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にぎやかな葬儀【逆噴射小説プラクティス】
公園のベンチで本を読んでいると、汚れたTシャツ姿のオッサンがそばにドカッ、と腰を下ろした。
「ふぅ~っ、暑いね!」
言いながら自分の横にトロフィーを置いた。木製の台座が血まみれだった。銀のプレートには「優勝!」の3文字。台座から屹立している金色の胸像の顔は、オッサン本人だった。
俺は文庫本をそっ、と閉じて、「暑いですね」と返した。
平日昼の公園、誰もいない。俺とオッサンのふたりきり。
地の底の魔女 【「魔女のいた夏」前段】
ぼろぼろのランドセルを背に、少年は山道を歩く。
林を抜け、藪を分け入って、トンネルの前まで来た。
岩山を掘ったトンネルは長く、出口は豆粒のように遠い。
少年は中に入った。
夏の外気から一転、肌がひやりとした。
少年は懐中電灯を出す。頼りない光が暗闇を照らした。
じっとりした空間をしばらく行くと、あった。
壁の途中に、木の扉。
ドアノブもある。
おととい、命令されて先頭を
かつて獣のいた街 ー 02 逆噴射小説大賞2021・決定記念作
【前】
「逃げた。ははぁ、逃げましたか」
電話の向こうの声は落ち着いていた。
伊野はその調子に苛立ちを覚えた。脇の会議室に入る。この時間は無人だ。
外付け無線、新澁谷駅の全回線に「全員待機! いたずらに刺激するな!」と短く言う。
そんなことは言わずとも、薄給の警察官たちは危険人物に立ち向かったりはしない。念を押した形だった。
携帯電話を持ち直し、詰め寄るように言っ
【お祭り】逆噴射小説大賞2021 ゾウ印ピックアップ
こんにちは。ゾウさんだよ。
混沌と疲弊、いまだ先行きの見えぬ今年も、お祭りの季節がやってきたよ。
【逆噴射小説大賞】
ノージャンル。
ノーボーダー。
ワンルール。
「小説の冒頭800字だけで『続きを読みたくさせたら優勝』!」
何でもアリのスタートダッシュ小説祭りは2021年10月31日までやってます。つまりあと2日あります。皆さん進捗どうですか? 「はじめて知
銃声は囁く 【逆噴射小説大賞2021 没作品】
私は銃だ。モデルガンを基礎にした改造拳銃だ。殺傷力は本物の銃と同等。なにせ生まれてすぐに生みの親を撃ち殺したくらいだから。
かちり、と撃鉄が起こされた時に私の目が開いた。みすぼらしい老爺が座卓に肘をついて私を握っていた。下に部品の山、腹に弾丸が5発、この老人が私の生みの親だ。
「こんにちは」と私は言った。さぁご老体、何を撃つのです?
しかし我が創造主は「創造」で一旦満足したようだった。
二進法の亡霊 【逆噴射小説大賞2021・没作品】
山小屋の戸を蹴り開け、「動くな!」と叫んだ。
思った通り、小屋の管理人がスマートフォンをニコライに渡そうとしていた。俺は銃を構え直す。
「その男に、スマホを触らせないでくれ」
「お早いお着きで」ニコライは俺の方に首を向ける。「ずいぶんお疲れのようだね?」
返事の代わりに、差し出されたままのスマホを撃ち抜いた。
ひっ、と管理人が逃げて隅で身を縮める。ニコライはおや残念、と言い腕を下ろした。