滂沱の涙を流しながら、あたまは、霧が晴れるように澄み渡っていくのを感じた。 清田麻衣子(里山社)
すべては佐藤真さんから始まった。
と言っても過言ではないくらい、いまの私の本づくりに至る動機、指針、視点は佐藤真さんによるものだ。テーマやイデオロギーを頭に置きながら、いったんそれを捨てて、目の前のただの人、何気ない日常の細部に目を凝らす。深刻なテーマにも笑える瞬間があっていいし、相反するように見える要素に繋がりを見出すことはよろこびだ。
付き合いたい人もやりたいこともわからなくなって、混乱の只中にいた二十歳のとき、六本木のシネ・ヴィヴァンで『まひるのほし』を見た。滂沱の涙を流しながら、あたまは、霧が晴れるように澄み渡っていくのを感じた。なぜこう繋ぎ、なぜ音を際立たせ、なぜここでシーンを切るのか。その、ひそやかだが明らかな意図それ自体に、胸を掴まれていた。
佐藤さんが映画をつくるように佐藤さんの本を作りたいと思った。
それがすべての始まりで、私はひとりで里山社という名の出版社を名乗り、いまも本をつくっている。
佐藤さんの映画には、映像にも、手法にも、その細部まで思想があり、哲学がある。人間の多面的魅力、異なる考えや生き方を送ってきた人の意外な魅力に気づくことの豊かさに関心を注ぐこと。
しょっちゅうわからなくなりながら、いつも結局、佐藤さんに立ち戻る。
編集者 清田麻衣子(里山社)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?