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真剣勝負

私はジョージ土門に正直な思いを告げた。

運命学の実態を知り、もしそこに何らかの妥当性が見出せるとしたら、
その範囲において自分を知る事になり、生き方の方向性に迷わなくなる。

だから自らの適正を知るために 先天的な素質を知りたい。

運命学に何も妥当性が見出せなければ、気にする必要もない。
"何かあるかもしれない"という考慮ごと切り捨てる事ができる。

コールド・リーディングを始めとする多くの心理的トリック、
認知バイアスを始めとする諸々の心理現象の範囲を超えて事実を示せるか。

私と真剣勝負できるか。

(騙せるものなら騙してみろ)

そう思っていた。

十代で上京し、数年で社会の実態に触れた。
それなりの実力を示し、実績も上げたが馬鹿馬鹿しくなった。

危ない橋も渡った。

医療や科学、歴史や教育、若くして世間の嘘に通じ過ぎた。

どう生きるべきか。

そのヒントをどこに求めていいか、もはや判らなかった。
だから人が馬鹿にし、蔑視し、軽んじるものに着眼した。

触り程度とはいえ、量子力学の知識もそれを後押しした。

若く、金のない私にとってそれは遊びや趣味ではなく、真剣な実験だった。

始め、にこやかな微笑で私の話を聞いていたジョージ土門から笑みが消え、
真剣な眼差しで小さく相槌を打ち、やがて静かに溜息をつき斜め下を見た。

彼は私の目を見て言った。

「こんな話をされたのは初めてです」

ジョージ土門は私に掌を見せるよう要求し、私の手の平を見て言った。

「健康は問題ない」

その通りだった。

更に言った。

「酒も煙草もやらない」

その通りだった。

「いいですね」

と言ってジョージ土門は微笑んだ。

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