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短編集

16
短編それぞれ集めました。
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朝焼けに誓う

朝焼けに誓う

 大学生の頃から付き合っている彼と、同棲をして5年が経つ。

 彼ーー彰とは軽音サークルで知り合った。同学年だが違う学部の彼は、ギターをいつもかき鳴らしていた。聞いている曲はヘビメタ系の激しいものが多かったが、とてもおおらかで優しくて、辛いものが苦手だった。ベースを担当していた私は、彰から誘われて外部の演奏に加わったり、ライブハウスに行って他のバンドの鑑賞をしたり。そうしていくうちに惹かれていって

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きもちをのせる

きもちをのせる

 小学生の頃、授業中に手紙を書いていたのがバレて、先生に怒られた。冬休み前、クラスメートから「年賀状書きたいから住所教えて!」と下手くそな字の手紙をもらった。中学生になって、風邪を引いたその日「明日の予定だよ」と、近所に住むクラスメートが、わざわざ私の家に寄って手紙をくれた。散々ぶつかり合って絶対こいつらとはもう話さないと決めたはずなのに、部活の最後の発表の時に「色々あったけど最後は最高の演奏を一

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首を垂れるほどにあなたを想っていたのに

首を垂れるほどにあなたを想っていたのに

 道を歩いていると、生垣の椿が散って道に花を落としていた。その家の主は椿が好きなのだろう、濃いピンクや薄いピンク、白など、本当にたくさんの椿を咲かせていた。しかし、やがてはバラバラと椿は道端に頭を落として、人や車に踏まれてしまう。

 知らない間に、私も椿を踏んでしまっていた。白かった椿は私のピンヒールの跡がついて灰色になってしまっている。その椿の周りを見れば、踏まれたりして傷んだ椿がたくさんあっ

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もう一度、君と

もう一度、君と

 本当に好きだ。愛している。世界一愛している。

 そんな言葉を心の底から吐けるくらい愛せる人と出会えるなんて、確率にすれば何パーセントなんだろう。きっと1パーセントにも満たないに違いない。手を繋ぎ、抱き締め、キスをし、笑い合い、愛し合いながら歳を取っていく。そんな恋愛なんか、所詮は幻想に過ぎないんだ。現実はもっと冷たくて、愛し合いながら通り過ぎる恋なんかありはしない。

 恋なんかして何が残ると

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男と女だけど

男と女だけど

登場人物

相川陽菜(あいかわ ひな)・・・主人公

松尾大輔(まつお だいすけ)・・・陽菜の親友

 大輔は、私の親友だ。幼稚園の頃、大輔が近所に引っ越してきた。最初のうちは元気すぎる大輔がうるさいと思っていたけど、近所と言うこともあって仲良くしているうちに、いつの間にか男女の垣根を越えて親友になっていた。

「よう陽菜!!学校行こうぜ!」

「はいはい。今行くよ」

 新学期。おとといから高校

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君を信じる奇跡

君を信じる奇跡

登場人物

珠里(じゅり)

瑠衣(るい)

紫苑(しおん)

彩芽(あやめ)

 眠れなくて、少しでも眠るにはどうすれば良いのか考えるうちに、夜は更けていった。時計を見れば2時。0時に布団に入ったのに、2時間も眠れてないんだ。私はそう思うと、もうこれ以上布団で悶々としているのもなあ、と思い、起き上がって窓を開けた。

 真冬は寒いけど、星空がきれいだから好きだ。明るい星も多いし、まるで空がイルミ

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わすれな草

わすれな草

登場人物

ナツメ

ユリ 

ひとりぼっちになった。

 今までもひとりぼっちだったけど、君と出会ったこの数ヶ月は、私はそうじゃなかった。

 毎日が満ち足りていた。毎日が輝いていた。それまで確かに不幸でしかなかった私の人生が、一気に華やいだ。

 でも、君の身体はもう、ぼろぼろだった。私と会うずっと前から君は病に冒されていたんだ。

 君が生きているとき、

「ねえ、ナツメ」

「何?」

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二人だけの部屋

二人だけの部屋

登場人物

聖良(せいら):16歳。主人公。大きな病院に小学校を卒業してから入院している。

美星(みほし):15歳。聖良の友達。音楽が好き。

 窓の向こうにある木には、昨日降った雪が積もっていた。朝日に照らされるその枝先は雪に光が反射して、キラキラとイルミネーションのように輝いている。

 今日は、クリスマスイブだ。窓から見える人々はどことなく浮ついているようにも見える。

 でも、私からして

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これから

これから

登場人物

知佳(ちーちゃん)・・・主人公

夏海(なっちゃん)・・・主人公の親友

 国道1号線を、ずっと私は上っていく。高速はお金がかかるし、速く走るのは私の主義ではないから。1号線は確かに混むけれど、それでものんびりと私のペースで走れるから好きだ。

 私は昨日まで勤めた会社を辞めた。この世の地獄みたいな最低な場所だった。残業なんて当たり前だし、パワハラやセクハラも日常茶飯事だった。周りにい

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夕闇の君

夕闇の君

登場人物

里香・・・29歳。主人公。明るい。子供っぽい。

真智子・・・29歳。里香の親友。常に成績優秀で留学している。

 真智子は、誰が見ても「明るい子」だった。いつも笑顔を絶やさず、人の話を丁寧に聞き、そして笑わせてくれる。優しくて、こちらが辛いと思っても、それを喜びに変えてくれる子だった。私は彼女とは幼稚園からの仲で高校まで一緒だったが、真智子は一流の四年制大+アメリカに留学、そして私は

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雪解け

雪解け

登場人物

悠太(ゆうた):主人公。

要(かなめ):悠太のクラスメイトで悠太の後ろの席に座っている。

淳太(じゅんた):悠太のクラスメイトで友達。

※この話は『きれいなあの子』の続編です。

 5月の終わり頃。高校生活初めてのテストまであと1週間となっていた。

「悠太、そういえば最近電車のマドンナとはどうなってんの?」

 弁当を食べながら淳太。淳太とは中学からの付き合いだけど1番仲がよく

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君とみた花火は

君とみた花火は

夏も佳境に入り、日中は暑くてたまらないお盆明け。昔だったらお盆明けは少しは涼しくなったような気もするけれど、暑さは相変わらずどころか酷くなる一方だ。

 塾の夏期講習の帰り道。私は幼なじみの尊治と帰っていた。

「あーあ。毎日勉強漬けで参っちゃうぜ」

 私たちは高校2年生。来年は受験だからと大人たちにハッパをかけて、やれ夏期講習だ模試だで毎日忙しい。

 私はうなずいて、

「せっかくの受験前の

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きれいなあの子

きれいなあの子

登場人物

悠太:主人公。高校1年生。

愛莉:電車によくいる人。高校3年生。

 朝7時半の電車。その電車は俺の最寄り駅発で、どんなに駅が混んでいてもその電車だけは常にのんびりと乗ることができるから、俺は好きだった。

 そんな電車に、めちゃくちゃすごい美人がいる。背はそこまで高くないけど、ものすごくスタイルがよくて、色白で、きれいな黒髪で、目がぱっちりしていて、いつもほほえんでいるような女の子

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思い出はサイダーのように

思い出はサイダーのように

登場人物

中本悠実(ユウミ):主人公

××(君):ユウミの親友

 あれはいつのことだろう。でも、とても暑い日だった。セーラー服を着ていた君は、自転車を楽しそうにこいでいたっけ。

「××、待ってよ!」

「ユウミが遅いんだよー!もっと速く!!」

 私も必死に自転車をこぐけど、結局君には追いつけなかった。

「てかどこに連れて行く気?今日塾なんだけど!」

「そんなん休んじゃいなよ!青春は一

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