妄想 あるアーティストの生涯

僕はもう30も半ばになるというのにあまりに自分が描く絵が箸にも棒にもかからないので他人には見せたくなかった自分の秘めたる欲求を全開にした絵を描いてみる

ヤケクソでSNSに投稿

絵がバズる

複数のデザイン、アート関係の会社から声がかかる

有名アートイベントの会社の仕事があったので受けてみる

スターバックスで打ち合わせ

美人女性営業マンがくる

大規模アートイベント用のデザインとして絵を描いてくれと頼まれる

ギャラは◯◯万

営業の美女とライン交換、スタンプ付やりとりでテンション爆上がり

人生が動き出した!と鼻息荒くがんばって絵を描く

完成した絵をメールで送る

称賛の嵐

大規模アートイベントで使われた自分の絵を眺め、しみじみ続けてて良かったと報いの時に浸る

イベント当日から堰を切ったように色々な活動、関係者と交流し、仕事が舞い込む

海外のアパレルデザイナーやアーティストとのコラボやヨーロッパアートフェスの参加や最先端テクノロジーを駆使したウェブのアートデザイン、グッズ、雑誌の表紙、インタビュー等

幸福な多忙に追われやがて瞬時の成功と更に研ぎ澄まさなきゃいけないプロとしての高次元思考の日々に自我が追いついていく。ついにやった、ついに

自分は社会でアーティストとして一定の地位と信用を得て他のアーティスト志望者からの憧れや羨望の的となり、そこに甘んじない更なる高みを目ざすレジェンド途上者になった

そんな折都心の一等地の豪邸で開かれる有名人も来るパーティーに呼ばれて行く

アートイベント企画者の一人である黒髪系美人(ハーフっぽい顔の)の女の子がとても絵に感動してくれたようで目を輝かせ積極的に連絡先を交換してきた

仕事やプライベートな悩みを聞くようになり、僕のアートを全力で応援したいと言ってくれて、嬉しかった。
いつのまにかおはよう、お疲れ様、おかえりと言い合う仲に

ちょっと変わった珍スポット(廃墟、工場)など捻ったデートをするようになる

マイナーだけど尖っててカッコイイ海外アーティストの絵を観に六本木のギャラリーに一緒に行った帰りに公園に行く

暗くなってきたからベンチに座る

彼女は僕の芸術論を熱心に聞き、聞くだけでなくそれなりに説得力のある美学や芸術哲学をお返ししてくる

芸術の最先端に何が在るかを互いに共有し、高め合えてる感覚になる

ほっこりとした話に移行してから安心したような相手の態度に僕も優しい態度で望むと相手が頭を僕の胸に預けてきた

髪を撫でると気持ち良いと言ってきた

そのままキス〜Dキス、相手の舌が僕の口の奥まで伸びて絡みついてきた。この時を待ってたかのように。熱望してるようだ

六本木のホテルに行きセックスが始まった

選ばれた人間しか入れない領域に足を踏み入れた気がした

こんな美人とこんな高級ラブホテルでセックスできる人生に感動した

感じてる彼女の顔も絵画のように美しい
彼女の体は細く靭やかでマネキンの如く白かった
それは無機質とさえ思える美しい肌で触るとマシュマロのように柔らかく滑らかだった
いつまでも撫でていたい慾望に駆られた
かなりの経験者らしく男が激しく喜ぶような色んなエロい姿勢を熟知してて絶妙なアングルで見せてくれた
まるで体感型AVだった
ポイントポイントで激しくうねる腰の振りに感動した。
とてつもない世界にいけた気がした
完璧だった
僕は骨抜きになり、付き合いたいと告白する
相手は一瞬何かを考え、頷く

そこから彼女と付き合いについてのマナー確認が行なわれる
お互いに大事な仕事の時に私情の連絡はしない、その間相手について考えてることがあるならその後しっかり言い合い、とことん話し合う、お互いのダメなところがあるなら否定せず補完し合う、日本のアートを壊すつもりで一緒に頑張るなど意識の高い現代的なカップルを目指すように互いのルール結んでいく

最高の日々が始まる

何を描いても称賛されていく。僕がただ絵を描くということがみんなにとっての歓びというような感じすらした

高額なギャラが多方面から入ってくる

都内の一等地にマンションを買い、意識の高いオシャレ家具、インテリアを買い揃えていく。 それらを選ぶ彼女は至福の中を泳いでいるようだ

最先端アート情報通しか知られてない穴場の店やクラブに出入りする。
そこに来ているカップルやグループも有名アーティスト等の関係者やイベンターなど「社会に選ばれた者達」ばかり。そこで知り合った人達と一緒にコラボやイベントの話がまた生まれてそこと繋がってる業界関係者を巻き込んでいき大きな波にみんなで乗っているようなまるで世界の中心にいるような感覚に陥る 

そんな物語の登場人物のような浮かれ浸る日々を過ごし、ついに彼女と結婚をした

多忙の中にもしっかり浮かれる要素がある素晴らしいアートライフの中仕事の関係者からいつものようにパーティーに呼ばれる

僕の熱心なファンが数人いるパーティーだという。僕はまた浮かれてそのパーティーに行ったら今の彼女とはまた違うアイドル系のロリ系美少女やグラマラスなお姉さんがいて目をキラキラさせていた。

僕はすっかりデレデレになり、ヨイショしてくれるスタッフや関係者も相まって思い通りの空間と展開にした。僕の増長した権力を実感した。
僕の一言をまるで啓示のように扱う美少女達。神になった気分だ

ロリ系美少女の押しは強くあっという間に連絡先を聞かれた
グラマラス美女は見かけによらず少し恥ずかしがり屋のようでモゾモゾしていた

だから僕が連絡先を聞くと目をウルウルさせて喜んでくれた。そこから放たれるフェロモンは異常で、理性がその場で崩壊しそうだったがロリ系のオタク美少女がこちらに目を光らせてたので互いに少し離れた

華やかな世界のパーティーも今は羽目を外すというのは御法度だそうで早めの時間に解散したがしっかり連絡先はゲットしたので実質的には時間差で羽目を外すことになる。
人間世界の本質は変わらない

彼女(嫁)とオシャレイチャラブな日々を重ねながら過ごす内についに子供を作る話が出てきた

子供が可愛いという簡単な話ではなく、子供がいた方が感性は研ぎ澄まされ、更に開拓されていく。子供がいた方が今は社会的信用度のレベルが全然違う。などの話を聞かされ、現代の子供の在り方の根本を問うような切り口で子作りを提案される。
これも嫁のアートな一面なのだろう

僕はこの流れには逆らえないと潔く承諾し、嫁とのエロいセックスもどこか味気なく感じ始めながらこの幸福を噛み締める事に集中して子供を作った
男の子だった

これからはアーティストであり、父親アーティストであるという2つの顔をもっていかなきゃいけない、成功者はこうなっていくものなのだと自分に言い聞かせて成功した責任に押しつぶされないように、まだまだこれからだと気を張った

身籠った嫁を余所に僕は以前パーティーで知り合ったロリ系美少女と連絡を交わしていて、所々のロリエロい言葉遣いや送りつけられる際どい自撮りで少しずつ理性を壊されていた

ある日ロリ系少女が病んだらしく僕はお人好しとスケベ根性の両方でライン対応していたら調度用事で近くにいるから来てと言われた

行ったら今流行りの地雷系ファッションでかなり際どいスカートや肩出しに僕はわかりやすく興奮した

えへへへといたずらっ子のような幼い顔を見せてさっきのは何だったんだと突っ込ませる隙もなく僕にいきなり抱きついてきた
まるで無邪気な妹を演出してるようだ
そこから事は早かった

彼女が身体を押し付けてきて理性は崩壊し近場のホテルに行き激しく背徳的なセックスをした
相手は支配されたいタイプらしく何をしても喜ぶような変態っぷりだった
近親相姦してるようなドス黒い興奮が病みつきになりそうだった
世間が暗黙の了解で共有してる負の一面を知った気がした

事後に僕は当たり前の事を申し訳無さそうに言った。僕は結婚してて子供がもうすぐ産まれると

そしたらロリ系少女はキョトンとして何当たり前のことを言ってるのというような返答をした

彼女になろうとなんて思ってない、貴方に相手してもらえるだけで私は幸せだと
むしろ奥さんも子供も大事にしてほしい
私のことは気が向いたら構って、こうして抱きしめてほしいと言ってきた

僕は人間世界のヒエラルキーがハーレムそのものだということを稲妻の如く実感した

猿の世界と何も変わらない。道徳や法律や宗教がどう足掻いても変えることができない絶対なる力の法則がこの世界を支配してると彼女のキョトンとした返答から悟った

僕自身頭の栓が飛びそうな快感を絵が成功してからというもの何度も体験しているがそれ以前にはこんな経験はもちろん全く無く、むしろそんなものは存在しないと認識の内に入ってなかった。いくらなんでもそこまで世界は理不尽じゃないだろと思ってたら想像を超えていた
世界は天国と地獄が同居していた

そこから嫁、無事産まれた息子とのオシャレアートライフ、片やロリ系美少女やグラマラス女性、その他セクシー外国人や清楚系主婦、ピアスタトゥー狂のボーイッシュ美女との背徳的なセックスにハマる

すっかり作業化した自分の画風を求める業界の仕事を思考停止でこなしつつ以前のようなハングリーさや求道心が失われていってること、この天上に居ながら背徳的な生活がやめられないことが悩みになり始める(いや、世界はこーなっているんだ。自分は何も悪いことはしてない、選ばれただけだからコレで良いのだ!)

除々に最初の評価ほど大きな反響はもらえなくなっていく

名前だけで呼ぶ業者が増え始めて、ホンモノを求める関係者からソッポを向かれ始める

仕方なくマネージャーが繋いだニセモノの仕事をこなしながらプライドは崩れていきつつも、俺はまだ世間の奴らよりはるかにレベルの高い美女とヤッているという惨めなものに堕ちていく

ロリ系美少女やグラマラス美女その他一級品美女から返事が来なくなる

嫁は評価を落とす一方の(多分浮気も察している)僕に幻滅しつつもそれを態度に出すまいとしっかりとした母の姿で子育てに勤しみ、僕の仕事や生活の手助けもする。(愛は感じない)

嫁の中にはもう子供しかいないようだ。
嫁にとって僕は公的な私有ブランドのマークでしかない
おそらく嫁も他の男性と婚外恋愛をしている
だから僕も遠慮なくやらせてもらうというヤケな気持ちになっていく

僕等の繋がりは天上で華やかな生活を維持させるという義務になった

やがてニセモノの業者からもソッポを向かれ始め、業者のやんわり断る態度に苛ついてラインで当たり散らすという醜態を晒し始める

僕が苛立つ日常に嫁は即座に子供に悪影響という常套句で息子を連れて別居行動に出る

孤独になった僕は酒とまだ自分を慕う一部の関係者、そこにぶら下がってくる寂しい女の子に溺れながら日々をすり減らして過ごす

程なくして嫁から離婚と親権主張の連絡が来て、承諾する(最期に嫁の顔を見た時、こんな顔してたか?というような全体的に疲れて不機嫌で浮腫んだ顔になっていた事が気になった。印象の変化は当時の浮かれ補正が解けたからなのか時間やストレスによる変化なのかは定かじゃない)

やがて新しい流行りを生み出すスターが次々と芽を出してきて僕はすっかり過去の遺物でありレジェンドにもなれなかった惨めさを中年の辺りから感じ始める

僕は全てを捨てて1からやり直したいと思いアート関係者と全て関係を切り、マンションから田舎の借家に引っ越し絵の仕事を始めようとするが誰も僕のことはわからず、知っていても僕に紹介する仕事は無いと言ってきた

都心で最先端のアートを創出してきたのにとここでも世の不条理を見せつけられる

仕方なくパソコンの事務処理の仕事をパートでやるが自分が他者を見下し快楽に溺れて傲ってきた部分が見え隠れするのか他の若い子や先輩から距離を置かれる

何をしてもうまくいかないと酒に溺れて仕事もいかなくなり、過去のアート関係者各位に連絡しても 
「あ、こいつからライン来た、忙しいのにメンドクセ、気づかないフリをしよう」
という態度がまるわかりの未読スルーをくらうだけだった

自殺を考えるが死ぬ勇気も無かった。テレビやネットニュースで連日でてくる世間の苦労や地獄が僕の浮かれ狂った記憶を叱責してくる

お前が天上で遊び呆けていた時に地上では苦しく、悲しくもしっかり前向いて生きてる人達がこんなにいたんだぞ と

僕は心を根底から入れ直したいと仏教の本を読み耽る

咄嗟の浅知恵で身につけた釈迦の教えを理解した気になって自分をマインドコントロールする練習をする

パートに行き、断酒をし、女のことを考えず人生の真理に思い耽ることを日常としつつ、そこで経た気づきらしきものをブログに書き始めた

洗いざらい自分の過去を告白し贖罪するブログ
一度成功した人がその後転落してどん底から這い上がりました的な悟り系ブログ

過去に自分のファンだった人達が懐かしさ相まって広めてくれたこともありかなりのビュアー数を誇る

講演会依頼などもくるようになる

自分はここからだと這い上がりを決心する

地方講演含め色んな大学や講堂で堕落した有名アーティストとしての経験、性と上流階級の快楽におぼれた経験、釈迦の教えとどん底で見えた自分の経験の共通点などを様々なものに例えながら話す

アートと堕落と釈迦という組合せがウケてまたそれなりの収益を得るようになり、書籍化、NPO法人との連携など支援、啓発方面から色んな話が舞い込んでくる

前と違って成功はしても聖人のように生きなきゃいけない、葛藤しながらもおそるおそるそれらの話を受けていく

講演するようになり、この社会の理不尽な境遇弱者の為にある団体や業界が自分みたいな蘇生系聖人風タレントを利用してのし上がろうとするハイエナだらけだということを知る

困ってる人達と困ってるフリをしてる人達とそれらを支えようとしてるフリをしている人達の間に立ちながら良心の呵責に苛まれる

公金と地獄見てから聖人に再誕しました風の著名人を利用するハイエナ達、そうとわかっててそれにのる僕は実は中身は何も変わってない傲慢な堕落者のままであると知っているが後戻りはできないのでそのままいく

講演会後の懇親会でブログで僕の存在を知り話を聞いて感動したという女子アナ風の美女と知り合う

彼女はバツイチ子持ちの30代で元夫はDV気質だったらしい

連絡先を交換してから以前よりも落ち着いた悟ってる風のやりとりをしつつちゃっかり男女の距離感をお互いに詰めていく

やがて彼女の家に行くようになり子供とも触れ合い第二のパパになる雰囲気が出来上がる

彼女にとってセックスは過去の闇を思い出してしまいながらも自分の背徳性を発露できる甘美で危険な行為であるが故に初めは遠慮しつつしっかり最後は乱れる様がとてもエロく僕は久しぶりに脳の栓が飛ぶような興奮を味わう

連れ子ともなんとかうまく打ち解けて三人で旅行に行ったりと以前ほどぶっ飛んだ天上の遊びはできなくとも質素で幸せな日々を送っていた

ようやくここに辿り着いたと安堵した

絵で世界を獲ってやろうと息巻いてた自分を懐かしく思いながら人生で最も大切なものはコレなのだと自分の身体から血みどろの大きな武器が剥がれた落ちたような気持ちになる

アーティストである前に人間なのだと覚った

子供が大きくなるにつれ次第に周りとうまくやっていけない発達障害を抱えている子だということがわかる

僕等は動じずしっかり社会のセーフティーネットを使って子供に生きやすい環境を作っていくことに抜かり無かった

やがて子供が僕らの目を盗んで悪い子数人とネットでいじめをしていることがわかる

自分がやられてきたことをなぜ人にやるのと叱責しても知らん顔 そしてまたネット虐めを繰り返し同級生を不登校にしてはざまあみろと喜んでいた

何度も詰め寄りやめろと言ったがその度に知らん顔、完全に舐められている。子供のくせにここまで嫌な大人みたいな顔するのかと絶望しボコボコにしたくなる衝動を抑えなきゃいけなかった
今の時代はこれ以上は責められない 
もどかしい

彼女は自分の子供の本質が前夫に似てるとわかってきてから病み始め僕に心を閉ざすようになった

僕に時々激しく当たり散らすようになり、僕は家に帰るのが嫌になってきた

そして実際に帰らなくなり、仕事へのモチベーションも下がっていって次第に講演する機会も無くなっていった

やがて彼女から別れの連絡がきた そして子供が荒れた原因はなぜか僕にあると結論付けたらしく、僕がいなくなってからは健やかに育っていると言ってきた 全部壊してやりたくなった

二回目の成功の果てにもこーゆう結果が待っていた

僕を慰める女も仕事もファンも友達もいない

僕の再誕聖人ごっこはここで終わり
自殺のことしか考えられなくなり1日中ずっと川や海や高いところから地上を眺める日々を送った
楽になりたい
それだけだった

病院に通うようになり、僕は鬱病の薬と抗不安薬をもらい、障害者手帳をとる

僕は郊外の障害者支援施設に通うようになり、ここで50の誕生日を迎えた

そして僕の今までの快楽に漬けられた脳みそは障害の状態にあることを改めて自覚し、これからはこの中毒症状を患った脳を麻痺させながらうまく生活していくことが目的となった

僕のまわりにはいつのまにかボーっと宙を眺めるおじさん、独り言を言ってるおばさん、どこを見てるのか何を考えてるのかさっぱりわからない老若男女でたくさんになっていて、僕もその一人だった

成功による快楽と万能感は脳を破壊する麻薬だった 僕が求めたものは脳を壊すだけの劇薬だった
それを経験した僕はラッキーなのだろうか?

世の中には知らないことのほうが良いということがあり、それの究極が社会的成功により与えられる合法麻薬(上流のハーレム)なのだろう

僕はこれから壊れた脳を薬で支えながら質素に平和に生きていきたい

施設に綺麗なスタッフのお姉さんがやってきた

僕はワンチャンあるかなと視線を向けるがすぐさま逸らされる。それを繰り返し 
露骨にそのスタッフに嫌われ避けられるようになる

その度に強く落胆し、自傷したくなる気持ちを抑えて薬を多目に飲みボーっと宙を眺める

フワフワして気持ち良い ハンモックで揺られているようだ。そしてそのまま歳をとっていった

他の同い年の人達はしっかり働いてる頭でハキハキと会話をしていて、とても楽しそうだ。仕事や趣味もバリバリやっていて毎日が楽しくてしょうがないと語っていた。
見るもの全てが美しく新鮮になって、生きていることに感謝しかないとも語っていた。人生の完成を彼らに見た。

気がついたら僕は老人になっていて、僕の薬の量も増えていった 身体の薬、目の薬、鼻の薬、脳の薬、胃の薬、腸の薬...
僕の身体は僕の言うことをきかなくなっていった

僕は介護士に素早く事務的に朝昼晩のやることを処理されつつ動かされながら物思いに拭けることすら無いままフワフワと宙を見ていた。
毎朝毎晩何かわからない変な色のスープを口に入れられて過ごした

美人なスタッフはどこにいったのかまた新しいスタッフさんで誰がどうなったのかまったくわからなくなっていった

時間はどんどん早まっていって景色が全部1つに溶け始めていくようだった

何がなんだかなにもわからず、わずかな身体の感覚と浮遊感と、時折走る激痛に嗚咽が漏れるだけの時間

次第に僕は横になって考えることも無くなったから寝るばかりになった

夢の中で僕は絵を描いていた 思い通りになっていく手元が楽しくてしょうがなかった
白い画用紙の上で神様になっているようだった
全てここから生まれてきていた

やがて僕の描いた絵が少しずつ消えていって真っ白になっていった

描いても描いても消えていって真っ白になっていった 
僕の目の前も僕も真っ白になっていった

今何を思ってたか忘れて、そのことも忘れて、忘れて

呼吸音だけ聞こえてきて、それ以外何も無くなった。そしてやがて全て止まった