『忘想』

「えーっと、これがマスカラか。難しいな…」

辺りには、妻の服や化粧道具が散乱している。

亡くなったとはいえ、怒ってるよな。ごめん。

寂しさを埋めるため、俺は妻になろうとした。

だけど、鏡に映るのは、ただの汚い女装男だ。

ガタっ。振り向くと、娘が部屋に入ってきた。

「あ、その、これは…。気持ち悪いよな…」

「知ってた、ずっと。パパの気持ち分かるよ。

   ほら、ママみたいに綺麗になろ。あー、もう

   泣いたらマスカラ落ちるじゃん。やり直し!」


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