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『天使の翼』第12章~吟遊詩人デイテの冒険~

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サンス大公国の秘密警察機関SSIPのデビルハンター捜査に巻き込まれたデイテ、シャルル、ローラの一行は、指揮官クラレンス少佐の計らいでハイアンコーナまでパトロールエアカーに同乗させ…
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『天使の翼』第12章(85)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(85)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「ほら、デビルも笑ってら!」
 ……わたしは、地元の人達は、さすがにデビルの行動、習性に精通している――長年の付き合いから、生態学者も馬鹿にはできない観察をしているのだと思った。
 「お褒めの言葉と取っていいかしら?」
 エリザの顔を覗き込む。
 エリザが、大きく首をくねらせた。
 広場がどっと沸いた――エリザが肩をすくめてしぶしぶ同意したように見えたのだ。
 「そこのお兄さん、どうやらお許しが

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『天使の翼』第12章(82)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(82)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 もう一度ぐいと踏みにじって、思い切り後ろに引いた足で蹴り飛ばした――ジーンズ・スカートのスリットがわたしの思惑以上に自己主張する――
 誰かせっかちなのが、拍手する。誰も続かない……あと一押しだ!
 「あら、あなた達、SSIPのシンパって訳?」
 すぐに反応があった――何人もが首を横に振る……
 (ここの人達も、SSIPやそれに代表される政府、その苛烈な法、施政に恨みがあるのだわ)
 「OK!」

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『天使の翼』第12章(57)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(57)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 マウンテン・デビルは、四本の脚を水平に広げ、脚に生えた被膜を一杯に広げて風を受けていた……被膜には軟骨のような骨組みがあるようで、どちらかというと短い彼らの脚よりもずっと広く張り出していた……
 その舞う姿は、遠く見れば優雅で音もなく、しかし、時に目の前を岩棚すれすれに飛んでいく様は、荒々しく、バタバタと被膜を風にはらませる……飛んでいる時の彼らの目、巨大な目玉は、真剣そのものだった――
 『私

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『天使の翼』第12章(42)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(42)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 暗い。
 また、鼻息。
 音のした方に瞳を凝らす――起きてすぐ目を見開いたりすると目が痛い……
 「あっ!」
 わたしは、小さく声をあげてしまった。
 わたしの背の高さぐらいの位置で、丸いものが二つ白く光ったのだ。その『丸』は、とても大きい。……見えなくなった。すぐに光る…………瞬きしてるんだ!
 その生き物は、昨夜は確かにいなかった。
 わたしが寝ている間に入ってきたのだ……あるいは、奥から出

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『天使の翼』第12章(36)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(36)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「さて、これからどうする?」
 疲れていたためか、思わず独り言が出た。
 どうするもこうするも、もう寝る場所を見付けないと……
 洞窟はないかしら?なんて、そんなうまくいくは・ず・は――
 支脈のうっそうとした森を暗視ゴーグルで左右に掃いていたわたしの視界に、道?……そこだけ木の生えてない切れ目が飛び込んできた。
 思わず近付いてみる。
 幅3標準メートル程に踏み固められた道が、巨木を迂回するよ

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『天使の翼』第12章(32)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(32)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 鉱山、そこで働く人々、その家族……
 山の中の鉱山の町……
 漠然と思いを巡らしているうちに、鉱山にしろ何にしろ、この漠とした風景の中、人の住む土地に行き会えるなんて、まるで富籤に当たるようなものだと思えてきた。……テンションが下がるとまずいから、このことはもう考えない……
 (陽が落ちてきたわ……)
 まだ、湖の向こう岸まで、3分の1は残しているというのに。
 思わず足を速めたわたしは、たちま

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『天使の翼』第12章(28)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(28)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 ふと、SSIPの制帽に目が行った。……なかなか粋じゃない……。もしかしたら、デラ殿下の軍服姿が念頭にあったのかもしれない。かぶってみる。ちょっとゆるい……目深だが、まあいいか。
 わたしは、自分自身の肩掛け鞄、そして、ギターのことを考えた。何でもかんでもは、持って行けない。また、あまりに身動きがしずらくては、目的地に辿り着く時間にまともに響いてくる。バランスが大切だ……
 食糧の入った背負い鞄・

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『天使の翼』第12章(27)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(27)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 (問題は、どういう経路をたどっていくかね)
 何と言っても、まず、眼前に広がる湖の存在だ。
 改めて見ると、この湖、間口より奥行きの方がはるかにありそう、そして、わたしから見て、左岸は、ずっと先の方まで砂地が続いているように見えた。方向も支脈を指している。
 ……そこまで辿り着いたら、とんでもない難所だった、では始まらないが、ここからでは判別付かなかった。
 わたしは、出発することにした。わたし

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『天使の翼』第12章(26)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(26)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 わたしは、大きな岩の上に這い登って、遥かな連山を、右から左、左から右へと見はるかした。
 一ヵ所、特徴的な地形があった。
 ――連山から、わたしのいる方へ向けて一本の支脈が出ている。
 ――その支脈は、例外的に緑豊かなようだ。
 ――支脈の尾根を上へ上へと辿っていくと、そこは、峠のように連山がへこんで……高度が低まっている……。わたしは、登山には詳しくないが、『コル』というやつだろうか?
 (…

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『天使の翼』第12章(25)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(25)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 ミロルダの洞窟に救われた記憶が強かったのか、わたしは、あの遠い連山の麓まで行く、何が何でも行くんだと思い詰めてしまった。その時は、野宿する場所を見付けることが、わたしにとっての最優先課題で、もともと行こうとしていたハイ・アンコーナはどっちの方角か、などという考えは浮かんでこなかった。仮に浮かんだとしても、まるで分らなかったろう。……もちろん、携帯端末を使うなんて論外だ。自分の居所が知れてしまうか

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『天使の翼』第12章(24)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(24)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 冷たい風が、わたしの頬をなぶった。
 (あれこれ思い悩んでる場合じゃないわ!)
 結論の出る問題ではないし、気にはなるけど、今はその時ではない。
 (今夜の宿を見付けなくちゃ)
 相当寒くなりそうだし、この辺りをどんな獣が徘徊してるか分かったものではない。どうしよう……。わたしは、山頂に万年雪をかぶった連山の方を見やった。まだしばらくは大丈夫そうだが、太陽は、あの連山の陰に隠れるように沈んでいく

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『天使の翼』第12章(23)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(23)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 あれこれ考えているうちに、わたしは、頭がいっぱいになってしまった。一人で去ったにしろ、誰かと行動を共にしているにしろ、彼は、その理由を明かさずに行ってしまった。いかなる理由で別行動をとることにしたにしろ、彼は、それを明かさずに行ってしまったのだ……
 だとすれば、わたしにできることは、今まで通り、吟遊詩人として探索の旅を続けることではないか!彼もそれを望んでいるに違いない……きっと、この先どっか

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『天使の翼』第12章(22)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(22)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 
 ――二人別行動をとった方が、効率的に情報を集められる、と思ったの?
 ――別行動の方が、安全だと思ったの?
 ――わたしには言えない緊急の任務が入ったの?
 ――SSIPの連中と行動を共にすることに何らかのメリットを見出して、ついていったのかしら?……危険なので、わたしのことはそっと隠した?
 …………
 ――デビル・ハンターについていった!何か情報があるのかも……女性のわたしは同行を拒否さ

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『天使の翼』第12章(21)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

『天使の翼』第12章(21)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 (シャルルの気持ちになって考えるしかない――)
 何を伝えようとしているのか?
 ――まず、今の状況、「シャルルがいない」……これは、シャルルの意思によるものなのか、そうでないのか?……どちらであるかは、とても大切で、状況が全く違ってくる……
 ちょっと考えただけで分かった――直感的に。わたしは、それを認めるのが怖くて、無意識に、無駄に駆けずり回って、結論を先延ばしにしてきたのだ。冷静に考えれば

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