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  • 佐藤真RETROSPECTIVEに寄せて

    5/24(金)より開催の『暮らしの思想 佐藤真RETROSPECTIVE』。佐藤真監督・作品に思い入れ/ゆかりのある皆様にご寄稿いただきました。 https://alfazbetmovie.com/satomakoto/

記事一覧

「映画『デビルクイーン』の背景に見え隠れするブラジルカルチャー」中原仁(音楽・放送プロデューサー/選曲家)×岸和田仁(日…

軍政下の言論活動や文化活動が抑圧された時代 その隙間をぬって作られた映画の1つが『デビルクイーン』 中原:長年ブラジルに赴任されていてブラジルをよく知ってらっしゃ…

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1か月前
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『デビルクイーン』アントニオ・カルロス・ダ・フォントウラ監督オンラインQ&Aレポート

今日はリオの山小屋から参加しています。 51年前に私が作った映画が4Kリマスターされて、色・音が鮮やかに甦り、新しい命が吹き込まれて、こうして現代の、東京の皆さんに…

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1か月前
7

「成功したオタク日記」発売記念!オ・セヨントークイベントレポート

性加害で逮捕されたK-POPスターの熱狂的ファンが、推しの逮捕から映画『成功したオタク』を制作・公開するまでを赤裸々に綴ったエッセイ&ノンフィクション『成功したオタ…

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2か月前
12

『まひるのほし』トークイベントレポート ゲスト:関根幹司さん(『まひるのほし』出演・撮影協力、シゲちゃんの絵の先生)

「これはもう彼の芸術活動ですよ。街で繰り広げるパフォーマンスです。止めるんじゃなくて、支援したらどうでしょう」 シゲちゃんは僕にとって生きる哲学、恩師のような人…

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3か月前
5

5/25㊏ 『阿賀に生きる』トークイベントレポート

『阿賀の岸辺にて』の宝物話の映画作ろうよ。人生の達人で名優ばっかしだ。そのまんま日常生活撮れば映画になるよ。 5/25(土)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて 『阿賀…

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4か月前
9

人の声自体を「できごと」として捉える 濱口竜介(映画監督『悪は存在しない』)

佐藤真の映画ではカメラが人物の前に回ることが多い。対立でもなく、対峙でもなく、被写体の前で立ちすくむカメラ。そんな印象を受ける。 答えのない過酷な生を、人々の声…

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4か月前
7

滂沱の涙を流しながら、あたまは、霧が晴れるように澄み渡っていくのを感じた。 清田麻衣子(里山社)

すべては佐藤真さんから始まった。 と言っても過言ではないくらい、いまの私の本づくりに至る動機、指針、視点は佐藤真さんによるものだ。テーマやイデオロギーを頭に置き…

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4か月前
12

もうこれ以上は踏み込めない、ぎりぎりのところで一人のひとの「生」を垣間見てしまう瞬間 小森はるか(映像作家)

佐藤真さんが探求し続けた「日常と隣りあわせにあるもうひとつの世界」。佐藤さんの映画でしか感じられないその世界が、確かに在るのです。それが映像に残るのは怖いことだ…

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4か月前
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画面越しではあるが、じぶんのどこかと接続し、こちらの生と関わった 小田香(映画作家)

『まひるのほし』に登場する知的障害者と呼ばれる方々が表出するものや、その人たちがものを生み出しているシーンを見ていると、気持ちや思考を含めた、からだの中にある何…

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4か月前
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生きていると佐藤真監督の映画のことを不意に思い出す。 深田晃司(映画監督)

生きていると佐藤真監督の映画のことを不意に思い出す。阿賀の景色、花子の笑顔、パレスチナの難民たち。それら映像の記憶の断片はノスタルジーから遠く現在と生々しく接続…

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4か月前
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なぜそう撮ったのか。なぜそう繋いだのか。なにを撮らずにいたのか。なにを撮れなかったのか。 三宅唱(映画監督『夜明けのすべ…

なぜそう撮ったのか。なぜそう繋いだのか。なにを撮らずにいたのか。なにを撮れなかったのか。あるショットから次のショットへ、そのすべての変化が、新たな発見として、新…

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4か月前
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「佐藤真監督と『阿賀の記憶』のこと」矢田部吉彦(前東京国際映画祭ディレクター/映画上映プロデューサー/映画文筆)

会社辞めたのだったら、次の映画のプロデューサーをしませんか? 現在はポレポレ東中野と呼ばれている映画館は、かつてはBOX東中野という名前だった。そのBOX東中野で、佐…

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4か月前
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佐藤さんの新しい映画を見ることはできない。でも、やかんの湯を沸かす囲炉裏の火が消えそうになったら、誰かがそこに薪をくべる…

佐藤さんの新しい映画を見ることはできない。でも、やかんの湯を沸かす囲炉裏の火が消えそうになったら、誰かがそこに薪をくべることならできる。 いつでも泊まりに来なさ…

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4か月前
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無意識に持っている枠、既にある解りやすさに落とし込もうとするような軽率な手つき、考えの無さを見逃さなかった 飯岡幸子(撮…

佐藤さんは、生徒たちが撮ってきた映像に対して、こうしなさいああしなさいということを全く言わない人でした。 初めてカメラを持ったような私達が撮ってきた、振れていた…

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4か月前
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絶望の中で希望を見ようとしたサイードに励まされる 川上泰徳(中東ジャーナリスト)

エドワード・サイードの生涯と彼の言葉をたどりつつ、映画はパレスチナ人とイスラエルのユダヤ人の経験に分け入っていく。イスラエル占領下のヨルダン川西岸で、レバノンの…

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4か月前
12

「あの旅で変わったよね!」と嬉しそうに私に言ってくれた大人 秋田祥(映画上映企画)

スクリーンを目の前に、20歳のときにした一人旅を思い出す。自分で自分が大きく変わったことを感じて興奮していた、そんな特別な旅からもどった私に「あの旅で変わったよね…

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4か月前
9
「映画『デビルクイーン』の背景に見え隠れするブラジルカルチャー」中原仁(音楽・放送プロデューサー/選曲家)×岸和田仁(日本ブラジル中央協会ブラジル特報編集人)トークイベントレポート

「映画『デビルクイーン』の背景に見え隠れするブラジルカルチャー」中原仁(音楽・放送プロデューサー/選曲家)×岸和田仁(日本ブラジル中央協会ブラジル特報編集人)トークイベントレポート

軍政下の言論活動や文化活動が抑圧された時代
その隙間をぬって作られた映画の1つが『デビルクイーン』

中原:長年ブラジルに赴任されていてブラジルをよく知ってらっしゃる岸和田さんから、まずはこの映画が誕生した1973年、70年代前半のブラジル社会、 政治的な背景も含めてお話いただけますか。

岸和田:ブラジルの軍事政権がクーデターで権力を握ったのは1964年で、民政復帰するのが1985年。ですから、

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『デビルクイーン』アントニオ・カルロス・ダ・フォントウラ監督オンラインQ&Aレポート

『デビルクイーン』アントニオ・カルロス・ダ・フォントウラ監督オンラインQ&Aレポート

今日はリオの山小屋から参加しています。
51年前に私が作った映画が4Kリマスターされて、色・音が鮮やかに甦り、新しい命が吹き込まれて、こうして現代の、東京の皆さんに観ていただけたことをとても光栄に思います。現在・過去・未來、リオと東京、素敵な繋がりですね。

Q: 音楽がとても印象的でした。何をイメージしてあの音楽をつけたのでしょうか?
以前も一緒に仕事をしたことのあるギリェルメ・ヴァスというミュ

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「成功したオタク日記」発売記念!オ・セヨントークイベントレポート

「成功したオタク日記」発売記念!オ・セヨントークイベントレポート

性加害で逮捕されたK-POPスターの熱狂的ファンが、推しの逮捕から映画『成功したオタク』を制作・公開するまでを赤裸々に綴ったエッセイ&ノンフィクション『成功したオタク日記』。
本書の発売を記念して、著者でありドキュメンタリー映画の監督でもあるオ・セヨンが再来日し、映画上映後にトークイベントを開催いたしました。

セヨン:皆さんこんばんは。私は『成功したオタク』の監督、オ・セヨンです。よろしくお願い

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『まひるのほし』トークイベントレポート ゲスト:関根幹司さん(『まひるのほし』出演・撮影協力、シゲちゃんの絵の先生)

『まひるのほし』トークイベントレポート ゲスト:関根幹司さん(『まひるのほし』出演・撮影協力、シゲちゃんの絵の先生)

「これはもう彼の芸術活動ですよ。街で繰り広げるパフォーマンスです。止めるんじゃなくて、支援したらどうでしょう」

シゲちゃんは僕にとって生きる哲学、恩師のような人です。
『まひるのほし』を作るにあたって佐藤真監督に「関根さん、作品制作を映像に撮っているだけじゃ映画にならないんだ。どうしよう」と言われて。でね、シゲちゃんの話をしました。
 
実はこの時、シゲちゃんは就職が決まってました。そのくらい落

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5/25㊏ 『阿賀に生きる』トークイベントレポート

5/25㊏ 『阿賀に生きる』トークイベントレポート

『阿賀の岸辺にて』の宝物話の映画作ろうよ。人生の達人で名優ばっかしだ。そのまんま日常生活撮れば映画になるよ。

5/25(土)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて 『阿賀に生きる』 上映終了後にトークイベントが開催されました。

登壇者は旗野秀人さん(『阿賀に生きる』発起人)、小林茂さん(キャメラマン・映画監督、『阿賀に生きる』撮影)、秦岳志さん(映画編集)、神谷丹路さん(佐藤真 妻/韓国語

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人の声自体を「できごと」として捉える 濱口竜介(映画監督『悪は存在しない』)

人の声自体を「できごと」として捉える 濱口竜介(映画監督『悪は存在しない』)

佐藤真の映画ではカメラが人物の前に回ることが多い。対立でもなく、対峙でもなく、被写体の前で立ちすくむカメラ。そんな印象を受ける。

答えのない過酷な生を、人々の声が和らげる。佐藤真はインタビューすることを恐れない。インタビューの一つ一つが説明に堕することがないのは、人の声自体を「できごと」として捉える感性ゆえだろう。

一度お会いしたかった。

濱口竜介(映画監督『悪は存在しない』)

滂沱の涙を流しながら、あたまは、霧が晴れるように澄み渡っていくのを感じた。 清田麻衣子(里山社)

滂沱の涙を流しながら、あたまは、霧が晴れるように澄み渡っていくのを感じた。 清田麻衣子(里山社)

すべては佐藤真さんから始まった。
と言っても過言ではないくらい、いまの私の本づくりに至る動機、指針、視点は佐藤真さんによるものだ。テーマやイデオロギーを頭に置きながら、いったんそれを捨てて、目の前のただの人、何気ない日常の細部に目を凝らす。深刻なテーマにも笑える瞬間があっていいし、相反するように見える要素に繋がりを見出すことはよろこびだ。

付き合いたい人もやりたいこともわからなくなって、混乱の只

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もうこれ以上は踏み込めない、ぎりぎりのところで一人のひとの「生」を垣間見てしまう瞬間 小森はるか(映像作家)

もうこれ以上は踏み込めない、ぎりぎりのところで一人のひとの「生」を垣間見てしまう瞬間 小森はるか(映像作家)

佐藤真さんが探求し続けた「日常と隣りあわせにあるもうひとつの世界」。佐藤さんの映画でしか感じられないその世界が、確かに在るのです。それが映像に残るのは怖いことだと気付かされもしますが、心の深いところで感情が揺さぶられた一瞬を、あれは何だったのだろうと引きずってしまう気持ちにも正直になっていきました。もうこれ以上は踏み込めない、ぎりぎりのところで一人のひとの「生」を垣間見てしまう瞬間。なぜ人の暮らし

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画面越しではあるが、じぶんのどこかと接続し、こちらの生と関わった 小田香(映画作家)

画面越しではあるが、じぶんのどこかと接続し、こちらの生と関わった 小田香(映画作家)

『まひるのほし』に登場する知的障害者と呼ばれる方々が表出するものや、その人たちがものを生み出しているシーンを見ていると、気持ちや思考を含めた、からだの中にある何かが既存のコミュニケーションの中で表現できないとき、人は身体の外の紙やペン、絵の具、言葉で世界や他者と接続しようとするのかもしれないと感じる。

知的障害者と呼ばれない人間は、コミュニケーションのために身体の外にピタッといくつものコードを身

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生きていると佐藤真監督の映画のことを不意に思い出す。 深田晃司(映画監督)

生きていると佐藤真監督の映画のことを不意に思い出す。 深田晃司(映画監督)

生きていると佐藤真監督の映画のことを不意に思い出す。阿賀の景色、花子の笑顔、パレスチナの難民たち。それら映像の記憶の断片はノスタルジーから遠く現在と生々しく接続している。

なぜそう撮ったのか。なぜそう繋いだのか。なにを撮らずにいたのか。なにを撮れなかったのか。 三宅唱(映画監督『夜明けのすべて』)

なぜそう撮ったのか。なぜそう繋いだのか。なにを撮らずにいたのか。なにを撮れなかったのか。 三宅唱(映画監督『夜明けのすべて』)

なぜそう撮ったのか。なぜそう繋いだのか。なにを撮らずにいたのか。なにを撮れなかったのか。あるショットから次のショットへ、そのすべての変化が、新たな発見として、新たな応答として、そして新たな問いとして迫ってくるように受け止めています。

自分なりに考えてきたつもりでも、いままた見直すと、まだまだぜんぜん受け止められていないことに気づき、新たな問いばかり見つかります。

レトロスペクティヴの開催を嬉し

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「佐藤真監督と『阿賀の記憶』のこと」矢田部吉彦(前東京国際映画祭ディレクター/映画上映プロデューサー/映画文筆)

「佐藤真監督と『阿賀の記憶』のこと」矢田部吉彦(前東京国際映画祭ディレクター/映画上映プロデューサー/映画文筆)

会社辞めたのだったら、次の映画のプロデューサーをしませんか?

現在はポレポレ東中野と呼ばれている映画館は、かつてはBOX東中野という名前だった。そのBOX東中野で、佐藤真監督が「ドキュメンタリー考座」と題された映画レクチャー講座を開いていた。2001年くらいだっただろうか。佐藤監督がセレクトした古今のドキュメンタリー映画の名作を皆で見て、その場で佐藤監督が解説をする。全10回ほど開催される「考座

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佐藤さんの新しい映画を見ることはできない。でも、やかんの湯を沸かす囲炉裏の火が消えそうになったら、誰かがそこに薪をくべることならできる。 杉田協士(映画監督)

佐藤さんの新しい映画を見ることはできない。でも、やかんの湯を沸かす囲炉裏の火が消えそうになったら、誰かがそこに薪をくべることならできる。 杉田協士(映画監督)

佐藤さんの新しい映画を見ることはできない。でも、やかんの湯を沸かす囲炉裏の火が消えそうになったら、誰かがそこに薪をくべることならできる。

いつでも泊まりに来なさいと声をかけられたように錯覚してしまう。
パレスチナ難民キャンプで、阿賀野川の流れる村で、佐藤真さんのチームが声をかけられたように、佐藤さんの映画からもそのような声が届きそうな気がしてしまう。
佐藤さんの新しい映画を見ることはできない。で

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無意識に持っている枠、既にある解りやすさに落とし込もうとするような軽率な手つき、考えの無さを見逃さなかった 飯岡幸子(撮影監督/『すべての夜を思いだす』『偶然と想像』)

無意識に持っている枠、既にある解りやすさに落とし込もうとするような軽率な手つき、考えの無さを見逃さなかった 飯岡幸子(撮影監督/『すべての夜を思いだす』『偶然と想像』)

佐藤さんは、生徒たちが撮ってきた映像に対して、こうしなさいああしなさいということを全く言わない人でした。

初めてカメラを持ったような私達が撮ってきた、振れていたりピントが外れていたり、そもそも何を撮っているのかすらよくわからないような映像を、どうやら佐藤さんは本気で見ていた。そして、撮った本人も気が付いていないようなその映像の面白さや美しさを見逃さず、同じように、撮り手やドキュメンタリーという形

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絶望の中で希望を見ようとしたサイードに励まされる 川上泰徳(中東ジャーナリスト)

絶望の中で希望を見ようとしたサイードに励まされる 川上泰徳(中東ジャーナリスト)

エドワード・サイードの生涯と彼の言葉をたどりつつ、映画はパレスチナ人とイスラエルのユダヤ人の経験に分け入っていく。イスラエル占領下のヨルダン川西岸で、レバノンの難民キャンプで、そして、イスラエル国内のアラブ人の町で、パレスチナ人たちはサイードと同じく「居場所のない存在」を生きている。一方で、ホロコーストによって親戚のほとんどを失ってパレスチナに移住してきたキブツのユダヤ人や、イスラエル建国でシリア

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「あの旅で変わったよね!」と嬉しそうに私に言ってくれた大人 秋田祥(映画上映企画)

「あの旅で変わったよね!」と嬉しそうに私に言ってくれた大人 秋田祥(映画上映企画)

スクリーンを目の前に、20歳のときにした一人旅を思い出す。自分で自分が大きく変わったことを感じて興奮していた、そんな特別な旅からもどった私に「あの旅で変わったよね!」と嬉しそうに私に言ってくれた大人は佐藤さんだけだった。

京都の大学で「ドキュメンタリー映画の地平」を噛み砕いて教えてくれていた佐藤さんとの記憶は、些細な会話が多い。私が作品と真剣に向き合い始めたのは佐藤さんがいなくなってからだったけ

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