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「ジョーカーゲーム」で学ぶ「鰯の頭」でいることの危険さ

「トートロジー…見事な鰯の頭です。良く仕込んだものですが、新興宗教と同じですよ。閉鎖集団を離れては、とても長くはもたない観念ですね」

✔ジョーカーゲーム1話の「ジョーカーゲーム」 

「ジョーカーゲーム」は、全員が偽名・過去も不明の民間人8人とスパイマスターの陸軍中佐の結城で構成されている、帝国陸軍の非公式スパイ組織「D機関」の、第二次世界大戦直前~開戦後の日本と世界が舞台のスパイミステリーです。

 1話で、陸軍とD機関の連絡士官(リエゾンオフィサー)、佐久間中尉(CV:関智一)とD機関メンバー4人が、食堂でポーカーを行うのですが、佐久間中尉一人負け続けます。

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「ま、こんな日もあるさ」と気前よく負けを認めた佐久間中尉(横顔の人物)…なのですが…実は、ただの「ポーカー」をしていたのは佐久間中尉だけで、他のプレイヤーは「ポーカーを使ったジョーカーゲーム」という、別のゲームに興じていたことを明かされます。

 「ジョーカーゲーム」とは、テーブル上ではポーカーが行われているけど、プレイヤーは、ポーカーをしていないあとの4人を味方につけ、盗み見たカードをサインで教えてもらう…ただし、誰がどのプレイヤーの見方かは分からないし、裏切らせることもできれば、裏切られることもある…スパイ訓練のようなゲームのことを、彼らはそう呼んでたんですね。

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「そんな騙し合いをして何が楽しい⁈何の意味があるというんだ⁈」と、イラつく佐久間中尉に、「さぁ?せいぜい国際政治くらいなものですよ」と甘利(CV:森川智之)が、気持ち小馬鹿にした感じで言ったのを受けて、佐久間は「国際政治…だと…?」と鼻白みます。

 純粋に楽しんでたのは自分だけで、他のみんなはただ騙し合いに興じていた…だけでなく、ポーカーを国際政治に見立ててゲームを楽しんでいたなど、、頭が固くて無駄にプライドが高い帝国陸軍将校にとってはもう、理解不能なのとプライド崩壊で固まるしかありません。

✔国際政治では、日本はいつも馬鹿を見ている?

 佐久間中尉が固まっている所に結城中佐(CV:堀内賢雄)が現れ、現状を聞き、静かに説明します。「テーブルの上を国際政治の舞台に置き換えてみろ。情報が筒抜けならゲームに勝てるわけがない」と冷淡に言い放ちます。

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 「スパイは卑怯だ!正々堂々とやるべきだ!」という佐久間のような、典型的な日本人に多い考え方(陸軍人は特に強い)の裏で、他国は様々な情報収集、工作を行っていて、実際会議のテーブルに着いた時にはすでに物事は決まっていて、それだから、日本は国際政治でいいようにされ、いつも割を喰わされているという意味ですね。結城中佐が例に挙げたのは「ワシントン軍縮会議」についてでした。

✔ワシントン海軍軍縮会議

 1921年にワシントンで行われた、海軍の軍縮問題について討議された会議の事をいいます。各国で戦艦保有比率を決めるんですが、条約締結時点での元々の主力艦保有数は、英30隻、米20隻、日11隻、建造中のもの英4隻、米15隻、日4隻なので、日本は英国の6割以下しかなかったのに、艦艇の保有比率に関しては、英:米:日がそれぞれ、5:5:3という、日本にとっては「そんなぁ~」な結果になってしまいました。

 しかも「建造中の艦は廃艦」ということが決まったのですが、日本の「陸奥」については、いくら「完成してるんだってば!」と言っても取り合ってもらえません。揉めに揉めた挙句、陸奥保有は認めてもらえたものの、米英の廃艦予定のもOK!と認めないといけなくなって、結果、保有比率はさらに悪くなってしまった…というそんな話です。

 余談ですが、この結果を経て「分かった!戦艦はもう造っちゃダメなのね?オーケーオーケー!じゃあ…」と、代わりに空母を建造を増やした日本…そしてこれが、後の真珠湾攻撃で活用されます。

 真珠湾攻撃は、世界で初めて空母を戦術的に正しく使った、海戦の歴史を変えた軍事行動です。…国際政治は苦手だけど、与えられた条件でどうにかしてしまう上に、より良く改善しちゃうのは、日本の長所ではありますね…転んでもタダでは起きない日本…面白い国ですよね。

 結城中佐は「ワシントン軍縮会議」では、他国の「プレイヤー」たちは、日本がどこまで譲歩するのか予め知っていて、日本だけはそのことに気づいていないままやり込められ「見せかけのルールにとらわれて、ゲームの本質にすら気づいていなかったのだ」と説明します。

✔ある考えに染まりやすいということは、他の考えにも染まりやすい

 それでもなお、スパイは卑怯な存在だと食い下がる佐久間中尉に、結城中佐は、続けて「スパイ」という存在の本質、そしていかに深い闇と孤独が待っているか、そしてスパイにとっては殺人と自決は最も愚かで無意味な行為だと言い切ります。

 生粋の帝国陸軍人である佐久間は、いざという時に殺人と自決を禁じている結城中佐の教えは理解できず、作戦に失敗した場合は自決するのが当然だと言います。

 「貴様が自決して、それでどうなる?」と冷ややかに尋ねる結城中佐に、佐久間「死ねば、向こうで胸を張って同期に会えます」と言い切り、結城中佐は、三好(CV:下野紘)に、その考えについてどう思うか尋ねます。

三好

 「トートロジー…見事な鰯の頭です。良く仕込んだものですが、新興宗教と同じですよ。閉鎖集団を離れては、とても長くはもたない観念ですね」と、冷淡に言い切り、続けて問われた神永(CV:木村良平)は「例えば日本が負けた場合、全く反対の事を、容易かつ同程度に信じるようになるでしょう」と、あっさり「日本が戦争に負けた場合」などと口にする神永に、佐久間中尉は閉口します。

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 事実、戦後最も簡単に逆の思想…共産思想に染まったのは多くの軍人たちでした。あれほど妄信的に信じていたことを、いともたやすく覆せるのですから、不思議です。

 この二人がサラリと言ったことは非常に本質的で、日本人の良くも悪くも素直で信じやすく騙されやすい性質を表しています。そして、こういう性質も、国際社会における日本の有り様も、戦前とは本質的に何ら変わっていません。

 この「ジョーカーゲーム」は目に見える事象だけでなく、その裏側で何が行われているか、推察し、人間関係を把握し、敵の味方を裏切らせて味方につけ、出し抜き、自分に有利にすすめていく「ゲーム」です。

 いつもこんなことをするのは疲れますが、こういう訓練をしてみると、自分のビジネスを有利に進めることが、実際にできるようになるかもしれませんね。「鰯の頭」では、有利にするどころか、生き抜くことすら難しい世の中なのですから…。

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