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#2 フランス人に学ぶ、張子の虎の魅力

どうも、編集長の松島です。
このところ原稿作業が忙しくてあんまり出歩いていなかったのだけれど、先日久しぶりに用ができたので、それじゃあということで街に出てみることにした。屋外ではすこしずつマスクをしていない人の姿を多く見かけるようになってきていて、まあようやくなのかなと胸を撫で下ろしている。早くみんなの顔を見ながら話をする日が来たらいいのになあと、心から願うばかりである。

またもや冒頭から余談なのだけど、ぼくはコロナ禍が始まったかなり初期段階から、基本的には屋外では(とくに通りを歩くときなどは)マスクを外している。まあくわしく話すと長くなるし、専門家でもないからうまく説明できないのでよすけれど、とにかく「どうも科学的にはそれでよいようだから」としか言いようがない。ただし閉め切った屋内ではぼくもマスクはつけることにしている。それだって本当はまあ去年の秋あたりからは、よっぽどでない限りは不要(というかほぼ無意味という意味で)なはずではあるのだけど、まあいわゆる「反マスク派」みたいなレッテルを貼られて余計なトラブルに巻き込まれたりもしたくないのでね(もちろん科学的にも一定環境下ではいまでもマスクしたほうがいい場所があることは承知しているのだけれど)。

ともあれ、ここからが本題。今回書きたいのは「張子の虎の展示会 めでタイガー Mede Tiger」のこと。このちょっと変わった展示会は、京都外国語大学のフランス語学科講師でもあり、ENJOY KYOTOの初期からモデルとしても協力してくれているローラ・アリエスさんと、その友人エミリーさんが主催したもの。ローラと初めて出会ったのはもう8年前。共通の友人を介して嵐山のオルゴール博物館の1階にある喫茶「赤い靴」でお茶したのが最初だった。それからENJOY KYOTOでなんどかモデルをしてもらった。ひとつひとつの思い入れがあって、とても懐かしい。

「張子の虎の展示会 めでタイガー Mede Tiger」が開かれた会場は五条木屋町下ル、旧五条楽園のあたり、古い街並みが残る「宿や平岩」というところ。すぐ近くには梅湯もある、といえば京都の人ならまああのあたりとピンときてくれるかな(そういえばちょっと前まではefishもあったんだよなあ)。この日は35度ほどあってものすごく暑かったのだけれど、春の終わり初夏にかけたなんかだと、散歩するのにすごくいい場所でもある。鴨川もそばにあるしね。

この展示会はローラと彼女の友人であるエミリーさんのおふたりが個人的に日本全国の張子の虎を集めてきたものを、寅年にちなんで、一挙公開しようということで開催されたものなのだそうだ。なぜ張子の虎なのか?と思って尋ねてみたところ、そもそものきっかけはローラがたまたま北野の天神さんの市で見つけ、そのあまりのかわいさにひと目惚れしたことだったという。そこから興味を持っていろいろ調べていくうちに、日本各地にその土地ごとの張子の虎があること、ただかわいい郷土玩具というだけではなくいろんな意味や歴史があることを知って、ますます興味が湧き、やがて彼女は日本全国のいろんな張子の虎を集めたいと考えるようになった。また、そうしていろんな人に話を聞くうち、いまでは張子の虎を作る職人さんが減っていることを知り、フランス人をはじめとした海外の人に張子の虎を知ってもらうことで、職人さんを支援できないかと考えたのだそうだ。

そもそも張子の虎ってなんなのか?このぼくにしてみたところで、なんとなく「子ども用の伝統玩具」くらいの知識しかなく、古来のもので虎といえば中国の影響が大きいんだろうな、ということはまあ概ね想像はつくけれど、くわしくは知らない。そこであらためて調べてみるとやはり中国の「虎王崇拝」が日本に伝わったことに由来し、子ども(とくに男子)の健やかで逞しい成長を願って、古くは5月の端午の節句に兜などといっしょに飾ったりしたのだということだ。素材は和紙を使っていて、木型に和紙を張り重ねて型をつくり、そこに胡粉で絵付けする。ひとつひとつ手作りなので表情は全て違っているし、地域や工房によってかたちやデザインも異なっている。

会場でローラ自身に案内してもらいながら、張子の虎のいろんな話を聞いた。香川県や島根県、そして奈良県と岡山県(倉敷)ではいまでも張子の虎づくりが盛んな地域であるとか、大阪北浜の道修町では江戸末期にコレラが流行ったときに疫病退散としてこの張子の虎が配布されたこと、そして伝統文化の首都ともいえるここ京都にはもう職人さんがいないことなどなど。いずれもとっても興味深い話で、知らないことばかりだった。そういえばこの切手、むかし持ってたなあ(ぼくは小学生の頃はそれなりに熱心な切手コレクターだったのだ)。

ローラが他のお客さんと話しているあいだにあらためてじっくり見てまわる。明らかに中国の影響が色濃く残るものもあれば、日本風に柔和な表情になっているのものなど、ほんとうに大きさ、かたち、色、デザインなども多彩で、見ていて飽きない。違いについていろいろ想像を巡らせるだけでも楽しい。

もちろん張子の虎のことは、ぼくだってむかしからよく知ってはいる。でも、ひとつひとつが違っていて、これほどいろんな形や表情があるなんて、逆に日本人であるぼくでさえ知らなかったし、たぶんこれまであまり深く考えたことさえなかった。そもそもこんなにじっくりと近くで張子の虎を眺めたことすらなかったかもしれない。

そういう意味で今回の展示会はぼくにとっては「発見」だった。ぼくは自分たちにとってあたりまえである京都の伝統文化を海外の人に向けて発信するという仕事をここ10年近くやってきたのだけれど、この展示会に来てちょっとこのところ忘れかけていたものを思い出したような気持ちが湧き上がった。なにかとても新鮮な驚きと衝撃を(まあコロナ禍でこの2年半家にこもってたこともあって)ほんとうに久しぶりに受けた気がしたのだった。

会期中、ルクセンブルグの大使館の人が展示を見に来られたらしく、今後また東京で開催する予定もあるのだとか。とてもおもしろくて意義ある取り組みなので、興味をお持ちいだいたメディアやイベント関係の方々がいらっしゃいましたら、取材や展覧会のオファーをしてあげてほしいなとぼくからもお願いしたい。もちろんぼくたちALKOTTOも今後の動向を追いかけ、またあらためて学生の視点で取材をしたりコラボしたりして、この意義ある活動をサポートできたらと思っている。逆にローラにALKOTTOでフランス語による記事を書いてもらうのもいいかもしれないなあ。


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