四月一(小説家)

"毎朝5時15分に起き、こおひいを点て、小説を書いています" ・…

四月一(小説家)

"毎朝5時15分に起き、こおひいを点て、小説を書いています" ・本が好き(風の歌を聴け、金閣寺、銀河鉄道の夜) ・こおひい(濃いめ浅めともに) ・ウヰスキー(ニート)

マガジン

  • ☕️こおひいのおと〜珈琲を飲んで浮かんだ散文🖋

    毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします

  • 掌編(短いお菓子)

    10分程度で読み終えられるサクサクとした軽いもの。

  • テレグラフにいた

    ボリナス・アールビーをご存知だろうか? 友を失い、恋人を失い、僕は再び東京へと帰る。 十九歳と二十九歳。 東京とサンフランシスコ。 ふたつの五月から十月までを描いた青春小説。

  • 五月の5日間

    平成から令和へ。 遥か北の街・ヘルシンキを舞台に、移りゆく時代を跨いだ5日間の物語。

  • ギブソンとマティーニ

    無名作家の私と不思議な魅力を持つ美瑛。ふたりの過ごした一瞬の風のような時間の物語。

記事一覧

五十八杯目「ワルツ」

風は夕刻 囀りは朝 木は窓辺 影はカーテンの裾、ソファの隅 六弦の音、葡萄酒の瓶 スローワルツ 日々のコントラスト 毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けしま…

五十七杯目「エブリシング・ミーンズ・ナッシング・イフ……」

僕はね、 死にたいなんて、 一度たりとも考えたことがないんだ。 エブリシング・ミーンズ・ナッシング・イフ…… (Everything means nothing, if……) 海岸線はどこまで…

五十六杯目「芸術」

転がる 脱兎のごとく、転がる 生きる 抜け殻になっても 留める ペンとメモ紙として 滑る 磨き立ての靴で 転がる 毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします…

五十五杯目「博学なオウム」

そのオウムは博学で いろんな話を知っていたから 終ぞ、僕の言葉を真似ることはなかった 毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。 優しい一日を迎えましょ…

五十四杯目「しあわせな砂漠」

いいかね? ニューヨーク、パリ、ロンドン…… 街にも色々あるように 砂漠にだって色々あるんだ まずもって、初めの分類は しあわせな砂漠 と そうでない砂漠 いいかね?…

五十三杯目「一昨日のこと」

一昨日のこと キミはボクに会いたいと言った もう五年も経っていた それなのに、キミはボクを思い出したのだ——と ボクはキミを忘れていたよ もう随分、綺麗さっぱりにね…

五十二杯目「すべて朝のために」

朝だ 俺はこの朝を愛したい そして、この朝から愛されたい キツく抱擁し、溶けるような接吻を交わし、熱く入り交じり合いながら、犯し、犯されたい 朝だ 朝はもうそこにあ…

五十一杯目「異国」

ささめく枝葉の音だけがした 誰もいない路上 夜更けの交差点 風が駆け抜けていく 次々と 追い越していく 時を、光を グロッケンの四分音符がどこに在ったのかは今もわか…

五十杯目「船の縁」

船の縁に立って、アイツの寂しさを想った。 一人、見知らぬ土地へ出た人の。 見送りに行かなかったことを後悔する。 彼はなんてことのない顔をしていた。 強がりなのか?…

四十九杯目「悴んだ手」

手袋を落とした。 多分、街のどこかで。 左手の鼠色の手袋。 僕はそれを探そうと思う。 どうにもバランスが取れないのだ。 悴んだ手をポケットに仕舞う。 僕はそれを探そ…

四十八杯目「考える(ための)小径」

できるだけ見通しが良く ささやかな蛇行があり 緑と鳥と鱗雲 それに少しの人 毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。 優しい一日を迎えましょう。 フォロ…

四十七杯目「優しい詩」

誰かが救いの手をキミに差し出している。 ソレは、ネコやカメやショクブツかもしれない。 分解と生成。 回し車のような円環。 途上にいる。 キミに 前足を差し出す。 毎…

四十六杯目「バイパス」

 上品になりたいという思考は下品か? 下品でありたくないという意思は上品か? すべては“何か”を経由していく。 タイムスリップもテレポートもできないなら、 1マイ…

四十五杯目「ドーナツのまあるい夕焼け」

 生まれた時から「ドーナツ」と呼ばれている。  何故そう呼ばれるやうになったのかは定かでない。  物心がついた時には「ドーナツ」だった。  特段気に入ってはおらぬ…

四十四杯目「幻のキャンデー」

 透明だが、透けてはいない。  (古い建物の手吹きの窓硝子のような)  甘いが、決して甘過ぎることはない。  (善きバーテンダーのように人の縁を無為に跨ぐような事…

四十三杯目「車窓より」

いくらかの窓辺がある。 自分がこの人生を生きているということを実感できる窓辺が。 列車は休みなく走り続けている。 紙の上。 窓だけが超現実的(リアリティ)。 ビロー…

五十八杯目「ワルツ」

五十八杯目「ワルツ」

風は夕刻
囀りは朝

木は窓辺
影はカーテンの裾、ソファの隅

六弦の音、葡萄酒の瓶
スローワルツ
日々のコントラスト

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)

五十七杯目「エブリシング・ミーンズ・ナッシング・イフ……」

五十七杯目「エブリシング・ミーンズ・ナッシング・イフ……」

僕はね、
死にたいなんて、
一度たりとも考えたことがないんだ。
エブリシング・ミーンズ・ナッシング・イフ……
(Everything means nothing, if……)

海岸線はどこまでも続き、
浜辺はまるで小さな砂漠のようだった
ただ、どこからか打ち寄せる波の音と
どう行き着いたのか、
点在する干からびた流木だけが
海の存在を報せる

喉が、乾く
風に混じる潮を食む

毎週末の朝、珈琲を

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五十六杯目「芸術」

五十六杯目「芸術」

転がる
脱兎のごとく、転がる

生きる
抜け殻になっても

留める
ペンとメモ紙として

滑る
磨き立ての靴で

転がる

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)

五十五杯目「博学なオウム」

五十五杯目「博学なオウム」

そのオウムは博学で
いろんな話を知っていたから
終ぞ、僕の言葉を真似ることはなかった

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)

五十四杯目「しあわせな砂漠」

五十四杯目「しあわせな砂漠」

いいかね?
ニューヨーク、パリ、ロンドン……
街にも色々あるように
砂漠にだって色々あるんだ
まずもって、初めの分類は

しあわせな砂漠

そうでない砂漠

いいかね?
これは大事な事だから
ちゃんと覚えておくんだよ

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)

五十三杯目「一昨日のこと」

五十三杯目「一昨日のこと」

一昨日のこと
キミはボクに会いたいと言った
もう五年も経っていた
それなのに、キミはボクを思い出したのだ——と

ボクはキミを忘れていたよ
もう随分、綺麗さっぱりにね
でも、今は違う
思い出してしまった
だって、今日は一昨日ではないのだから

多分、明日も

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)

五十二杯目「すべて朝のために」

五十二杯目「すべて朝のために」

朝だ
俺はこの朝を愛したい
そして、この朝から愛されたい
キツく抱擁し、溶けるような接吻を交わし、熱く入り交じり合いながら、犯し、犯されたい

朝だ
朝はもうそこにある

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)

五十一杯目「異国」

五十一杯目「異国」

ささめく枝葉の音だけがした
誰もいない路上

夜更けの交差点
風が駆け抜けていく
次々と
追い越していく
時を、光を

グロッケンの四分音符がどこに在ったのかは今もわからない
しかしながら、ソレはどこかで放たれ、奏でとなって駆け抜けた

ささめく枝葉の音
風の抜けた路上

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)

五十杯目「船の縁」

五十杯目「船の縁」

船の縁に立って、アイツの寂しさを想った。
一人、見知らぬ土地へ出た人の。
見送りに行かなかったことを後悔する。

彼はなんてことのない顔をしていた。
強がりなのか? 無頓着なのか?

船の縁には風が吹く。
強く、濃い風だ。
全身でそれを受け止める。
後悔する。
潮風。
海鳴りがする。

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)

四十九杯目「悴んだ手」

四十九杯目「悴んだ手」

手袋を落とした。
多分、街のどこかで。
左手の鼠色の手袋。

僕はそれを探そうと思う。
どうにもバランスが取れないのだ。
悴んだ手をポケットに仕舞う。

僕はそれを探そうと思う。
僕は、それを……

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)

四十八杯目「考える(ための)小径」

四十八杯目「考える(ための)小径」

できるだけ見通しが良く
ささやかな蛇行があり
緑と鳥と鱗雲
それに少しの人

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)

四十七杯目「優しい詩」

四十七杯目「優しい詩」

誰かが救いの手をキミに差し出している。
ソレは、ネコやカメやショクブツかもしれない。

分解と生成。
回し車のような円環。

途上にいる。
キミに
前足を差し出す。

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)

四十六杯目「バイパス」

四十六杯目「バイパス」

 上品になりたいという思考は下品か?
下品でありたくないという意思は上品か?

すべては“何か”を経由していく。
タイムスリップもテレポートもできないなら、
1マイルづつ進むほかない。

豆を挽く、フィルターに乗せ、抽出(ドリップ)する——朝だ。

流れていく景色。
喧騒と辺境。
1マイルづつ、変わっていくのだ。

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。

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四十五杯目「ドーナツのまあるい夕焼け」

四十五杯目「ドーナツのまあるい夕焼け」

 生まれた時から「ドーナツ」と呼ばれている。
 何故そう呼ばれるやうになったのかは定かでない。

 物心がついた時には「ドーナツ」だった。
 特段気に入ってはおらぬ。
 かといって嫌いなわけじゃない。

 「ドーナツ」と誰かが声をあげれば、吾輩はそちらを向く。
 機嫌がよろしければ、「ニャア」と愛想の良い声で答えるかもしれぬ。
 反対に虫の居所が悪ければ、押し黙ったままピクリと耳を動かすに過ぎぬだ

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四十四杯目「幻のキャンデー」

四十四杯目「幻のキャンデー」

 透明だが、透けてはいない。
 (古い建物の手吹きの窓硝子のような)

 甘いが、決して甘過ぎることはない。
 (善きバーテンダーのように人の縁を無為に跨ぐような事はしない)

 飽きないが、一粒で十分に楽しめる。
 (古く読み継がれる本のように、言葉少なくとも多くを教えてくれる)

 幻のキャンデー

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜ

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四十三杯目「車窓より」

四十三杯目「車窓より」

いくらかの窓辺がある。
自分がこの人生を生きているということを実感できる窓辺が。

列車は休みなく走り続けている。
紙の上。
窓だけが超現実的(リアリティ)。

ビロードのシートに落ちた昼光と夜影。
僕は待つ。
ただ君のための席を空けて。

毎週末の朝、珈琲を飲んで浮かんだ散文をお届けします。
優しい一日を迎えましょう。
フォローもぜひ。
(四月一)