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まなかい ローカル72候マラソン

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まなかい… 行きかいの風景を24節気72候を手すりに 放してしるべとします。                                        万葉集        …
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#暦

まなかい;立冬 57候『金盞香(きんせんかさく)』

まなかい;立冬 57候『金盞香(きんせんかさく)』

「金盞」とは水仙のこと。

「金盞」の「盞」…「戔」に「薄くて重ねたもの」の意があると『字統』に記されている。水仙の花は、3枚の花びらと3枚の萼に、副花冠が合わさっていて、確かに薄い盃を重ねたようだ。輝くように黄色い薄物の盃と見立てて「金盞」とついたのだろうか。

爽やかで苦味も効いた濃厚なあの香りに、お酒を注いで飲んだらどんな味がするのだろう。

漢名は「仙人は、天にあるを天仙、地にあるを地仙、

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まなかい;立冬 56候 『地始氷(ちはじめてこおる)』

まなかい;立冬 56候 『地始氷(ちはじめてこおる)』

温泉が恋しい季節に。

「凍る」は、「こる」で「凝る」とも語根が一緒。液状のものが寄り集まって固まるという意味であるという(『古典基礎語辞典』大野晋編)。趣味に凝るとか肩が凝るのも同じ。固まっているのだから、温めて解凍して、ほぐして気を通わさないと、ということで心も身体も凝固してしまったら、温泉に限る。

まあるい湯船のお湯にたっぷり何回も浸かる。お湯に浸っていると、古代の何か懐かしい感覚が目覚め

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寒露:第51候・蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)

寒露:第51候・蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)

晩秋ともなると、夜にあれほど鳴いていた虫たちの声が減る。

蟋蟀戸にあり、

虫の数が減って、合唱だった歌が独唱となり、その歌が侘しくさせるのだろう。

秋も、彼らの生も残り僅か。

離れていくから名残惜しい。

恋情は燃えるが、それを振り払って、引き剥がして生きていく。

「あき」はそうやって「あきらめていく」とき。「飽きる」も語源だともされるが、いずれにしても距離が「空いて」いく。

自分の何

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寒露:第49候・鴻雁来(こうがんきたる)

寒露:第49候・鴻雁来(こうがんきたる)

鶴や白鳥や雁が、弓なりの列島に渡ってくる。

この都市ではニュースでしか見ないけれど。

白く大きな翼を持つものたちよ。

V字で飛行を続けるものたちよ。

羽毛のような雲を見て、その不在を紛らわす。

燕は南に帰った。青光る翼で。風を切って、波を躱して。

入れ替わるように北から優雅に使者たちがやってくる。

これが天使でなくて何だろう。

廻る地球の、凍てつく北方からの魂の飛来。

 彼らの

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夏至;第30候・半夏生(はんげしょうず)

夏至;第30候・半夏生(はんげしょうず)

夏至の三つの候は、薬効の高い薬の植物ばかり。

「乃東枯」「文目華」そして「半夏生」。

次候の「文目華(あやめはなさく)」のアヤメにサトイモ科のニオイショウブも含めているだろうと考えればだけど、とはいえ目でみて美しいとか、何か心地よさを感じるとしたらそれだけでもう薬だろう。そうするともう全て自然界には薬でないものはないということになる。

この時期までに田植えは終わらせておかないと収穫は期待でき

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夏至;第29候・菖蒲華(あやめはなさく)

夏至;第29候・菖蒲華(あやめはなさく)

ノハナショウブ。

江戸時代に伊勢系、江戸系、肥後系など、たくさんの品種が作出されることになる日本に自生する花菖蒲の親。カキツバタや陸生のアヤメはむしろその野性味が尊ばれたのか、変わり種が少ない。ハナショウブの園芸品種の多さは別格だ。

アヤメの仲間はどれも万緑に紫が映え、五月雨の露に色っぽくもある。葉の形は刀に見立てられるように、空を指す様子が凛々しい。

田んぼを作るような湿地にかつてはたくさ

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夏至;第28候・乃東枯(なつかれくさかるる)

夏至;第28候・乃東枯(なつかれくさかるる)

夏至の前の日、故郷へ。この時期に帰ってきたのは久しぶりだ。

ここのところ帰れば必ず立ち寄る棚田から見た夕景。18時でまだこんなに明るい。

北欧などでは夏至の朝、森に入って花を摘み飾ったり冠を作ったりして身につける。

夏至の日の朝露はエネルギーが高く、朝露と朝陽を浴びた花々はとりわけ美しく幸福を招くとされる。そんな意味合いも込めて母親へ贈る花を束ねた。

乃東=夏枯草=靫草はシソの仲間。そうい

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芒種 第26候・腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)

芒種 第26候・腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)

腐れたる草が蛍となる。

腐った草が蛍になるなんて、、、ちょっと不思議です。

草が腐って、蛍になるのではなく、腐った草も蛍の命の部分になっている。草の中に沢山の細胞が生きていました。それぞれに生命誌が刻まれています。蛍も沢山の細胞が形作っています。かたちは一度無くなりますが、魂はずっと転生していく。個体と固体の話ではなく、生き物は全て死に、そうして次の命の場所になるということ。日本の言葉では「死

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芒種;第25候・螳螂生(かまきりしょうず)

芒種;第25候・螳螂生(かまきりしょうず)

冷房が効かないので

窓を開けて車を走らせていると

どこからやってきたのか

蟷螂の子がフロントガラスを斜めに翔けていく

たった一匹

梅雨入り前の途方も無く広い空を眼下に

二つの鎌を立て

身を反らせて

三角まなこはみどりの粒で

あんなにも軽々とあらわれて

もう会えない

花を活ける仕事をしていると

稀に蟷螂の卵が付いている枝がある

捨てられないのでバルコニーなどに保管しておくと

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小満;第23候・紅花栄(べにばなさかう)

小満;第23候・紅花栄(べにばなさかう)

 中東あるいはエジプト原産と言われるベニバナ、本紅で有名な紅花の咲くのはまだ先。

「半夏ひとつ咲」ともいうから咲きはじめは夏至の末候。

  まゆはきを俤(おもかげ)にして紅粉(べに)の花(芭蕉)

  行く末は誰が肌触れむ紅粉の花(芭蕉)

と奥の細道巡礼で芭蕉が詠んだのは、今の日付に換算すると7月中旬となるようだ。

 まゆはきは「眉掃き」「眉刷毛」で、おしろいを叩いた後 眉についたそれを払

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小満;第22候・蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

小満;第22候・蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

生まれ育った地域はかつて養蚕がとても盛んな土地柄で、小学生の頃は隣もお向かいも裏の家も田畑と養蚕を営んでいた。

隠し部屋のようになっていて使うときだけ降ろす階段が、土間続きに設えられていて、それを不思議な感覚で登った記憶がある。登ると蚕室は囲炉裏や寝室のある一階の上ほぼ全てという広さで、そんな板張りのガランとした「お蚕さん」の蚕室に何度か入れてもらったことがあるけど、何百匹といる蚕が草を食む音に

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立夏;第21候・竹笋生(たけのこしょうず)

立夏;第21候・竹笋生(たけのこしょうず)

筍の旬は10日ほどだという。ここから「旬」という概念も生まれているそうだ。

1日で1メートル伸びるなんて、

国語の「たけ」は猛々しいとか、高い、逞しいなどとも通じている。

竹の子のあのギュッと詰まった円すい形

竹の皮に包まれ 土を突き抜け

圧縮され凝縮されたエネルギーをいただく

一日1メートル伸びる その節の間の余白

水の通り道 

空への意志

かぐや姫さえも孕んで

目覚めたばか

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立夏;第20候・蚯蚓出(みみずいづる)

立夏;第20候・蚯蚓出(みみずいづる)

分解者の代表 蚯蚓。特にこの時期、彼らの役割を改めて思い出す。

場所は世田谷ものづくり学校。

ぽくぽくと土を耕してくれて、年々土は豊かになっていく。

人の手は最小限にしている都市では珍しい場所。足元に広がっている見えない営みが命を支えている。

蚯蚓もまた死んだら次の命の場所になる。

立夏;第19候・蛙始鳴(かわずはじめてなく)

立夏;第19候・蛙始鳴(かわずはじめてなく)

(写真は鹿島神宮の御手洗池横の菖蒲園。匂い菖蒲が植えられている。そこでザリガニ釣りに興ずる家族がいた。)

立夏。思い立って銚子まで車を走らせ、twitterを見て敬愛する能楽師の住まいだったところをなぜか見に行く。そこから鹿島神宮を廻って帰宅するというショートトリップ。コロナで高速道路も街もスカスカ。海を見たかった、、、のかも知れない。

着いたのは海鹿島と呼ばれる 南に犬吠埼灯台を臨む場所。か

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