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君を信じる奇跡

登場人物

珠里(じゅり)

瑠衣(るい)

紫苑(しおん)

彩芽(あやめ)


 眠れなくて、少しでも眠るにはどうすれば良いのか考えるうちに、夜は更けていった。時計を見れば2時。0時に布団に入ったのに、2時間も眠れてないんだ。私はそう思うと、もうこれ以上布団で悶々としているのもなあ、と思い、起き上がって窓を開けた。

 真冬は寒いけど、星空がきれいだから好きだ。明るい星も多いし、まるで空がイルミネーションに包まれているようにきれいだった。

 この空は繋がっている。隣の町にも、隣の県にも、隣の国にも。そう思えば世界って狭いなと思うのに、どうしてこうも人はすれ違うのだろう。繋がっているはずなのに、会いたいと思っても会えないままでいるのだろう。

 数週間前。友達の瑠衣が休学に入った。頭大丈夫なの?といわれるくらい元気で明るかった瑠衣が、突然学校を休学すると言ったのだ。連絡を取ろうにも音信不通で、全く連絡が取れない。同じグループの紫苑や彩芽も連絡を試みてはいるようだが結果は私と同じだった。

 枕元においてあったスマホが鳴る。彩芽からだ。

「もしもし」

『もしもーし。珠里寝てた?』

「ううん、なんか寝れなくてさ」

『私もー。偶然だねー』

 そう彩芽が言ったとき、また別の人が電話に入ってきた。紫苑だ。

『なんかみんな電話してたから入ってみた~』

『何紫苑も寝れなかったの?』

『うん、目が冴えちゃって』

「すごい奇跡じゃん、私たちみんな眠れなかったんだよ?」

 すごいね、とみんなで笑った。深夜なので小さな声で笑ったけど、それでも大きく聞こえるくらい静かだった。

 私が小さく、

「瑠衣、どうしてるかなぁ・・・」

 すると、ああ、とみんな言ったきり黙ってしまった。

 瑠衣は私たちのグループでも中心の人物だった。彼女を中心にみんな笑顔になっていた。でも、そんな元気印がいなくなってからというものの、私たちはどこか穴が空いたかのように空虚で、寂しかった。

 こんなに連絡が取れないのも初めてだろう。そもそも、絶交とかそんなことをしない限りは連絡を取らなくなるなんてない。仮に疎遠になってもLINEなどメッセージを送れば何かしらが返ってくるはずだ。生きてはいると思う。そんな話聞かないし、もし亡くなったのなら必ず親や学校を経て言われるだろう。だからこそ連絡が取れない理由がわからない。

 沈黙を破ったのは、紫苑だった。

『瑠衣、何か悩んでたのかな・・・』

『そんな感じしなかったけど』

『いや、なんか前お母さんに言われたけど、そうやって明るい人ほど悩みとか抱えてるんだよねって。うまく隠してるだけで実はなんかあることが多いのよっていってたの思い出してさ。だから瑠衣もなんかあったのかなって・・・』

 明るく照らされれば照らされるほど、影がどんどん濃くなっていくということだろうか。

「どうなんだろう・・・。今となっちゃ、余計にわからないね・・・」

 瑠衣は、先輩からも後輩からも、先生たちにも慕われている子だった。だからこそ悩む点がわからない。

 可愛くてスタイルが良くて、明るくて優しくて、気遣いができる。成績はあんまり良くはないけれど、運動神経は抜群。面白いことも沢山言える。私たちに見える瑠衣は、少なくともそうだった。

 所詮は私たちは瑠衣の外面だけしか見れていなかったのだろうか。

 そう思った途端、じゃあ今までみんなで過ごした時間とは何だったのだろうかと、すごく切なくなった。沢山楽しい時間を過ごして、いろんなことを共有していたはずなのに、それができていなかったのかと思うと涙が出そうなくらい悲しい。

 瑠衣は、私たちと一緒にいてつまらなかったのだろうか。辛かったのだろうか。むかついていたのだろうか。だんだん考えないようにしていたはずの、瑠衣の本当の気持ちが知りたい気もする。でも、本音を聞いて今度は私たちが絶望するのかもしれない。それが怖くて、結果的に足踏みしてしまう。そんな自分も嫌だ。

 そうだねえ、と彩芽が言い、

『そうだとしてもさ、瑠衣は、嘘つくのはうまくないよ』

「どういうこと?」

『瑠衣はいつだって私たちの前じゃすごく楽しそうだった。ほかのみんなといるより、ずっと明るかったよ。だから、ホントは私たちといるのが嫌だったとか、そういうわけじゃないと思う』

 私の思いが彩芽に伝わっていたようだ。

 紫苑も、

『うん、私もそれは思うよ。瑠衣は結構正直者だよ。数学の先生と話しててあからさまに嫌そうな顔してたし』

『それはちょっと違うでしょ』

『それでもさ、私たちが原因ってことじゃないと思う。だから、私たちは瑠衣を信じるしかないよ』

 信じる。何度も聞いてきてはどこかで流されていた言葉。大事なはずなのに、ありふれて陳腐なものに聞こえる言葉。

「そっか、そうだよね。私たちが瑠衣を信じなきゃね」

 うんうん、と彩芽は言い、

『なんなら瑠衣も空見てるかもよ?寝れないー!って言ってさ」

『ありえる』

 なんだか姿が想像できて面白くて私たちは笑った。

『じゃあそれを信じて寝ますか。夢でなら瑠衣に会える気もしてきたよ』

『いっそ夜通しこうして起きてても良くない?』

「いや明日学校でしょ!」

『徹夜徹夜~~』

 さっきまでの悶々とした気持ちもどこかへ行き、私たちの気持ちは瑠衣を信じよう、という一つの気持ちにまとまったようだった。

 瑠衣は、きっと元気にやってるし、連絡をくれるはずだ。今はたまたま忙しいだけで、いつか必ず「やっほー!!」と連絡をくれる。信じれば奇跡は起こるんだから。

 私たちが下らない話で盛り上がっている頃、空には星が流れていた。


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