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ねこのこと

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うちにいるねこについての記事です。
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記事一覧

【エッセイ】そういうこと

【エッセイ】そういうこと

 ねこは寝てばかりいた。
 これまでは具合が悪そうでも、数日寝ていればまた元気になったのだが、今回は長引いているようだ。
 でろんと横になり、触っても迷惑そうな顔すらしないで無視している。毛もボサボサで、なんだか薄汚い感じだ。すっかりやせて、抱き上げてしばらくすると嫌そうに小さく鳴く。
 しかし、夕方になるといくらか元気になることもあり、母と姉は病院に連れていくのを迷っていた。もとは野良ねこで、寝

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【エッセイ】ふたたびの毛だまり

【エッセイ】ふたたびの毛だまり

 目を負傷したあと、ねこは寝ている時間が多くなった。
 腫れあがった顔は元に戻り、目も赤みがひいて開くようになったが、一日のほとんどを寝て過ごした。
 今までは姉や母のあとをついて歩いたり、気ままに辺りの見回りをしていたが、それもあまりしなくなった。カリカリも食べず、ちゅーるをかろうじてなめる程度で、あとは草むらや牧草の上で寝ている。抱き上げると軽く、前よりひと回り小さくなった気がする。
 そのよ

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【エッセイ】ねこ、負傷

【エッセイ】ねこ、負傷

 朝、馬屋の廊下に毛だまりができていて、スズメかツバメがカラスにやられたのだろうと思った。
 ねこは道具を置くところの奥のほうで丸くなって寝ていた。いつもは姉や母が仕事をし始めると顔を見せにくるのに今日は全然起きる気配がない。
 しばらくしてのそのそと出てきた姿を見て、廊下の毛だまりの毛はねこのものであることがわかった。
 ねこは負傷していた。
 顔の右側が腫れ上がり、赤くなった目から目やにだか膿

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【エッセイ】ねこ模様 その3

【エッセイ】ねこ模様 その3

 靴を履いていたら、外をねこが足早に歩いていくのが見えた。
「ねこ! ねこちゃん! どこいくの!」
 大きな声で呼んではみたが、ガラス越しでは聞こえないようだ。そのうちにオンコの木の向こう側に入ってしまって、見えなくなった。
 急いで外に出て、行き先を見届ける。
「ねこちゃん!」
 呼びながら追いかけると、その先に姉がいた。しゃがみこんで草むしりをしていた。
「やっと来たのか! ずっと呼んでたのに

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【エッセイ】日当たり上手

【エッセイ】日当たり上手

 ねこが日の当たる場所に身を置く才能には関心してしまう。
 馬房の暗がりや廊下の小さなすき間にいると思ったら、ひとすじの光を全身で逃がさず浴びていたりする。そして、じっとしていると思ったら日の当たる場所とともに少しずつ移動していたりする。
 ぬくぬくとうずくまり、呼ばれても聞こえないふうだ。触るとごくうすく目を開けるが、すぐに閉じて知らんぷりである。午後になると暑くなるらしく、でろんと横になるが、

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【エッセイ】行き止まり

【エッセイ】行き止まり

 馬屋の2階は牧草を保管しておくスペースだ。
 馬屋の天井には四角い穴が開いていて、そこにハシゴをかけて上る。ハシゴはほぼ直角なので、上るにも下りるにもちょっとした運動神経とコツが必要だ。
 ねこはこのごろ2階がお気に入りのようで、姿が見えないとだいたい2階にいる。そして、自分で下りられるくせに、人が通りかかると下ろしてくれと鳴く。(いざ下ろそうとすると、少しためらう)
 
 先日、ねこがハシゴか

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【エッセイ】かまぼこ

【エッセイ】かまぼこ

 正月の朝ごはんのあと、姉が「ちょっと、かまぼこちょうだい」と言うので、紅白をふた切れずつ渡した。
 それを持って外に行ったあと、姉から動画が送られてきた。
 馬小屋の廊下で、ねこは姉の姿を見ると背中を見せて小走りに逃げる。ちょっかいを出されるのが嫌なのだ。
 そのねこを、呼び止める姉。ねこは止まらない。半ば強引に鼻先にかまぼこを突きつけてやっとこちらを向いた。
 ひと嗅ぎふた嗅ぎ、はっと気づいた

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【エッセイ】うらみごと

【エッセイ】うらみごと

 このごろのねこは、私の姿を見ると見えないふりをするようだ。
 近づくと身をかがめて地面にしがみつくようにする。かまわず抱き上げる。つきたての餅のようにぐにゃりとつかみどころがなく、両腕で抱えていないと地面にすべり落ちてしまいそうだ。

 ねこを抱えてうろうろしていたら、姉が軽トラに乗れと言う。夕方、小屋に軽トラをしまう時間だ。
 ねこを抱えたまま助手席に乗り込む。すぐに車は動きはじめた。ねこを座

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【エッセイ】ねこ模様 その2

【エッセイ】ねこ模様 その2

 母がとなりのおばさんとの1時間にわたる世間話で仕入れた情報によれば、ねこの勢力図に変化があったらしい。
 となりでエサをもらっていた黒(紺)の大きいねこは、事故で命を落としたようだ。
 そのあと、うちの先生に似た白いねこが居つくようになり、すっかり「うちのねこ」状態だそうだ。
 灰色はとなりでも厄介者あつかいで、白ねこのエサを勝手に食べてしまうのでいつもおばさんに追いたてられているとのこと。うち

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【エッセイ】ねこの名は

【エッセイ】ねこの名は

 知らないうちに、ねこに呼び名がついていた。
 その名も「先生」。
 とある妖怪まんがに出てくるにゃんこ先生というキャラクターに似ているからだとか。
 近ごろのねこのふてぶてしさは、なるほどセンセイと呼びたくなるほどだ。そして、相変わらずかわいい。
 はじめは意地でもねこと呼び続けようと思っていたが、呼び名の必要性が高まったので、ついにわたしも先生と呼ぶことになってしまった。
 それというのも、母

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【エッセイ】不思議な窓

【エッセイ】不思議な窓

 ガラスが一枚抜け落ちた古い窓には、ねこたちを惹きつける何かがあるようだ。
 廃屋と呼ぶにふさわしい外観の古い家の、かつて居間だった部屋の窓である。現在の母屋を建てる前に祖父母と父が暮らしていた。今は物置として使っている。

 その窓から、ねこたちが顔を出す。
 窓は馬小屋のほうを向いていて、外で仕事をしていると目につく場所にある。だから、外をのぞくねこの姿を母と姉がよく見ている。
 うちのねこも

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【エッセイ】野性

 ねこは姉が来るのをじっと待っていたらしい。
 姉が馬小屋に入ると、廊下にねこが座っていた。ねこは、大きなねずみをくわえていた。ねずみはすでに死んでいるようだった。
 姉は思わず「ひゃあ」と言った。
 ねこはそれに構わず、姉に見せつけるように動かないねずみを前足で転がしたり、口で放ったりしてもてあそび始めた。非人道的な行いであるが、ねこもねずみも人ではない。
「いや、見せなくていいです。別に……」

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【エッセイ】寝床

【エッセイ】寝床

 馬のエサ。
 切り草(一番牧草を細かく切ったもの)。その上に、燕麦、穀物の入った飼料、カルシウムと塩、ニンニクチップ。
 その上に、ねこ。

 なぜか、馬のエサの上にねこが寝るようになった。ひんやりして気持ちいいのかもしれないが、エサはねこの体重で凹む、ねこの毛は汚くなる、良いことはあまりない。
 午後にエサを用意してから、夕方に馬がそれを食べるまで、ある馬房の飼葉桶で丸くなってひと眠りする。

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【エッセイ】ツバメの襲撃

【エッセイ】ツバメの襲撃

 毎年、ツバメが馬小屋の天井に巣をつくる。
 カラスがそれを狙うので、巣に板を打ち付けたり、馬小屋の出入り口に網をかけたりと気にかけている。うまくいくと、1シーズンに2回卵を孵し、雛が巣立つ年もある。
 今年もツバメは順調に育ったようで、小さいツバメをその辺で見かけるようになった。
 そして最近、ねこがツバメに襲われるようになった。
 同じ馬小屋に棲むもの同士、これまでは互いに干渉しないようだった

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