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敢えて生きる

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迷宮入りな話

“What’s said is said.” (言ったことは取り返せない。) 『ラビリンス 魔王の迷宮』というお気に入りの映画の一節。この映画は、空想好きなサラという主人公が、魔王ジ…

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3週間前
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発熱してました。

毎日生きている中で、空の青さや、水の冷たさを疑ってかかることは少ない。 或いは、自分の存在や、生きている世界についてもほとんど無条件に了解している。 しかし、自…

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1か月前
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竜宮城での生活について

世の中に理不尽はたくさんあるが、浦島太郎の被ったそれもまた甚だしい。 亀を助けた漁師が、そのお礼として竜宮城で楽しい時間を過ごしていたが、家族に会いに故郷に戻っ…

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2か月前
5

落書きのような文章

タランティーノの映画といえば、暴力の描写が印象的だろう。とにかく人が殴られて、殺される。過度なほどの暴力。しかしその一方で、タッチはまるで軽快だ。目の前の暴力な…

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3か月前
6

最近の変化(儚くはない)

「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」 『伊勢物語』に登場する、在原業平の詠んだ短歌。 その記憶のほとんどを過去に置いてきた古文の授業だが、…

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4か月前
3

ニンジンを食べない余裕と、食べる気合い

中高の同級生に、絶対にニンジンを食べない友人がいた。 食べない理由は2つ。「食べたくないから」と「ニンジンからしか取れない栄養素はないから」らしい。確か高校2年の…

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5か月前
4

偶然性に帰責したくなるような寂しいお別れ

大学生になってから、ほんの一度だけ話したことのある人の数の多さに驚く。 友達の紹介や授業でのディスカッション、なんとなく参加してみたよくわからない会合。 こうい…

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5か月前
5

有り得た世界に唇を噛まないこと

お気に入りのフレーズを二つ。 “The proof of the pudding is in the eating.” (プディングの味は食べてみないと分からない。) “Life was like a box of chocolates. …

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6か月前
4

どこかの誰かの人生に思いを馳せてしまう

人の痕跡に、心を奪われることがある。 古本に書かれたメモ書き、「今〇〇人がチェックしています」と表示された予約画面、電車の座席に置いて行かれた忘れ物 姿かたちは…

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6か月前
4

note、はじめました

冷やし中華はじめました、みたいな。 自分の感じたことを文章にしたことって殆どないかも知れない。 SNSは嘘か虚構だし、卒業文集もお茶を濁したし、頑張ってつけた旅行日…

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7か月前
5
迷宮入りな話

迷宮入りな話

“What’s said is said.”
(言ったことは取り返せない。)

『ラビリンス 魔王の迷宮』というお気に入りの映画の一節。この映画は、空想好きなサラという主人公が、魔王ジャレスに連れ去られた弟を取り返すべく、13時間のタイムリミットの中で、多様なクリーチャーの住む迷宮世界、ラビリンスを冒険するお話。

“I wish the goblins would come and take y

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発熱してました。

発熱してました。

毎日生きている中で、空の青さや、水の冷たさを疑ってかかることは少ない。
或いは、自分の存在や、生きている世界についてもほとんど無条件に了解している。

しかし、自分が普段よりも少しだけ弱くなった時、ここには決まりきった事実などなく、ただ目の前に広がるのは認識の世界なんだと気づく。

例えば、何年か前にコロナに罹った時、味覚を若干失った。同じものを食べても同じように知覚できなかった瞬間に、食事もまた

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竜宮城での生活について

竜宮城での生活について

世の中に理不尽はたくさんあるが、浦島太郎の被ったそれもまた甚だしい。

亀を助けた漁師が、そのお礼として竜宮城で楽しい時間を過ごしていたが、家族に会いに故郷に戻ったら、現実では数百年が過ぎていた。その絶望感から開けるなと言われていた玉手箱を開けてしまい、おじいさんになってしまうというお話。

竜宮城から帰ったとき、数百年が経っていた現実で、すっかり孤独の身になってしまった彼の喪失感は想像だにしない

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落書きのような文章

落書きのような文章

タランティーノの映画といえば、暴力の描写が印象的だろう。とにかく人が殴られて、殺される。過度なほどの暴力。しかしその一方で、タッチはまるで軽快だ。目の前の暴力など意に介さない。

何もかもすっかり笑い飛ばす、エンターテイメント性のある暴力。

その最たる例が『パルプ・フィクション』。拳銃を構えた黒服の2人組の殺し屋、腕に健全なボクサー、映画のアイコンたるミア・ウォレス。

映画のタイトルであるPu

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最近の変化(儚くはない)

最近の変化(儚くはない)

「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」

『伊勢物語』に登場する、在原業平の詠んだ短歌。
その記憶のほとんどを過去に置いてきた古文の授業だが、この歌はなぜか記憶に残っている。

現代語訳すると、「この世の中に、全く桜というものがなかったなら、春を過ごす人の心はどんなにのどかであることだろう。」という意味になる。
春が訪れ、人々が今かと心待ちにした桜も、いざ咲いてしまえばすぐ

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ニンジンを食べない余裕と、食べる気合い

ニンジンを食べない余裕と、食べる気合い

中高の同級生に、絶対にニンジンを食べない友人がいた。

食べない理由は2つ。「食べたくないから」と「ニンジンからしか取れない栄養素はないから」らしい。確か高校2年の頃だったが、それを聞いた時、賢いな~と、思わず笑ってしまった。

確かに、食べたくないのなら、十分食べない理由になる。簡明な理由だ。
さらに、ニンジンは栄養たっぷりだという意見にも反駁する。ニンジンからしか取れない栄養素なんてないのだか

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偶然性に帰責したくなるような寂しいお別れ

偶然性に帰責したくなるような寂しいお別れ

大学生になってから、ほんの一度だけ話したことのある人の数の多さに驚く。

友達の紹介や授業でのディスカッション、なんとなく参加してみたよくわからない会合。
こういう場で出会った、多分もう会わない人たち。話すと結構盛り上がったりして、仲良くなれそうだと思った人も多かったかもしれない。だけど特に仲の深まることはなかった人たち。

人との出会いって、ちょっとした選択や思い付き、幸運や不運の産物だと思う。

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有り得た世界に唇を噛まないこと

有り得た世界に唇を噛まないこと

お気に入りのフレーズを二つ。

“The proof of the pudding is in the eating.”
(プディングの味は食べてみないと分からない。)

“Life was like a box of chocolates. You never know what you're gonna eat.”
(人生はチョコレート箱のようなもの。開けてみないと分からない。)

このフレー

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どこかの誰かの人生に思いを馳せてしまう

どこかの誰かの人生に思いを馳せてしまう

人の痕跡に、心を奪われることがある。

古本に書かれたメモ書き、「今〇〇人がチェックしています」と表示された予約画面、電車の座席に置いて行かれた忘れ物

姿かたちは見えないけれど、確実に存在している/していたという生々しさ。その生々しさを無視できず、つい想像を膨らませてしまう。
-きっとこの本の前の持ち主は、知的な女性に違いない。大事な描写には線を引いている。丁寧な字で、書き込みまで。
-今は夜中

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note、はじめました

note、はじめました

冷やし中華はじめました、みたいな。

自分の感じたことを文章にしたことって殆どないかも知れない。
SNSは嘘か虚構だし、卒業文集もお茶を濁したし、頑張ってつけた旅行日記だって事実の陳列になっていた。

思えば、何かにつけて自分を開示できない弱さがある。
生活感をさらすのを嫌って、飄々さに憧れてきた。頑張ってる姿は見せられなくて、万能で多才な自分を夢想する。人前でも、感情を吐露するより、「一定の機嫌

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