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エッセイ

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今までの日々や、ささやかな僕の奮闘を書いていければと思います。
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2021年3月の記事一覧

「キャプテン」

「キャプテン」

小学三年生になると、僕は学童を辞めてサッカー部に入ることになる。
キャプテン翼の影響でサッカーに興味を持ち、入部が許される小学三年生になって、ようやくちゃんとサッカーの指導を受けられることに、僕はワクワクしていた。それまでは団地の下で、一人壁に向かってボールを蹴るか、三〜四人の友達と狭い路地で、ただ飛んできたボールを蹴って奪い合うだけの、サッカーと呼ぶには余りにもお粗末な遊びの経験しかなかった。

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「100円の旅」

「100円の旅」

母親にもらった百円玉を、握りしめて駄菓子屋に行く。
子供の頃の僕らにとって、それは旅に出る前の準備を整えるような場所だった。
様々な駄菓子を手に取り、吟味したうえで、その日に買う駄菓子を決める。その選考はブラジル代表のスターティングメンバーを選ぶのと同等に難しく、二十円のスナック菓子二つを手に取り「今日、本当に食べたいのはどっちなんだ」と、自問自答するように目を閉じたりしていた。

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「放物線」

「放物線」

思いがけぬ展開で始まった学童生活だったけれど、それは僕が想像していたような最悪なものではなく、とても楽しい時間になった。
学童には同級生の児童ばかりではなく、四年生や五年生という年上の児童が数人通っていて、とくに二つ上のシモッコと、三つ上のフジイ君は、僕を弟のように可愛がってくれた。

いま思えば、きっと二人が僕のわがままを聞いてくれていただけなのだが、同じ歳の児童よりも、僕の言っているこ

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「生まれ変わる準備」

「生まれ変わる準備」

小学校に上がると学童に通うことになったのだが、初めて学童に連れて行かれた日のことを、僕は保育園に初めて連れて行かれた日と同じように鮮明に覚えている。
保育園の時とは違い、小学一年生の僕は学童がどんな場所なのか、どうして自分が学童に通わなければ行けないのかをちゃんと理解していた。

その日は、家を出るまで降っていた雨のせいでアスファルトは濡れ、空はどんよりとした灰色の雲に覆われていた。

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エッセイ「恐怖の凧揚げ」

エッセイ「恐怖の凧揚げ」

稲刈り後の田んぼに集まり、皆で大空高く凧を掲げる。そんな凧揚げが怖くて仕方なかった。
友達が操る凧ですら隣で見ていて足がすくんだし、今こうして凧揚げのことを想像しただけで手にじっとりと汗をかいてくる。

当時は友達に凧揚げをしようと誘われて、「いやちょっと俺は凧揚げるの怖いからやめとくわ」なんて口が裂けても言えなかった。
大人になった今なら意外と皆が賛同してくれるはずだと思っていたが、「子

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エッセイ「肉嫌い」

エッセイ「肉嫌い」

僕は肉が嫌いで、間違って口に入れ噛んでしまうと、そのままゲロを吐いてしまう体質である。
ただ通常、嫌いな食べ物は口に入れたく無いだけでなく、匂いを嗅ぐのも、目の前に置かれるのも嫌だという人ばかりだが、僕は肉を美味しそうだと思ってしまう。
肉が焼かれたいい匂いや、網の上でジュージューと焼かれた肉の音に食欲を刺激される。だから焼き肉屋に行くのが大好きで、皆んなで行くと一人肉を食わず、キムチとチャ

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