にぎやかな葬儀【逆噴射小説プラクティス】
公園のベンチで本を読んでいると、汚れたTシャツ姿のオッサンがそばにドカッ、と腰を下ろした。
「ふぅ~っ、暑いね!」
言いながら自分の横にトロフィーを置いた。木製の台座が血まみれだった。銀のプレートには「優勝!」の3文字。台座から屹立している金色の胸像の顔は、オッサン本人だった。
俺は文庫本をそっ、と閉じて、「暑いですね」と返した。
平日昼の公園、誰もいない。俺とオッサンのふたりきり。アヒルやカメの遊具が俺たちを見ている。
「君はアレだね! 若いのにイカンよ働きもせずに! ええっ!」
オッサンは俺の肩をバンバン叩いた。俺はいやぁ、と言い、裾をまくって足の包帯を見せた。
「ケガをしまして。仕事中に」
「仕事中! それは注意が足らんよ注意が! ええっ!」
また肩を叩く。
休職中だ。厄介事は起こしたくない。しかしもう起きてしまっている。
一般人、しかも自国民に手を出すわけにはいかないし、こういう人の扱い方も知らない。逃げれば絶叫しつつ追ってきそうだ。
さて……。
「君ね! リハビリがてら一仕事やらんかね!」
オッサンは立ち上がった。
「なんですか」
「妻がさっき死んだから、葬式がしたいんだよ!」
葬式、と言った俺の腕をオッサンは掴んだ。
「ほらっ善は急げと言う! 立つ立つ!」
引かれて立たされる。トロフィーを置いたまま行こうとしたので反射的に掴んだ。指紋がついちまった、と思った。
俺たちは公園を出た。
湖渡市は静かな地方都市である。
平和でいい街だ、特務の仕事は忘れて療養してこい、とは局長の言葉。
ところがこれだ。
オッサンは歩きながら話し続けている。局に連絡しようにも、スマホに触る隙もない。
「そうしたら妻が、男を作ってね!」
「男を」
「7人も作ったんだ!」
オッサンは両手で示した。指は8本立っている。
「7人もだよ! これは許せないわけだよ!」
俺はそれは許せないですねぇ、と頷く。
いきなり頭をはたかれた。
「お前に何がわかる!」
閑静な街に怒号が響く。
【続く】
Q.これはなんですか?
A.10月8日からはじまる「逆噴射小説大賞2023」の練習、カンを取り戻す素振りのようなものです。詳しくはこちら↓をご覧ください
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