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【エッセイ】不思議な窓

 ガラスが一枚抜け落ちた古い窓には、ねこたちを惹きつける何かがあるようだ。
 廃屋と呼ぶにふさわしい外観の古い家の、かつて居間だった部屋の窓である。現在の母屋を建てる前に祖父母と父が暮らしていた。今は物置として使っている。

 その窓から、ねこたちが顔を出す。
 窓は馬小屋のほうを向いていて、外で仕事をしていると目につく場所にある。だから、外をのぞくねこの姿を母と姉がよく見ている。
 うちのねこも、前はよく古い家のあたりをうろついていたが、このごろはあまり近づかないようである。よく見るのは灰色のねこで、窓から外を眺め、時おり鳴き声をあげる。

 ある夕方、外を散歩していると、姉が私を呼んだ。小声で「あれ、あれ」と言う。
「なに」「ねこ、窓のとこ」
 例の窓に、見たことのないねこが座っていた。身体の大きなハチワレのねこだった。子どもの頃にうちに居ついていたねこによく似ていた。
「にゃんにゅに似てるね」にゃんにゅもまた、ハチワレのねこだった。
 首元の白い毛が赤く汚れている。けがをしているようで、傷口に長い藁がくっついていた。
 ねこは私たちに気づいていたが、じっと座って前を見ていた。
 姉が口笛を吹いて気を引こうとしても、微動だにしない。そのうちに、口笛を聞きつけてうちのねこが足元までやってきたので、口笛を吹くのをやめた。
 そのまましばらく互いに見つめ合っていたが、通りかかった母が様子を見ようと窓に近づくと、ハチワレは家の中に引っ込んでしまった。
「どうした? 大丈夫か?」
 窓からのぞき込んで話しかけた後、
「大丈夫、具合悪くはなさそうだわ」
 言いながら母が窓から離れると、ハチワレはまた窓辺に戻って座りなおした。
 ただ見ていても、何もできることはない。私たちは退散した。

 その後、ハチワレは姿を現していない。首元の傷が治り、どこかで無事でいることを祈っている。
 姉はけがをしたハチワレのために窓辺に古い座布団を置いたが、今では灰色のねこがその座布団を寝床にしているらしい。そして、窓から顔を出し、こちらを見ている。
「お前のために用意したんじゃない!」
 姉に言われても、灰色は意に介さない。
 古い家の中は、いつからかねこの世界になったのかもしれない。そうだとしたら、窓がその出入口なのだろう。
 なぜうちに色んなねこが代わるがわるやってくるのかわからない。通りすがりも含め、登場人物はまだ増えていきそうだ。
 あの窓にまた新しいねこが姿を現したら、姉か母から私に報告があるだろう。

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