マガジンのカバー画像

【失業】第一話「ハローワーク」~第三十八話「出航前夜」まで

40
突然の失業からワークショップ、シェアリングコーヒーショップ出店前日まで。
運営しているクリエイター

2024年5月の記事一覧

第十六話「石は転がり始めた」2024年5月29日水曜日 晴れ

第十六話「石は転がり始めた」2024年5月29日水曜日 晴れ

 台風は通り過ぎていた。時折風が強く吹くが湿り気のないさわやかな陽気だった。
 東京下町の問屋街に来ていた。ひょんなことから知ったシェアリングコーヒーショップへ見学がてらコーヒーを飲みに来ていた。
 店は同じだが毎日店主が変わるという珍しい趣向の店だ。いつかは自分の店を持とうと挑戦している者たちが開業前に試行錯誤する場を提供するサービス。都内に2店舗ある。そのうちの1店舗に訪れたのだ。
 カウンタ

もっとみる
第十五話「セミナー参加」2024年5月27日月曜日 曇り時々雨

第十五話「セミナー参加」2024年5月27日月曜日 曇り時々雨

 台風1号が北上していた。雲の流れが早く時々雨がぱらついている。
 私は区が開催する創業セミナーに来ていた。月曜日の夜にも関わらず定員40名の席はほぼ埋まっている。高校生と思われるグループから定年世代の老若男女が集まっていた。
 創業を考えている者、創業して間もない者へ向けての潰れない店舗を目指す、その準備がテーマであった。私にはちょうどいい。
 講師は私よりやや年上の女性だが、とても若く見える。

もっとみる
第十四話「船長へのプレゼン」2024年5月24日金曜日 快晴 真夏日

第十四話「船長へのプレゼン」2024年5月24日金曜日 快晴 真夏日

 健康食材カフェでアルバイトも4回目になる。洗い物や調理補助から盛り付けへと学ぶことも増えていく。10年近く飲食業で働いているが、体系的に学んだことはない。その店その会社のやり方に沿って働いていただけだ。飲食のプロフェッショナルとはどうしても名乗れない。
 メインになる肉料理や魚料理を彩り鮮やかな惣菜で囲むワンプレートランチが主力商品だ。日々変わる食材と料理。食材の色がかぶることのないように配置を

もっとみる
第十三話「三度めのハローワーク」2024年5月22日水曜日 曇り

第十三話「三度めのハローワーク」2024年5月22日水曜日 曇り

 ハローワークまで今日も歩いた。徒歩30分にはちょうどいい日和だった。
 今日の訪所は「雇用保険受給資格者証」を受け取るためだ。これがないと国民健康保険に入れない。長年被雇用者をやっているとこの辺りの感覚が無くなる。社会保障費が給料から天引きされるのは手続き上楽だが、払っていること、払っているものがどう使われているのか?に頓着しなくなる。元々は自分の稼いだ金なのに。
 失業者の私には、この社会保障

もっとみる
第十二話「会場の下見」2024年5月18日土曜日 晴れ

第十二話「会場の下見」2024年5月18日土曜日 晴れ

 企画したイベント「直売所+ワークショップ」の下見に来た。
 私が勤めていたワインバルチェーンのある店舗近くのレンタルスペースだ。その経営者である男性はよくワインバルに飲みに来てくれた。彼流の経営論・仕事論・人事論・教育論は時には対立することあったがとても楽しい議論だった。当時、私はワインバルチェーンのいち従業員でありカウンター内に入っている。彼とは同い年であったが、彼は飲食店を20年近く経営し、

もっとみる
第十一話「企画書」2024年5月16日木曜日 晴れ

第十一話「企画書」2024年5月16日木曜日 晴れ

 仕事をしていないせいか寝つきが悪い。この先どのように生活していくのか、多くの人に助けられ甘えさせてもらっているがこのままというわけにもいかない。
 船長がカフェ事業を再開するまでアルバイト生活とするのか。
 個人事業主や法人という独立を選ぶのか。
 独立とするなら店舗型にするのか、講師業やコンサルティング業にするのか。何れにしても顧客を掴むスキルや営業力が自分にあるのか。
 今年、52歳になる。

もっとみる
第十話「親孝行と親不孝」2024年5月14日火曜日 晴れ、15日水曜日 晴れ

第十話「親孝行と親不孝」2024年5月14日火曜日 晴れ、15日水曜日 晴れ

 失業したことはまだ両親には言っていなかった。カフェ事業は二つの組織とそれぞれ立場の異なる四人のチームプロジェクトだった。その立ち上げから閉業までの経緯は、80歳を超えた両親に電話で説明しても伝わらないだろうと思ったからだ。
 カフェ閉業が閉業する前にこの帰省は決まっていた。実家は雪国の古い百姓屋である。年老いた二人にはメンテナンスが難しい。昨年あたりから定期的に帰省してはあちこち掃除したり補修し

もっとみる
第九話「打ち上げ」2024年5月10日金曜日夜 晴れ

第九話「打ち上げ」2024年5月10日金曜日夜 晴れ

 夜はカフェ営業終了の打ち上げだった。
 私が外れることにより存続するはずであったのだが、総合的な判断で一度閉業することとなったのだ。4人の見通しの甘さ、努力不足であった。
 打ち上げは、船長とN美さんと私の3人で行った。郊外にある、ご夫婦二人が営む小体な居酒屋であった。船長の行きつけの店で、東北出身のご夫婦による、東北の珍しい食材を丁寧な仕事で提供している。
「お疲れ様でしたー!」
 大きな損失

もっとみる
第八話「個人事業主、法人、それともフリーター」2024年5月10日金曜日 快晴

第八話「個人事業主、法人、それともフリーター」2024年5月10日金曜日 快晴

 朝から快晴だ。失業してから下手をすると一日10時間くらいの睡眠時間になった。元々ロングスリーパーだが、これは寝過ぎだ。身体の節々が痛い。昨晩は飲み過ぎてもいないのに身体が重い。鈍ってる。
 軽く朝食を済ませて、運動不足解消も兼ねて散歩がてら図書館に行った。
 いつか船長とN美さんがもう一度カフェを作る時には合流したいとの思いは強くあるが、いつ実現するかわからない。それまでどう生きていくか。
 失

もっとみる
第七話「相棒?」2024年5月9日木曜日 雨のち曇り 晴れ

第七話「相棒?」2024年5月9日木曜日 雨のち曇り 晴れ

 5月とは思えない、少し肌寒くも感じる空気だが、昨日までの蒸し暑さと比べればむしろ心地よかった。
 都内の飲み屋街に来た。今後の身の振り方を相談するためだった。相手はワインバルチェーンで一緒に働いた仲間だ。と言ってもワンオペの店だからシフトは被らない。お互いの休みを回しあっていただけだ。つまり、同じ時間、同じ店で働いたことはない。
 そのような働き方だったがミスを互いにフォローし合っていた。発注漏

もっとみる
第六話「再びハローワーク」2024年5月8日水曜日 曇り

第六話「再びハローワーク」2024年5月8日水曜日 曇り

 曇り空。日は射さず気温は低いのに蒸し暑い。昨日の雨のせいか。
 自宅からハローワークまでは徒歩で30分くらい。退職後の運動不足解消のため歩くことにしたが、蒸し暑さでじっとりと汗ばむ。ハローワークに行く日は不快指数が高いのは偶然だろうか。

 前回は失業前の事前相談であったためか、すぐに対応してくれた。今回は離職票が届いての受給申請なのでかなり待たされた。
 対応してくれたのは若い男性職員だった。

もっとみる
第五話「面接と面談」2024年5月6日月曜日 曇り 風強し

第五話「面接と面談」2024年5月6日月曜日 曇り 風強し

 西日本から天候が崩れていくという予報があった。九州地方は風雨の警戒レベルが高いそうだ。
 関東も雲が厚くなり、刻々と風が強くなっている。幸い雨にはならないようだし、風に電車が止まるほどの強さはなかった。
 午後3時。私は都心から離れた私鉄沿線の街のカフェにいた。面接のためだ。
 屋号にカフェとあるが実際はランチタイムのみの営業。健康的な食材によるランチ、コーヒーやハーブティーはそのオプションとい

もっとみる
第四話「途中下船」2024年4月30日火曜日 晴れ

第四話「途中下船」2024年4月30日火曜日 晴れ

 私がこのカフェから退職する理由は、端的に言えば私の人件費が賄えなくなったからだ。
 クッキーの供給とメニュー開発、コンセプトデザインは船長、そのサポートがN美さん。カフェのスペースとカフェスタッフとしての私の人件費はバラエティショップ側が持つ。このカフェはそのように始まった。
 開業して半年。私はほぼワンオペで店舗運営を担当した。
 順調にファンは着き、売上も右肩上がりであったが正直なところまだ

もっとみる
第三話「ラストオーダー」2024年4月29日月曜日晴れ

第三話「ラストオーダー」2024年4月29日月曜日晴れ

 最終出勤日はゴールデンウィーク中の平日の通常営業。
 週末はにぎわうカフェになっていたが、開業からまだ半年。大型連休の集客数は読めなかった。レジャーにとられ、おそらくは客数も売上も芳しくないだろうと半ばあきらめた予想をしていた。
 反して、午後から客足が伸びた。しかもご新規の一名様が多い。どうやら、近隣の大型チェーン系カフェが盛況すぎて、あふれた客層を受け入れる形になったようだ。
 閉店間際、最

もっとみる