#3 Whole Love Kyotoのホテルカンラ京都でのPOPUP EVENTに見た「中間地点」としての可能性について
どうも、編集長の松島です。
このEditor’s noteという名の編集長日記は、ALKOTTO編集長にしてこのチーム唯一の大人(いちおう年齢的にはそういって差し支えない程度には立派なジジイ)であるこのぼくによる不定期日記でありつつ、いってみれば社説的な位置付けというか、「まえがきとしてのあとがき」などというサブタイトルもあって、なんだかよくわからないという人もいると思うのであらためて書いておくと、要するにあまり縛りのない、ひと筆書きで書いた制作メモのようなものだと思ってもらえればよいと思う。
今後は学生たち自身がエッサ!ホイサ!と企画を立て、その企画ごとにいろんなマガジン単位での記事がまとまってアップされていくと思うので、ここではもう少し俯瞰的というか、この活動を支えている「視点」のようなものを提示していく場所として機能すればいいなと思って夜中にコツコツ書いていたりする。まあドラマのメイキングとか、あるいはジャッキー・チェンの映画のエンドロールに流れるNG集みたいなものだと思って、気軽に読んでもらえれば幸いなのである。
それで初めて読んだという人にご親切にも説明しておくと、初回はいわゆる甲子園における「宣誓、われわれ選手一同は・・・」みたいなものとして、ALKOTTO立ち上げから2か月の経過報告を書いた。
次いで、実質の初回であるところの前回は、京都外国語大学のフランス語学科で講師をしている友人のローラが主催するイベントを紹介するコラムを書いた。
さて、では3回目となる今回、いったいぜんたいなにを書けばいいのやら、といろいろ思案してみたのだけど、けっきょくのところ、立て続けにイベント紹介をしてみようということになった。それが9月9日から10月2日まで、ホテルカンラ京都で開催中のWhole Love KyotoのPOPUP EVENTである。
Whole Love Kyotoというのは、CHIMASKIという京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学のほう)の酒井洋輔准教授が主宰するデザインスタジオと同大学の学生たちで運営するファッションブランド。「OLD is NEW.」をコンセプトに、京都の職人というか名工とか匠と呼ばれるような伝統工芸の世界におけるすごい人たちの技術を活かした、現代的なアプローチによるファッションアイテムや雑貨などのプロダクトを開発・販売しているチームだ。
●公式instagram
じつはぼくが彼らと知り合ったのは、いまから6年前の2016年。これもENJOY KYOTOでの取材がきっかけだった。ちなみにこの出会いが印象的だったのは、通常の場合であればメディアであるこちらが紙面企画のネタとして取材したいとオファーをするものなのだけれど、このWhole Love Kyotoについては彼らのほうから取材してほしいという逆オファーをメールでいただいたからだった。
当時、オフィスまで打ち合わせに来てくれた酒井先生と学生メンバーに、なぜこうしたオファーをうちにしてきたのか?と尋ねたところ「外国からの観光客へのアプローチとして京都の英語のメディアを探していたらENJOY KYOTOがいちばんよかったから」とのことだった。しかもちょうどそのとき次号の企画として「京都の学び」とのコンセプトを考えていたので、タイミング的にもバッチリだったことから特別な縁を感じた。ちなみにそのときの紙面がこちら。
その後もお付き合いは続いていて、ぼく個人としても彼らが運営するT5(KYOTO TRADITIONAL CULTURE INNOVATION LABORATORY)のウェブサイトでの読み物コンテンツの記事を書かせてもらったりもした。これはくるりの岸田繁さんと三味線職人で祇園で演奏もされている野中智史さんにお話を伺ったときの対談記事だ。
さて、今回のこれまでもポップアップショップではWhole Love Kyoto の代名詞であり定番商品でもあるスニーカーに職人の手による本物の鼻緒がついた「HANAO SHOES」や京都の100年以上の老舗店をかるたにしたユニークな「100年かるた」のほか、伏見の石川漆工房の手による漆のアイススプーン、一澤信三郎帆布とコラボしたトートバッグなどなどが揃っている。Whole Love Kyotoはかつても藤井大丸や伊勢丹、大丸京都店などでのポップアップショップを展開していて、そのたびに足を運んできたのだけど、今回のホテルカンラ京都での展示が個人的にはいちばん好きだった。それはホテルカンラ京都の雰囲気とWhole Love Kyotoの雰囲気がすごくマッチしていたことももちろん大きな要因のひとつではあるのだけれど、それよりなにより、ぼくはホテルロビーという場所だったことがよかったと思っている。
これまでのような商業施設の場合、物理的に狭くごちゃごちゃしているのはもちろんだけど、それより重要な違いは商業施設に来る人というのは基本的にショッピングを「目的」としているという点だ。もちろんポップアップショップなのだからそこは販売の場であり、商業施設に展開するのはあたりまえだと誰もが考える。でもWhole Love Kyotoのような商品は、むしろそういう場所では売れないのではないかとぼくは思うのだ。なぜか?それは商業施設にショッピングに来る人というのは、もっと本来的で現実的で生っぽい欲望、いま欲しいもの、必要なものを求めている人がおそらくは大半だろうからだ。もちろん他のものを買いに来た人がたまたま見つけて気に入ってその場で買う、というケースもないわけではないと思うが、おそらくは少数だ。それにその場の思いつきで買うにしては(若者などにはとくに)少々高くもあるだろう。
しかしホテルのロビーにいる人(まあふつうに考えてそのホテルの宿泊客だろう)というのは、そうした現実で生っぽい欲望を持った人たちではない。むしろ、非現実的な時間を過ごしている。そしてなにより大事なのは、その非現実の種類が「旅」であることだ。その人は旅の途上にいて、いまはしばし移動を休止し、ホテルという安息所にステイしている。その安息所のロビーというのは帰ってきたり、出かけたりするときに束の間滞在する中間地点であり、「踊り場」みたいな場所だ。帰ってきた人の多くは美味しいものを食べたりお酒を飲んだりして、さぞかしいい気持ちになっていることだろう。街のざわめきや余韻を胸いっぱいに吸い込んできたばかりの人たちである。また出ていく人たちはたいてい次の旅への期待に胸を膨らませ、チェックアウトすることでこの滞在やこの街への名残惜しさに浸っている最中である可能性が高い。いずれにせよその真ん中に、ホテルのロビーというのはある。ちょうど場面転換のフェードアウトのような余韻をもたらす存在として。
なにが言いたいかというと、人はこうした中間地点こそ真に心地よい特別な場所だと感じていて、売れない売れないと悩んでいる京都の伝統工芸はじめ、質の高い(もちろん価格も高い)一生ものの大切なものを買うタイミングは、まさにそうした心境にあるタイミングと場所でこそ行われやすいものなのではないだろうかということだ。
この「結び目」のような場所というのは、近年「サードプレイス」なんて言葉もあるように、じつはとても重要な概念になってきている。サードプレイスというと趣味の時間やカフェやバーでのひとときなど、家と仕事場の中間地点として使われることが多かった。しかし、期せずして今回のPOPUP EVENTは、消費の場所としてのサードプレイスの可能性を教えてくれた。日常と非日常のサードプレイスというのはなにも仕事と遊び、会社と家といった具体的な行動や場所のことだけではなく、意識下におけるすべての中間地点のことであり、旅においては空港や駅、そしてホテルのことである。
もうすぐ入国制限が解除され、訪日外国人が戻ってくるだろう。その際、ホテルのロビーをはじめ「意識かにおける中間地点」となる場所の果たす役割は大きくなっていくことだろう。美術館におけるミュージアムショップなどもそうだろう。考えてみればPOPUP SHOPそのものが、リアル店舗とネットショップの結び目のようなものである。おそらくぼくたちはわかりやすい両橋にばかり目を奪われがちだけど、実際には無意識のうちにいろんな中間地点を通過していて、そこで得る余韻こそを楽しんでいるのかもしれない。街の中間地点を探すことが、良い旅の条件であり、良い人生の条件でもあるとぼくは思うし、東京が目的性を持った流行スポットの集積だとしたら、京都の街の魅力というのは、まさにこの「中間地点」の多い街であるということに尽きるのだ。
先日イノダコーヒが後継者の問題で東京のファンド会社に株式譲渡するニュースがあった。これ自体はイノダという歴史あるお店を残し、運営を続けていくための苦渋の決断であり、今後ポジティブに推移する可能性がないわけではないだろう。ただ、このところ東京式の街づくりを京都に導入していく傾向があるのだけれど、それは決して京都の魅力を増すことにはならないとぼくは明確な危惧を抱いている。そして、このWhole Love Kyotoも「京都で作っていて、京都でしか買えない」ということを守りながらがんばっているチームだ。わがALKOTTOも、もともとは京都の大学生たちが軒並み大阪や東京へ行ってしまうことが残念で、すこしでも京都に残ってビジネスを生み出す人になってもらえないかという思いもあって、ほぼボランティアで活動を始めたのだった。
2年前にはこのWhole Love Kyotoの学生メンバーと京都外国語大学の学生を繋いで、スタートアップスタジオみたいな学生起業を促す活動の一端になれないかと始めたプロジェクトもあった。
このプロジェクトは始めた途端にコロナがやってきて、走行しているうちに中心メンバーがみんな卒業してしまったこともあり頓挫してしまったのだけれど、ALKOTTOという具体的な場所ができたいま、ふたたびこうしたプロジェクトを京都外国語大学以外にもグローバル観光を学ぶ学科のある京都産業大学や同志社大学、さらにはエンジニア系の学生にも広く参加を呼びかけて、再開してみたいなあとひそかに思っている(ようやくプロジェクトの前書きらしくなってきたぞ!)。
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