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武田敦
2024年2月13日 07:00
「ほら、デビルも笑ってら!」 ……わたしは、地元の人達は、さすがにデビルの行動、習性に精通している――長年の付き合いから、生態学者も馬鹿にはできない観察をしているのだと思った。 「お褒めの言葉と取っていいかしら?」 エリザの顔を覗き込む。 エリザが、大きく首をくねらせた。 広場がどっと沸いた――エリザが肩をすくめてしぶしぶ同意したように見えたのだ。 「そこのお兄さん、どうやらお許しが
2024年2月10日 07:00
もう一度ぐいと踏みにじって、思い切り後ろに引いた足で蹴り飛ばした――ジーンズ・スカートのスリットがわたしの思惑以上に自己主張する―― 誰かせっかちなのが、拍手する。誰も続かない……あと一押しだ! 「あら、あなた達、SSIPのシンパって訳?」 すぐに反応があった――何人もが首を横に振る…… (ここの人達も、SSIPやそれに代表される政府、その苛烈な法、施政に恨みがあるのだわ) 「OK!」
2024年2月4日 07:00
でも、この大地には鉱物資源としての価値があり、ロマンティックな想いとは無関係に、人の手が入ってくる…… 「これから行く鉱山街って大きいの?」 『大きい所へ行きたい?』 直感的に、それは避けたかった。何事も、徐々にだ。最初の小手調べ、というものがある……。これは後付けだが、段々にヒートアップしてゆくやり方は、戦略的にも正しかった、と分かることになる。 わたしの心は、吟遊詩人としての即興精神
2024年1月16日 07:00
マウンテン・デビルは、四本の脚を水平に広げ、脚に生えた被膜を一杯に広げて風を受けていた……被膜には軟骨のような骨組みがあるようで、どちらかというと短い彼らの脚よりもずっと広く張り出していた…… その舞う姿は、遠く見れば優雅で音もなく、しかし、時に目の前を岩棚すれすれに飛んでいく様は、荒々しく、バタバタと被膜を風にはらませる……飛んでいる時の彼らの目、巨大な目玉は、真剣そのものだった―― 『私
2024年1月1日 07:00
暗い。 また、鼻息。 音のした方に瞳を凝らす――起きてすぐ目を見開いたりすると目が痛い…… 「あっ!」 わたしは、小さく声をあげてしまった。 わたしの背の高さぐらいの位置で、丸いものが二つ白く光ったのだ。その『丸』は、とても大きい。……見えなくなった。すぐに光る…………瞬きしてるんだ! その生き物は、昨夜は確かにいなかった。 わたしが寝ている間に入ってきたのだ……あるいは、奥から出
2023年12月26日 07:00
「さて、これからどうする?」 疲れていたためか、思わず独り言が出た。 どうするもこうするも、もう寝る場所を見付けないと…… 洞窟はないかしら?なんて、そんなうまくいくは・ず・は―― 支脈のうっそうとした森を暗視ゴーグルで左右に掃いていたわたしの視界に、道?……そこだけ木の生えてない切れ目が飛び込んできた。 思わず近付いてみる。 幅3標準メートル程に踏み固められた道が、巨木を迂回するよ
2023年12月20日 07:00
心地よい風が背後から吹いており、わたしは、ひたすら持久戦の状態に入っていた。草本・木本含めてほとんど植生のない風景が、寂寥感を掻き立てる…… (例えは悪いけれど、これは、ゲームだわ) 今、わたしは、シャルルと別れ、一人の吟遊詩人として荒野を旅している―― 第三者が見たとき、わたしはどう見えるのか? ――なぜ、こんな無人の地を旅しているの? ――自発的に? ――それとも、何かの事故に巻
2023年12月18日 07:00
ふと、SSIPの制帽に目が行った。……なかなか粋じゃない……。もしかしたら、デラ殿下の軍服姿が念頭にあったのかもしれない。かぶってみる。ちょっとゆるい……目深だが、まあいいか。 わたしは、自分自身の肩掛け鞄、そして、ギターのことを考えた。何でもかんでもは、持って行けない。また、あまりに身動きがしずらくては、目的地に辿り着く時間にまともに響いてくる。バランスが大切だ…… 食糧の入った背負い鞄・
2023年12月17日 07:00
(問題は、どういう経路をたどっていくかね) 何と言っても、まず、眼前に広がる湖の存在だ。 改めて見ると、この湖、間口より奥行きの方がはるかにありそう、そして、わたしから見て、左岸は、ずっと先の方まで砂地が続いているように見えた。方向も支脈を指している。 ……そこまで辿り着いたら、とんでもない難所だった、では始まらないが、ここからでは判別付かなかった。 わたしは、出発することにした。わたし
2023年12月16日 07:00
わたしは、大きな岩の上に這い登って、遥かな連山を、右から左、左から右へと見はるかした。 一ヵ所、特徴的な地形があった。 ――連山から、わたしのいる方へ向けて一本の支脈が出ている。 ――その支脈は、例外的に緑豊かなようだ。 ――支脈の尾根を上へ上へと辿っていくと、そこは、峠のように連山がへこんで……高度が低まっている……。わたしは、登山には詳しくないが、『コル』というやつだろうか? (…
2023年12月15日 07:00
ミロルダの洞窟に救われた記憶が強かったのか、わたしは、あの遠い連山の麓まで行く、何が何でも行くんだと思い詰めてしまった。その時は、野宿する場所を見付けることが、わたしにとっての最優先課題で、もともと行こうとしていたハイ・アンコーナはどっちの方角か、などという考えは浮かんでこなかった。仮に浮かんだとしても、まるで分らなかったろう。……もちろん、携帯端末を使うなんて論外だ。自分の居所が知れてしまうか
2023年12月14日 07:00
冷たい風が、わたしの頬をなぶった。 (あれこれ思い悩んでる場合じゃないわ!) 結論の出る問題ではないし、気にはなるけど、今はその時ではない。 (今夜の宿を見付けなくちゃ) 相当寒くなりそうだし、この辺りをどんな獣が徘徊してるか分かったものではない。どうしよう……。わたしは、山頂に万年雪をかぶった連山の方を見やった。まだしばらくは大丈夫そうだが、太陽は、あの連山の陰に隠れるように沈んでいく
2023年12月13日 07:00
あれこれ考えているうちに、わたしは、頭がいっぱいになってしまった。一人で去ったにしろ、誰かと行動を共にしているにしろ、彼は、その理由を明かさずに行ってしまった。いかなる理由で別行動をとることにしたにしろ、彼は、それを明かさずに行ってしまったのだ…… だとすれば、わたしにできることは、今まで通り、吟遊詩人として探索の旅を続けることではないか!彼もそれを望んでいるに違いない……きっと、この先どっか
2023年12月12日 07:00
――二人別行動をとった方が、効率的に情報を集められる、と思ったの? ――別行動の方が、安全だと思ったの? ――わたしには言えない緊急の任務が入ったの? ――SSIPの連中と行動を共にすることに何らかのメリットを見出して、ついていったのかしら?……危険なので、わたしのことはそっと隠した? ………… ――デビル・ハンターについていった!何か情報があるのかも……女性のわたしは同行を拒否さ