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「てっぺんテンコ! 最終回」
てっぺんテンコ! 最終回
彼女の携帯に何度かけても呼び出し音だけで、つながることはなかった。携帯の番号から住所を知ることは、今ならたやすくできるはずだ。だが、そこまでする気力はすでに失っていた。予想通り、その次の日、次の次の日……と一週間経っても、彼女からは電話はもちろんのこと、メールすら来ることはなかった。
そしてそのまま悶々とした気持ちのまま、仕事が繁忙期に入り、またも二カ月があっという
「てっぺんテンコ! 第6回」
てっぺんテンコ 第6回
三田の駅にたどり着いたのは十一時十分。約束の時間の二十分も前だった。僕は仕事柄、取材に行く時々に、いろんなところで待ち合わせをするが、三田駅に降りた記憶はほとんどない。というより、降り立ったのは、これで二回目くらいだろう。約束の五番出口に向かう。その出口の先には、ほんとうに素晴らしい青空が天空いっぱいに広がっていた。それを楽しみながら階段を上がり、出口のところでテンコ
「てっぺんテンコ! 第5回」
てっぺんテンコ! 第5回
順次忙しく仕事をこなしていった水曜の夜。ライターとの打ち合わせの後で、二人で食事をした。それから、時間が遅いにもかかわらず、音楽を楽しめるBARで、軽く飲み、ずいぶんいい気分になった。自宅に帰ってきたのは、すでに午前1時近くになっていた。フラフラになりながらも、一応メールをチェックしようとパソコンをつける。ここのところテンコからの返信が来ないのも、さほど気にならなく
「てっぺんテンコ! 第4回」
てっぺんテンコ! 第4回
次の週の頭から週末の間は、忙しくしているにもかかわらず、何となく夢の中といった感覚のまま、日々を暮らした。ちゃんと仕事はしていたというより、普通よりはりきって、嬉々として仕事に取り組んでいたような気もする。すでに多くの取材は終盤に向かい、それを文章化する、あるいはライターから原稿を入手する段階まできていた。だが、それなりにしっかりとやっていたのだろう。
周りからは
「てっぺんテンコ! 第3回」
てっぺんテンコ! 第3回
僕の朝は、いつも決まっている。一杯のコーヒーとパンを一個食べて出かける。しかし、今日は、休日である。しかもいつもと比べて、結構時間が遅い。そのため、ゆっくりと時を過ごすこともできる。だが、テンコからのメールが気になってしかたがない。昨夜、返信をしてないのだ。そのままじゃ、また、それっきりになってしまうかもしれない、という不安がよぎった。
だが、腹もすいていた。湯を沸
「てっぺんテンコ! 第2回」
てっぺんテンコ! 第2回
それから十カ月後、ある洋酒メーカーの発表会に僕は出席していた。新しいシングルモルトウイスキーの発表を兼ねたテイスティング会だった。この日はカメラマンと二人。いつも僕をこのような場に呼んでくれる、若く精悍な広報のT氏に挨拶をして、彼が先導をして席に案内された。すでにテーブルにはテイスティングシートの上にグラスが五つ並べられ、簡単なスナック類も置かれていた。椅子に座り、い
「てっぺんテンコ! 第1回(全7回)」
あらすじ「てっぺんテンコ! 第1回」しばらくして僕は、本当にテンコが死んだことを知った。
あの時、僕が自分の気持ちに正直になっていれば……
彼女は生きて、行き続けて僕と一緒にいたのかもしれない。
そして、後悔と同時にもう一通の手紙が自宅に届いた――
*
目の前の木製のテーブルには、最後に会った時にテンコがプレゼントしてくれた小さな金属製の東京タワーと、ややくすんだ薄いピンク色の封筒が置
小説「宇宙犬マチ」 あらすじ~第1回
【あらすじ】
宇宙全体に悪影響を与える可能性が出てきた地球。その実態を調査するべく宇宙指令から地球に派遣されたリサーチャーたちは、世界中の犬の中に入り込み地球の調査を開始した。日本ではヨークシャーテリアのマチという宇宙犬が調査にあたることになった。人間によって引き起こされる戦争や自然・環境破壊など多くの問題が蔓延する地球は、明らかに宇宙に悪影響を及ぼす存在であることが判明していくが、マチの飼い主