた流木であったり、壊れた船の柱であったりしました。しかし年月が経つにつれ、雨風に傷んで弱く、もろくなってゆきました。  春のことです。  ひとつの白い木でできた墓標の前に、舞い降りてきたものがありました。それは、花が咲き乱れる野原を夢見ていた綿毛です。白い半透明の綿毛は、そよ風に運ばれ種をぷらりとぶら下げて、静かにやってきました。 「こんにち

          野原のちいさな物語り

          魔法使いのなみだ(4)

           ◆□◆□  小屋へ戻ると、ユキはすぐさまキッチンのいすに腰をかけた。ミサトも同じようにテーブルを挟んだ反対側の椅子に腰を落ち着ける。まだ胸の奥がどくどくと忙しない。今日は、なんという日だろうとミサトは思った。夕方に目を覚まし、狼の声を聞き、ユキとともに狼を助ける。しかし解けた謎はふたつあった。  ユキの言っていた薬屋という職業。それから、森を守っていると言ったこと。あれは今のように森の動物たちのための薬屋をやっているということだろう。  ちいさく息を吐くと、同時にユキも

          魔法使いのなみだ(3)

           ◆□◆□  ユキはどんどん青ざめていく。手元の花をそれでも無造作に引っつかみ、いくつかのバケツから数本の色とりどりの綿を付けた花を抜き取り、鍋を戸棚から引っ張り出した。中に水を入れ、火にかける。黒いみつあみがひゅんひゅん揺れる。水はすぐに沸騰した。そこへ今選び取った花の束を鍋に入れ箸でかき混ぜる。その動作に少しの無駄もなかった。ミサトには彼女がなんの作業をしているのかまったく検討もつかないが、それでもユキは慌てているということは理解できた。  誰かが言っていたウィンシーを

          魔法使いのなみだ(2)

           ◆□◆□  目の前には陶器のマグカップ。中身は濃い茶色の液体が入っていて、これはココアだといって手渡されたものだったが、ミサトはおそろしくて口をつけることができずにいた。  今座っているのは小さなキッチンにおかれた小さな木の椅子で、そろいの木のテーブルもまたそれに合った大きさだった。魔法使いという少女は向かいの席に座りじっとこちらを見据えている。ミサトはどうか食われませんようにとだけ祈りながら沈黙に耐えた。  ちらりと天井を見ると様々な色の乾燥された花(……たしか、ド

          魔法使いのなみだ(1)

            ◆□◆□  魔法使いの棲むという森で、少年ミサトは迷いの子。  いつも「弱虫」「泣き虫」「びびり」とからかわれるものだからと度胸試しのつもりで森に足を踏み入れたのが間違いで、気づけば帰り道も分からないほどに木が生い茂る場所まで来てしまっている。足元の落ち葉や湿った土はとても歩きにくく、靴は泥で汚れて靴下はひんやりとしてきていた。半袖から伸びた腕は枝葉にぶつかり小さな傷がいくつもできている。振り返ってはみても濃い闇が木々の奥に続いていた。それはあたかもミサトを家へ帰すも