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エッセイ

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今までの日々や、ささやかな僕の奮闘を書いていければと思います。
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#自由律俳句

「#14 また浴衣の女性とすれ違いスマホを開く」

「#14 また浴衣の女性とすれ違いスマホを開く」

まだ上京したばかりの頃は、知り合いも少なく事務所から振られる仕事もほとんど無かった。バイトの面接を受けても感触は悪く、実際に採用の通知連絡もなかった。たまにしっかりとした会社は不採用でも連絡をくれるのだが、電話を切った後の自分が急に不採用の人となって鏡に映し出されるのが恥ずかしかった。
ようやく合格したのはブラック企業のコールセンターで、バイト全員が恐れ慄く社長の口癖は「人を動かすために最も必

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「#13 市民プールの匂いが自転車を加速させる」

「#13 市民プールの匂いが自転車を加速させる」

自転車用のチャイルドシートに座る僕の視界は、父親の背中で遮られ良好ではない。いっそのこと目を瞑って、聞こえてくる音と、漂う匂いと、肌に触れる感覚を頼りに、自分の周りに広がる景色を把握しようと試みる。自転車が前方に少し傾きスピードを増すと、ぬるく漂っていた空気が頬をさらりと撫で、油の切れた耳触りなブレーキ音と共に、電車の通り過ぎる音が頭上で大きく響いた。駅前の坂を下ってから高架下を通り抜けるこのル

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「#6 口笛を吹いて気まずさが増す」

「#6 口笛を吹いて気まずさが増す」

若い頃は好きな人達や、気の許せる仲間達と酒を飲んで過ごしていれば良かったけれど、年齢を重ねるに連れそうもいかなくなって来る。
上司や先輩などに誘われた場にあまり面識のない人がいることもあるし、友人と飲んでいても、「今なんか久しぶりに友達から連絡来てんけどここに呼んでもいい?」とか、「ちょっと難波君に紹介したい人がいるんだけど、ついでに誘ってもいい?絶対気が合うと思うんだよね!」なんてやり取りが

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