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陽光の中の回想 -モーツァルト『ピアノ協奏曲27番』の美しさ

陽光の中の回想 -モーツァルト『ピアノ協奏曲27番』の美しさ

よく、自分の葬式で流してほしい曲、というアンケートがあります。私の場合何かと考えると、ロックやポップ音楽と別に、クラシックの中だと、多分モーツァルトのピアノ協奏曲27番(K595)を選ぶと思います。

この曲には、落ち着いた午後、かつての楽しかった過去を思い出しているような、甘美さと静寂があるからです。


第1楽章の導入。静かに弦が入り、麗しいメロディが奏でられます。しかし、長調の明るいメロ

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無垢が現代を染める -ウォーホルについてのいくつかの随想

無垢が現代を染める -ウォーホルについてのいくつかの随想

少し前、現代美術家、アンディ=ウォーホルの作品がニュースになったことがありました。環境活動家が、ウォーホルが制作したアートカー『BMW M1』に小麦粉をぶちまけて、逮捕されたというニュースです。

そのことの是非はここでは問いません。私がこのニュースを聞いて思ったのは、きっと、ウォーホルが生きていたら、大喜びするだろうな、ということです。

ウォーホルなら、こんなことを言ったのではと妄想します。そ

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【エッセイ#35】魂を吸う魔物 -バッハ『無伴奏ヴァイオリン』の魅力

【エッセイ#35】魂を吸う魔物 -バッハ『無伴奏ヴァイオリン』の魅力

以前、メロディが時や場所を超えて変奏されることについて触れましたが、それを奏でる楽器や編曲もまた、音楽にとって重要です。楽器によってその曲の個性そのものが決まる場合もあります。

ヨハン・セバスティアン=バッハの編曲の多彩さは、驚くべきものがあります。大曲『マタイ受難曲』から、チェンバロ(ピアノ)の『平均律クラヴィア』まで、当時のあらゆる楽器で作曲されています。

しかし、同時に、どこか編曲す

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「頷きは息をさせる」(詩)

「頷きは息をさせる」(詩)

許さないと決めたこと
それは弱さだと詰られるけれど
私はそれをそのままお腹にいれたい

許す自身でありたい見栄と
許せない理由の最たる私自身
それは同じ地平に立っている

どうか 許すことに倣わないで

太陽の光と出逢っても
乾くことのない湿地はあり
そこにはたしかに豊かな命の巡りがあること

私は
許さないで居続ける私を
何一つ欠けさせることなく 
許したい

「詩は花」(詩)

「詩は花」(詩)

詩は花だ
私に根を張り
遠い空へと咲く
風の兄へ微笑む
淡い月に甘やかされて
こそばゆい振動で
私に表す

世界はうつくしいこと
この愛はたゆたって
表面は照り返り
あなたという俤に
恋を重ねて染まる
白は白へ
光は光へ

花は詩であることを
時々忘れて涙する
その姿に空は振り返り
風は少し多く花弁に触れる
月は瞼を伏せて淵をぼやかす
私に滴るいたみが
深くに溜まり また種を生む

詩は花だ
鮮や

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「うつくしい音」(詩)

「うつくしい音」(詩)

私はうつくしい音で在りますように

そりゃあ
光の方が速く手を触れるでしょう
けれど
音の方がよりつよく
触ることをつよく
あなたに与えてくださるだろうと思うので

だから
私にはうつくしい音が鳴ってほしいと
祈るのです

「無口で無愛想で無為な」(詩)

「無口で無愛想で無為な」(詩)

いい子だねと言った口に
泥だんごを

かわいいねと言った手に
ひっかき傷をつけた

無口で不愛想でへの字口の
私の苛立ちをそばにしゃがんで笑ったのは
あなただった

遠くまで歩いて
道も天気もころころ変わったけれど
振り返るときの心持ちは少しも変わらない

わがままで 無遠慮で 生意気な
話すことをできるだけ聞いてくれたひと
あなたは

あなたはひとりでいったこと
私にはわかった
あなたに怒りをぶ

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「ひかり」(詩)

「ひかり」(詩)

迷うことも 苦しむことも
光が見えないからじゃない
光が見えるから
ゆらり 小さく揺れるものだから
ただ一点の 美しさを刺すから
ひとは迷い
苦しむのだと

迷い描いた 私の光
苦しみ紡いだ 私の怒り
誰の目に それが光とは映らなくても
これは私に根差した灯火
この一点から指し示す
私の行方を 私の前へ
ただ生へ 私の生へ

生きて死ぬ光
それが私の光

「夜より咲く」(詩)

「夜より咲く」(詩)

静かな星の降る
静かな故に降る

導きは山を越えて
導きに山は光りて

小さな言伝を託して
小さな言葉は連なる

瞬くあいだより近づいて
瞬く合の手闇に口付けて

遠くへと流れていく夜よ
遠くまで流される日々に

目を閉じましょうか
閉じて睫毛の哀の朝

先触れが鳴く
先触れが咲く